医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

虚血性心疾患の心臓核医学検査の指針

新しい心筋製剤による虚血性心疾患の心筋SPECT 村田 啓 著

《書 評》玉木長良(北大教授・核医学)

転換期にあってタイムリーな1冊

 この数年,新しい放射性医薬品の開発は目覚ましく,心臓核医学領域でも多くの新しい手法が登場し ている。しかし様々な状況下においてどのように検査を進め,その診断や治療にこれらの手法を生かすか は未だ確定したものはなく,混乱しているのが現状である。村田啓先生は日本における心臓核医学の草分 けの1人で,心臓核医学の創設期に先生の師であられる飯尾正弘先生と共著で『心臓核医学の実際』を同 じ医学書院から出版されたことを思い起こす。先生は現在の心臓核医学の第2の発展期に,新しい手法の 有用性を解説し,どのように臨床の場に応用できるかを的確に記した本を出された。心臓核医学の大きな 転換期にあって本書はまさに新しい心臓核医学に関するタイムリーな本といえる。

心臓核医学のエッセンスを要約

 まず読影に際して最小限の基礎的事項を記し,本の大半を虚血性心疾患の30例の症例提示に費やして いる。その項目は虚血の検出,予後推定,viability判定等が含まれ,臨床医にとって不可欠な項目を網羅 している。特に血行再建術前後での血流,機能,代謝・交感神経機能の解析が中心に提示されている。最 後に先生ご自身が最近まとめられた心筋SPECT製剤の有効利用ガイドラインを掲載している。内容を虚血 性心疾患に絞られたのも焦点が明確となり,本を簡潔にするのに役立っている。とりわけ心臓核医学検査 は診断だけでなく,治療方針の決定や治療効果判定など臨床に密着した利用が望まれるだけに,このよう な症例の選択はまさに心臓核医学のエッセンスを要約しているといえる。また症例のSPECTの図も鮮明で, 心電図や心臓カテーテルの図も掲載されており,臨床の場にいる雰囲気で気軽に読むことができる。特に 各症例の最後に記載されたまとめの覧にはSPECT所見や読影のポイントを簡潔に要約してあり,重要な文 献も適宜引用してあり,最も大切な領域と思われる。特にこの箇所の熟読をお勧めしたい。
 急性期の症例も数多く含まれており,今後心臓核医学検査はこのような急性期の症例の多くを対 象にする必要があるだけに,このような症例での核医学の有用性も読者には認識していただきたい。とも かく虚血性心疾患に関する心臓核医学検査の指針として最適な本といえる。これから心臓核医学を利用さ れる若干の循環器専門医や研修医には必読の書であろう。
(B5・頁112 税込定価4,738円 医学書院刊)


心身医学的問題を持つ患者に接する臨床医に

心身医学標準テキスト 久保千春 編集

《書 評》野添新一(鹿児島大教授・心身医療科)

 わが国で最初に,心身医学研究施設が九州大学に設置されたのは1961年である。そして2年後の1963 年,同施設は臨床講座へ昇格,心療内科が誕生した。以来今日まで,九州大学心療内科はわが国における 心身医学・医療の啓蒙,普及に尽力され,つねにその発展をリードしてきた。現在その功績は,国際的に も高く評価されていることは周知の通りである。
 同内科は発足後まもなく,全国から心身医学を勉強するために集まってくる医学生,医師,コメ ディカルに対して教育研修を開始,わが国の心身医学研究のメッカともなった。

心身医学を志す多くの人々の入門書

 1968年,来学の方々のために,心身医学・心療内科オリエンテーションレクチャーが教育研修用テキ スト(自費出版)として作成された。以来同テキストは,心身医学を志す多くの人々の入門書として大い に利用され,わが国の心身医学発展の礎となったのである。
 今回第6回の改訂に際し,久保千春編『心身医学標準テキスト』として全面改訂の上,全国版と して出版された。恰も本年は,予てから念願であった心療内科の標榜科名が厚生省によって認可された新 しい門出の年であり,誠に時宜を得た出版であったと思う。長年の間,改訂の仕事に携われてこられた心 療内科のスタッフの方々に改めて感謝の意を表したい。
 新版は心身医学・医療の基礎から臨床まですべて網羅されており,医学生はもとより,日常診療 に携わっておられる医師にも即役立つコンパクトな内容となっている。
 概要は心身医学総論,心身医学の基礎,心身医学的検査,心身症各論,心身医学的治療の5章か ら成る。まず,これから心身医学を志す人は心身医学の基礎,なかでもストレスと免疫,ストレス・情動 と神経・免疫・内分泌関連などを通覧することで,将来の研究の方向性を理解できると思う。

