医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

婦人科,乳腺細胞診の図説テキスト

カラーアトラス 女性性器・乳腺の細胞診 高橋正宜 著

《書 評》藤井雅彦(杏林大保健学部教授・病理学)

 細胞診断学に関する世界的名著である『Color Atlas of Cancer Cytology』(第2版)は英語の原本のほか,数か国語に訳され,細胞診の実用書として世界各国で広く読まれている。しかし,残念ながら日本語版はこれまで刊行されておらず,横文字の不得手な私などは不便を感じていたものである。本書はこの『Color Atlas of Cancer Cytology』(第2版)の中から「女性性器」および「乳腺」の項について日本語に書き改められたものがもとになっているが,これに最近の知見が加わるなどして内容の一層の充実が図られている。また,写真も多数追加され,最新の図説テキストとして改訂されている。

細胞像に加え病理組織像の解説・写真も

 「女性性器」の項では,子宮頸部および体内膜の細胞標本の作製法の解説に始まり,正常の細胞像,性周期における細胞変化,炎症性疾患や前癌病変,ならびに癌における細胞所見が詳細に,しかも鮮明な写真を豊富に用いて説明されている。また,細胞像の背景となる病理組織像の解説やその写真も十分に加えられている点も本書の特徴である。
 原著に比べて特に精力的に加筆されているのは,内膜細胞診の見方とBethesda方式についての項目である。近年,子宮癌に占める内膜癌の比率が増大しているが,序で著者も記載しているように,内膜細胞診は生理的変動を受け,更年期以降の個人差もあって,細胞の読み方は容易ではない。本書では性周期に伴う内膜細胞像の変化,内膜増殖症や内膜癌における細胞所見について写真を用いて分かりやすく解説しており,内膜細胞診にたずさわるものにとってかなり参考になろう。一方,Bethesda方式については,米国では細胞診精度の不信にかかわる問題から,このような細胞診の報告形式が進められている。本書ではBethesda方式についての解説にとどまらず,米国においてそれが発表されるに至った社会的背景についても言及されている。
 「乳腺」の項では,乳頭分泌物細胞診および穿刺吸引細胞診における標本作製法,正常乳腺の組織形態,細胞標本上に出現する良性細胞についての記載がなされ,また,良性疾患ならびに乳癌の細胞像について組織学的な背景を踏まえて解説されている。加えて,乳癌集検についての意義やそれに果たす細胞診の役割についても述べられているが,近年における乳癌発生率の著しい上昇を考えると,適切な記載と言えよう。

細胞診を学ぼうとする人への指導書

 本書では細胞診の専門書でありながら,文章が簡潔で要を得た記述がなされている。また,カラー写真がふんだんに使われ,しかも鮮明で,細胞形態の特徴を的確に捕らえている点は特筆すべきである。したがって,実践の書としてはもちろん,これから細胞診を学ぼうとする人への指導書としても極めて役立つ一冊であり,心から推薦したい。
(A4・頁120 税込定価7,210円 医学書院刊)


初学者から日常臨床まで,血液ガスのすべてがわかる名著

血液ガス わかりやすい基礎知識と臨床応用(第3版) 山林 一,河合 忠,塚本玲三 編

《書 評》谷合 哲(東医歯大保健管理センター所長)

 今般,旧著『血液ガス』の第3版が面目を一新して出版された。本書は初版以来既におよそ18年を経過している。初版当時は血液ガスが電極法によって測定できるようになってまだ間もなく,ようやく血液ガス検査の結果が呼吸管理の臨床に応用され始めた頃であった。それとともに,血液ガスの理論や測定に関する解説書が多数出版された。しかしそのうち現在まで改版を続けているものはこの書しかない。この書が長く世に受け入れられている証しであると考えられる。副題にあるように,本書は本来難解な血液ガスの理論を初学者やコメディカルの人たちにもわかりやすく解説してある。