社会的にも本分野の素養を持つ医師が要請される

 医療の高度化,高齢化,ライフスタイル病の増加によって,心身医学的素養を持つことは,社会的に も今後ますます要請されてくるに違いない。これから心身医療を学びたい方は,はじめに心身医学的検査 法にあるインテーク面接,心理テストを読まれることを勧めたい。また診療中の内科患者への対応にお困 りの先生は,心身症各論を一見されれば疑問点についてなんらかのヒントが得られると思う。なお各章の 終わりにある豊富な参考文献からは,国際レベルにある心療内科スタッフの研究成果を伺い知ることがで きる。
 ともあれ本書は,これから心身医学を学ぼうとする学生,研修医のみならず,心身医学的問題を 持つ患者に接する機会の多い臨床医にとっても座右の書となり得ると信じ,一読をお勧めしたい。
(B5・頁324 税込定価9,270円 医学書院刊)


発生学のバイブル的存在

ラングマン人体発生学(第7版) T.W.Sadler著/安田峯生,沢野十蔵 訳

《書 評》塩田浩平(京大教授・形態形成機構学)

 発生学書のロングセラー『ラングマン人体発生学』の第7版が,内容を一段と充実し,装いも新 たに出版された。本書は,1963年の初版以来,世界中の医学生とコメディカルの学生たちに最も広く読ま れてきたバイブル的な発生学書で,その簡潔にして明解な記述と数々のすぐれた図には定評があり,数年 ごとに改訂が加えられて今日に至っている。原著者であったLangman博士が1981年に死去した後,ノース カロライナ大学のSadler教授が引き継いで版を重ねているが,初版以来の本書の特長はほぼそのまま踏襲 されている。Langman,Sadler両博士は,いずれも高名な発生学者であり,彼らのすぐれた識見と卓越した 構成力が,本書を類まれな名著に仕上げている。

見事な三次元イラストと走査電顕写真

 発生学を学ぶ者と教える者の双方にとって最大の難点は,三次元的な形態形成現象をいかに正しく把 握し理解するかという点である。すべての発生学書はこの点に様々な工夫をこらしているが,今のところ 『ラングマン人体発生学』の右に出る書はない。第7版には,新しいアイディアで書かれた多色カラーの 三次元的イラストと,ヒトおよびマウス胚子の走査電子顕微鏡写真が多数掲載され,実際の胚子標本を見 る機会の少ない読者にも形態形成過程を視覚的に理解できるようになっている。例えば,心内膜筒から心 臓ループができ心臓が形成されていく過程を平面図のみで理解するのは容易ではないが,第7版には心臓 形成過程を示す初期胚子の連続的な走査電顕写真が加えられ,複雑な心臓の発生を一目瞭然に見ることが できる(第12章)。同様のすばらしい写真は,顕部顔面(第16章),感覚器(第17,18章),神経系(第 20章)など随所に見られ,われわれの理解を助けてくれると同時に,発生現象の美しさを眼に見せて楽し ませてくれる。

臨床医学との関連事項を充実

 近年,分子生物学によって発生の遺伝子支配が次々に解明され,発生学が非常にエキサイティングな 学問になりつつある。一方,臨床医学の各分野においては,疾患全体に占める先天異常の相対的な比重が 増してきているが,先天性疾患の成り立ちを正しく理解するためには発生学の知識が不可欠である。本書 の各章の「臨床関連事項」では,臨床家が遭遇する機会のある先天異常の成因や特徴について説明が加え られており,また,章末には臨床医学と関連した練習問題が設けられているなど,臨床との関連を考えな がら興味深く発生学を勉強できるよう配慮されている。