酸素ステータスの概念と応用による血液ガスのダイナミックな把握

 今回の改訂では基礎編の「血液ガスの基礎知識」と,「血液ガスデータの読み方」をコンパクトにまとめて,「血液ガスをめぐる最近の動向」を加えたことが重要なポイントであろう。この中で特に「動脈血の酸素ステータスとそのパラメータ」について,血液ガス学の草分けであり,モノグラム等で有名な,デンマークのSiggaard Andersen教授に直接寄稿を受け,掲載したことがきわだって新しく,また力点をおいたところと考えられる。教授には血液ガスに関する多くの著書があるが,本書の中で最新の血液ガスについての見解を披瀝されており,初学者ばかりでなくこの分野の専門家にも啓発されるところが多いであろう。今回の論文では特に動脈血酸素ステータスという新しい概念が提示されている。動脈中の酸素は酸素分圧,ヘモグロビン酸素結合能,結合親和性,血中酸素抽出性などがパラメータになる。全身の酸素ステータスを測定することによって,組織への酸素供給障害を動的かつ立体的に把握することができる。また教授は酸素ステータスを計測するためのコンピュータ自動診断のためのエキスパートシステムを開発し,紹介している。
 最近は血液ガス連続測定の機器としていろいろな機械が開発されている。近年実用化され,臨床でさかんに利用され,日常臨床に不可欠の測定器になっているパルスオキシメータの解説がある。このほか経皮電極,血管内留置電極などのモニター類についても記述が拡充されている。
 最近は在宅医療が重要になっており,在宅酸素療法患者がますます増加し,一般臨床でも診療する機会が多くなっている。在宅酸素療法の適応,使用機器とその効果,酸素節約法など詳細に書かれており,実地診療に参考になる。すでに前回の改訂でもこの点が記述されているが,今回も在宅酸素療法における,血液ガスの状態とその管理について,日常診療に役立つよう記述されている。

血液ガスに変化を来す各種疾患の病態生理と臨床の対応

 この書の大きな特徴の1つは血液ガスの臨床応用について詳細な記述があることである。血液ガスに変化を来す主な疾患,すなわち気管支喘息,肺気腫,ARDS,肺線維症,肺炎などの呼吸器疾患,心不全,肺塞栓症などの肺循環障害を来す疾患,糖尿病,腎尿細管性アシドーシス,肝硬変など代謝障害による酸・塩基平衡障害を来す疾患など血液ガスに変化を来すメカニズムの異なる疾患について,疾患の概念,症例の解説,血液ガスの変化を来す病態生理,疾患の治療,呼吸管理,血液ガスの管理などについて,詳細にかつわかりやすく解説してあり,日常臨床によい参考になるであろう。
(B5・頁298 税込定価6,180円 医学書院刊)


心臓カテーテル検査に従事するすべての人に

心臓カテーテルハンドブック Morton J. Kern 編著/芹澤剛 監訳

《書 評》飯塚昌彦(獨協医大教授・内科学)

現在は冠動脈インターベンションの時代

 評者は心臓カテーテル検査の発展の歴史を3段階に分けている。最初の時代は形態的情報を目的として,カテーテルの走行や,圧,酸素含量の測定によって弁の形状やシャント量が計測されたのみであったが,循環器病学へのインパクトは大変なものであり,これによって心臓の手術が可能になったと言っても過言ではない。第2の時代はより精密な機能計測の時代である。物理学や工学の応用,循環器生理学の進歩,計測機器の開発によってカテーテル検査は最も高度かつ円満な発展をとげ,循環器検査法の最高位に立った。評者や監訳者の芹澤教授の育った時代である。
 そして,現在は第3の時代である。それは一言にして言えば,冠動脈インターベンションの時代である。検査法が治療法になった点,施行数や施設数が飛躍的に増加した点で画期的な時代である。しかし,問題がない訳ではない。多くの術者はカテーテル検査の基本的知識,理解もなしに冠動脈インターベンションに直行するようになってしまったように思えてならない。評者の医局員も一般的なことにはあまり知識も関心もないようである。このようなことは決して好ましいことではない。基盤のせまい進歩が脆くて長続きしないことは歴史の教える所である。ピラミッドを高くするには底面を広くすることが不可欠である。

コンパクトかつ実際的

 このような情勢の問題の解決に本書は正にうってつけの本である。
 まず第1に非常にコンパクトであって,検査に忙しい医師でも十分読めることである。しかも必要な事項はもれなく記載されているし,特に背景となる原理も必要な範囲で解説されている。第2は説明が具体的,即物的なことである。このような技術書ではあいまいな記載や抽象的な記述は時に誤った知識を与え危険である。その点,本書は豊富な実記録と分かりやすいシェーマが至るところにあって理解しやすく,正確である。第3は極めて実際的なことである。長年の経験,苦労に裏打ちされた説明や注意が随所に見られて本書の価値を高めている。第4に本書は医師のみならず看護婦,技術員を対象とした説明,注意が多いことである。安全で高水準のカテーテル検査は医師のみでなく,十分な知識,理解を持った熟達したコメディカル・スタッフの存在によって初めて可能であることは言うまでもない。
 本書の翻訳は評者のかつての同僚によってなされている。したがって,これに対する評価はいささか甘くなるのは致し方ないが,カテーテル検査,翻訳の双方に十分な経験を持つチームの力を反映した出来映えであると思う。
 本書をカテーテル検査に従事している医師,コメディカル・スタッフの人々の手元に携えるべき本,これから勉強しようとする人々の一読すべき本として自信をもって推賞したい。
(A5・頁536 税込定価7,725円 医学書院MYW刊)