原著をしのぐ日本語版の内容

 訳者の安田教授と沢野名誉教授は,共にわが国を代表する発生学者であり,特に安田教授はSadler教 授と研究上の親交があるので,今回の翻訳に当たっても,頻繁に連絡をとり合い完璧を期されたとうかがっ ている。その上,原著を補う「訳者注」が必要に応じて加えられ,難解な語には懇切な説明を,また人種 間で差のある現象については日本人固有の最新データを示すなど,読者に対して親切な配慮がなされてい る。このような書のすぐれた日本語訳が世に出たことを喜び,本書によって学生諸君と医療関係者,研究 者が1人でも多く人体発生学の面白さに触れられることを期待する。
(B5・頁424 税込定価8,498円 医学書院MYW刊)


白衣のポケットにこの一冊

外科レジデントマニュアル(第2版) 西尾剛毅 編集

《書 評》出月康夫(埼玉医大総合医療センター教授・外科学)

 本書はもともと聖路加国際病院の外科レジデントのためのマニュアルとしてまとめられたものである。 「マニュアル」とは,「便覧」,「入門書」,「教範」,「操典」などの意であるが,短期間のうちに1 つのレベルを達成するためには大変便利なものである。
 編者としてこれをまとめられた西尾剛毅氏が序文で述べられているように,マニュアル作成の1 つの目的は,ミスを起こさないための統一化,均等化であろう。

レジデントが毎日遭遇する問題点取り上げる

 マニュアルによって達成されるレベルには自ずから限界があろうが,とりあえず短期間のうちに1つ のレベルに到達することが要求されている若いレジデントにとって,本書は非常に便利であろう。項目立 て,目次立ても極めて実践的で,外科のレジデントが毎日病棟で遭遇する術前,術後管理上の問題点をと り上げて,具体的かつ簡潔に解説してある。
 「入院時の指示」,「手術前の指示」,「予防的抗生物質の投与」,「手術後の指示」では聖路 加国際病院でのルーチンが記載されているが,これさえ読んでおけば,研修の第1日目からでもまごつか ないでレジデントとしての業務が遂行できよう。「静脈栄養と経腸栄養」,「感染を持つ患者の取り扱い」 「輸血」「創傷治癒と治療」「外科的ドレナージと管理」などの項でも,一般名だけでなく商品名や使用 量を具体的にあげてあることも,レジデントにとっては便利この上ない。記述は箇条書きで最小限に抑え, 簡潔な表を多用しているが,病棟の目の回るような忙しいレジデントには使いやすいと思われる。医師や 看護婦などの針刺し事故は,忙しい病棟ではなかなかなくならないが,その場合の対策も本書のサイドメ モを見れば一目瞭然である。

鑑別診断から治療までエッセンスを抽出

 「心疾患」,「肝疾患」,「腎疾患」,「呼吸器疾患」,「糖尿病」などの患者で多く見られる病態 の把握方法や管理法,「発熱」,「吃逆」,「術後精神障害」,「電解質異常」,「術後イレウス」, 「術後下痢」,「ショック」,「DIC」など,レジデントが必ず遭遇する外科患者の病態や症候を,鑑別 診断から治療法まで,これもエッセンスだけを抽出して記載してある。
 さらに救急外来の項では,緊急処理を必要とする急性腹症,消化管出血,急性動脈閉塞,静脈血 栓,肺塞栓,熱傷などが取り上げられ,癌性疼痛,乳癌手術後のリハビリテーション,癌の化学療法,ス トーマの管理など一般消化器外科で日常扱わなければならない患者の管理についても要領よくまとめられ ている。
 巻末には,よく使われる薬剤が作用別にまとめられてあり,データファイルとして局所解剖や癌 取り扱い規約,DICの診断基準までがまとめてある。
 白衣のポケットに,これ1冊をしのばせておけば,聖路加国際病院の外科レジデントは明日から でも務まるだろうというのが私の読後感である。1つひとつの表や図に無駄がないのも本書のすぐれた点 であり,サイドメモとしてまとめられている項目も,とても気がきいている。
 研修病院によってそれぞれ少しずつ差はあろうが,それぞれの病院の事情によってほんの少し本 書に修飾を加えれば外科レジデントばかりではなく,どこの病院の外科病棟でも医師や看護婦,さらには 学生の外科病室実習にも大変役立とう。
 本書の唯一の欠点をあげるとすれば,簡にして要をえすぎていることであろうか。睡眠時間の短 い外科レジデント諸君に要求するのはいささか酷かもしれないが,まず本書をマスターした後には,外国 の外科一流誌の論文にも時々は親しんでほしい。
(B6変・頁288 税込定価3,914円 医学書院刊)