気軽にフィルムリーディングを体験

フィルムリーディング(8)骨 西村玄 編

《書 評》中田 肇(産業医大教授・放射線科学)

簡潔で有用な総論と100例を超える症例

 本書はフィルムリーディングシリーズ全10冊のうちの1つとして出版されたものである。編者の西村玄氏を含む10名の執筆者はいずれもわが国を代表する骨放射線診断のエキスパートである。簡潔で有用な総論と100例を超える症例より構成されている。それぞれの症例には主としてX線所見を表現した短い標題がつけられており,ポイントを理解しやすく配慮されている。腫瘍,炎症性疾患,外傷性疾患,代謝的疾患,骨異形成症,関節疾患などの骨関節疾患だけでなく軟部腫瘍まで含まれており,日常の臨床で出会う主要な疾患が網羅されている。
 見開きの左側の頁に単純X線,CT,およびMRIの画像をまとめ右側の頁に所見,鑑別診断,鑑別診断の進め方,診断のポイント,病気の豆知識の順で解説がされている。最後には難易度マークがある。右側の解説の頁を紙で覆えば左側の画像だけを見ることになり,自分で診断に挑戦するのに便利である。解説は読みやすく簡明で,非常に要領よく述べられている。単純X線をはじめとする画像の複製もサイズを含めてバランスよくなされている。
 元来,他の領域に比べて骨関節領域のX線診断は,関心を持った少数を除いてわが国の放射線科医にとって手の出しにくい馴染みの薄い分野であった。最近になってCT,特にMRIの登場により放射線科医の多くが診断に関与する機会が増えてきている。

研修中の若手から経験豊富な医師まで

 このような点から,本書は放射線診断を研修中の若い人たちだけでなく,すでに経験の豊富な放射線科医まで幅広く役立つと思う。これまで症例を中心としたテキストを多く見てきたが,本書は非常によくまとめてあり興味を持って読ませる点では出色の出来映えである。カバーも強そうだが柔らかく,全体の厚さ,重さも適度であり,電車などの中で楽に読むことができるし,寝転がって手にするにも苦にならないことも実感した。気楽にフィルムリーディングを体験させてもらえる良書である。
(B5・頁176 税込定価6,695円 医学書院刊)


現在の脳神経外科学の「標準」

標準脳神経外科学(第7版)矢田賢三,木下和夫,佐藤 修,小柏元英 編集

《書 評》藤井清孝(北里大教授・脳神経外科学)

 このたび医学書院より『標準脳神経外科学』第7版が刊行された。1979年に初版が刊行されて以来,編者の先生方のご努力で3年ごとに改訂を積み重ね,日進月歩の脳神経外科に対応して常に最先端の知識を取り入れてきた。

基本的な事項から最新の知識まで

 今回の改訂では,最近特に進歩の著しいneuroimagingの理解のためMRI解剖像や病態像などが豊富に追加され,巻頭に口絵として掲載されている。またこれまで教科書としては不足気味であった倫理,インフォームドコンセントの問題も諸論の中に取り上げられた。これらは単に脳神経外科の問題に限らず,医学を学ぶ者の大前提として大切なものである。AIDS,機能的脳神経外科,末梢神経などの記載もあり,最近の脳神経外科の動向も反映している。
 このような教科書では,1人の著者でほとんどを記述して内容を統一するか,あるいは編者が内容のバランスを取りながら分担執筆をするかの方法がある。どちらの方法にも一長一短があるが,本書は後者の分担執筆のよさが遺憾なく発揮されたよい例と思われる。現在の日本において各専門領域を代表する先生方の執筆により基本的な事項から最新の知識までバランスよく記載され,一字一句が珠玉の文章となっている。まさに“標準”脳神経外科と呼ぶに相応しい内容である。