臨床神経学をフレッシュな目で把える

470のプログラム教程 神経病へのアプローチ(第4版) 本多虎夫 著

《書 評》下條貞友 聖マリアンナ医学難病治療研究センター診療部門

 『470のプログラム教程―神経病へのアプローチ』を通読した。本書の特徴は見開き2頁の左側に神経 解剖図が,右側にそれに関する重要項目が順序よく簡明に解説されていることである。著者がピット方式 と呼ぶ方程式風に極めて単純明快に記載されているので大変読みやすい。全470の教程を読み進むうちに 臨床神経学の概要が自然に整理され,身についた知識として習得される仕組みになっている。

思い切って簡略化し,必要最小限の知識を

 青と赤を含む三色で解剖図がきれいに単純化され模式図となっているのも初心者にとってわかりやす い。これまで類似のテキストは多数あろうが解剖図が複雑であったり,解説が詳細に過ぎて入門書として は必ずしも適切ではなかった。本書はこれらの欠点を考慮し,思い切って切り捨て簡略化し,必要最小限 の知識のみを箇条書きにしたところに斬新性がある。
 この方式に従って学習すれば,ともすれば難解とされる神経学の理解が意外に簡単であることに 気づく。本書は医学部の高学年とくに国試に向け勉学する学生や研修医,および卒後教育後他の分野にあ り神経学の知識を短時間で習得したい希望の医師にとっては大変ハンディで有用である。本書を2回,3回 と折りに触れ学習し,必要な個所をそのつど目を通すだけでも,臨床神経学をフレッシュな目で把えるこ とができる。そのような意味で本書を神経学入門書として,また簡易辞典代わりとして机上に置いておく ことを勧める。
 第4版の序に著者自身の本書出版の意図するところを「しっかりした基礎の上に柔軟さを持った 医師の成長に役立つことを希望する」と結んでおられる。その意味では本書は真に適切なものといえよう。
 日進月歩の医学の中でとくに神経科学は21世紀に向け目ざましい進展を遂げている。CT,MRI などの画像診断によって,われわれはいとも手軽に責任病巣の局在を直視下に把えることが可能となった。 しかし反面,あまりの安易さに慣れて,その病変の意味するところ,臨床徴候との関連に深く考えを及ぼ さない風潮が生じている。臨床医は個々の症例について本書の該当する頁を開き,改めて知識を整理する ことが望ましく,またそれこそが本書の意図するところに一致する。

学問の本質は不変である

 著者の本多虎夫氏は慶応義塾大学卒業後,米国Johns Hopkins大学でPollack教授をはじめ神経学の世界 的権威たちに師事された。帰国直後の1971年に,本書の第1版を執筆され,その後版を重ねて今回の改訂 版を出されたわけであるが,神経学に志ざした初心を貫ぬかれ,深い洞察力を持った学究の徒である。常 に真摯・控え目で温厚なお人柄がよく本書に表われており「文は人なり」の古言通りである。立派な内容 を有する事実が第4版(9回増刷)に至らしめたゆえんかと思われる。
 世界は今「Decade of brain」を唱え,それに値する画期的な知見が遺伝子連鎖解析,分子生物学の 分野で次々と発表されている。治療法のなかった神経難病にも漸く燭光が見え始めている。従来の地道な 神経病理学と臨床徴候のつき合せから築き上げられた学問の体系に大きな変革が加えられているのは確か である。しかし神経解剖と臨床像のつき合せという基本概念は変わらない。分類疾患概念に変化こそあれ 学問の本質は不変である。そのような観点から本書は神経学の良書の1つとして推奨するものである。
(A5・頁243 税込定価3,914円 医学書院刊)