内容構成のバランスのよさ

 私事になるが,小生の学生時代にはまだ脳神経外科の学生用教科書が少なく,卒業後最初にこの『標準脳神経外科学』が世に出された時にはその斬新さに目を見張ったものである。また数年前,中国のある医科大学で日本語教育班医学生のための教材作製プロジェクト(JICA)を手伝ったことがある。当時の中国では脳神経外科の教科書の数は限られており,その内容も図,写真,表など極端に少なかった。日本より持参した代表的な教科書十数冊を教材作製の参考にさせていただいたが,その中でもこの『標準脳神経外科学』は内容構成のバランスのよさ,読みやすさ,図表,写真の多さなどで素晴らしい印象を受け,同時にこのような教科書を創る困難さを改めて感じさせられた。
 本書の特徴として以下のことが挙げられる。
1)分担執筆,3年ごとの改訂による内容の斬新さ,構成バランスのよさ。
2)多くの図表,写真による理解の容易さ。挿し絵,表,カラー写真,3D-CTなど秀逸。
3)代表的な参考文献も記載してあり,さらに学びたい人に役立つ。
4)coffee break…竹内一夫先生による各疾患のより詳しい解説,未解決の問題点,疾患のポイントさらには将来の夢まで述べてあり,先人が後輩に贈る珠玉の言葉が綴られている。
5)重要事項のセルフチェックポイントが末尾にあり,学習効果の自己評価ができる。
 その他にも編者の意図された特長はたくさんあるが,紙面の都合上省略する。一部には記載不足と思われる項目もないことはないが,本書の目的とする医学生の標準的な教科書,卒業後研修医の実地入門書としては十分であり,他書に譲るべき筋のものかもしれない。

世代を超えて共鳴できる教科書

 本書は永い年月をかけて常に改訂,熟成されてきただけに内容は充実している。これまでの教科書にはあまり書けなかった実地訓練における指導,将来に向けた道しるべもあり,世代を超えて共鳴できる教科書である。
 対象読者は医学生,研修医はもちろんのこと,医学教育に携わる医師,教員など幅広く,さらには患者,家族とのインフォームドコンセントにも利用できるかもしれない。現在の脳神経外科の“標準”としてお勧めできる一冊である。
(B5・頁490 税込定価7,004円 医学書院刊)


時代の流れを先取りした新しい教科書

Textbook of Gastroenterology(第2版) Tadataka Yamada, et al

《書 評》千葉 勉(神戸大学教授,老年医学)

分子生物学など基礎医学の知識を随所に

 本教科書は,消化器病学の中では,最もユニークで新しいタイプの教科書である。
 本を開いてまず目につくのは,図表や絵が極めて多く,理解しやすい工夫がなされている点で,このことは画像以外の図表が少なかった従来の教科書とは大きく異なっている。さらにもう1つの特徴として,各Chapterの引用文献が極めて多いことが挙げられる。実際900近い文献が引かれているChapterもあるほどで,このことは,本教科書の内容が多くの文献的事実や考察に深く根ざしていることを裏付けるものであろう。
 しかしながら本書の最もすばらしいところは,何といっても分子生物学,細胞生物学や生理学の知識が随所に取り入れられている点で,消化器病学をこうした基礎医学の視点から理解していこうとする新しい考え方が色濃く現れている。

病因から臨床まで最新の知見で

 本書は,1)Basic Mechanisms of Normal and Abnormal Gastrointestinal Function, 2)Approaches to Common Gastrointestinal Problems, 3)Gastrointestinal Diseases, 4)Diagnostic and Therapeutic Modalities in Gastroenterologyの4つのPartから成り立っているが,特にPart 1には600頁がさかれており,分子式や分子構造,細胞や神経支配,さらには消化管運動のレコーディングの図などがふんだんに使われていて,パラパラとめくっただけでいかにも楽しそうである。また文献についても1990年代のものが数多く引用されており,Helicobacter pyloriや癌遺伝子,癌抑制遺伝子などの最新の知見にも事欠かない。
 各Chapterをみると,Part 1は特に充実しているが,motility, immune system, secretion, nutritionなどのChapterは圧巻である。またPart 3の各論についても,gastritis,duodenitisのChapterは,Helicobacter pylori感染を考慮した極めて興味深い考え方が示されているし,大腸疾患についても,炎症性腸疾患から腫瘍性病変に至るまで,病因から臨床まで,最新の知見で貫かれている。さらにmotility disorderなどの機能性疾患については,従来のどの教科書よりも格段に理論的で,優れている。

基礎医学の視点から消化器病学を理解

 近年の分子生物学を中心とした基礎医学の進歩は目覚ましく,消化器病学においても,癌は言うに及ばず,アカラシアやヒルシュスプルング病などの原因遺伝子が次々と明らかにされつつある。こうした現況において本書は時代の流れを先取りした世界で最も新しい「消化器病学の教科書」と言えるであろう。ヒスタミンH2受容体遺伝子をクローニングしたT. Yamada(Editor)の面目躍如といったところである。
 なお本書には胆道疾患は含まれているが,純粋なhepatologyは除外されている。それだけに膵胆管系を含む消化管についての記載は充実したものとなっている。
(頁3,216 \38,770 J.B. Lippincott Company 刊 日本総代理店・医学書院洋書部)