医学界新聞

座談会
更年期外来診療のポイント
ホルモン補充療法を中心に

青野敏博
(徳島大学産科婦人科教授)
水沼英樹
(群馬大学産婦人科助教授)
持丸文雄
(平塚市民病院産婦人科)


 21世紀を迎えると,日本の50歳以上の女性人口は2619万人に達すると言われる。それに伴い,更年期特有の症状に悩む女性も増えることが予想され,婦人科以外の臨床家にとってもいわゆる更年期障害の知識は不可欠となりつつある。
 本号では,このほど『更年期外来診療プラクティス - エキスパートがこたえる女性ホルモン補充療法Q&A』(医学書院刊)を編集した青野敏博氏の司会で,更年期女性を診療する際の考え方やポイントについて語っていただいた。

 

更年期障害をどう捉えるか

 青野 本日は,2人の先生をお迎えして,更年期障害の外来診療のポイントについて話し合っていきたいと思います。
 さて,中高年の女性が外来を受診して,肩が痛い,頭痛がする,いらいらする,あるいはのぼせるなどの症状を訴えると,医師は「更年期障害ですね」と簡単に診断をつけてしまうことがよくあります。しかし実際には,更年期障害をどのように捉えたらよいかは難しい問題だと思います。
 持丸先生の外来では,どのように更年期障害の方を捉えておられますか。
 持丸 まずその原因別に,エストロゲン欠乏によるものと心因性のものに分けて,両者を更年期障害として診療します。
 例えば両側の卵巣切除などの外科的な理由でエストロゲン欠乏を来たす方もいれば,年齢的な変化でエストロゲン分泌の低下を起こす方もいます。そこまでは婦人科領域で扱って特に問題はないと思いますが,心因性のものは婦人科単独で対処することが必ずしも容易ではありません。ですから症例によりリエゾンというかたちで,精神科との共同で対応することも必要になると思います。

更年期外来の守備範囲

 青野 純粋にエストロゲンの不足によって起こってくる症状と,精神的,心理的な要素が加味されている患者さんの割合はどの程度なのでしょう。
 持丸 一般的にはエストロゲンの不足による患者さんのほうが多いと思います。ただ問題なのは,必ずしもそこがクリアカットではないことです。エストロゲン欠乏があることは間違いないが,一方に心因性の要因も加わっているというものですね。それが従来不定愁訴として扱われてきた理由ではないかと思います。
 それがはっきりすれば,不定愁訴という捉え方ではなく,心因性,あるいはホルモン失調による症状だという診断がきちんと最初からできたのではないかと思います。しかし心因性の症状にも,個人の性格構造ばかりでなく環境などの背景要因があって,必ずしもクリアではありません。そこが厄介なところだと思います。
 青野 水沼先生の施設の更年期外来では,患者さんを診る際に,ある程度の守備範囲のようなものお決めになっていますか。
 水沼 一応,更年期ということで40歳から65歳くらいまでの女性を対象としています。また内容としては,症状に対する治療を主に行なう場合と,閉経後のQOLの向上をめざして健康管理を行なう場合の,二面性を持っています。健康管理という観点に立つとかなり広範で,まったく症状のない人も守備範囲になっています。
 青野 すると,症状が起こって治療をするというよりも,骨粗鬆症や動脈硬化症の予防の目的で積極的に来院される方もあるということですね。
 水沼 そういうことです。
 青野 以前と違い,更年期障害の概念が少しは変わってきたのではないかと思うのですが,先生もそのようにお考えですか。
 水沼 はい。不定愁訴という言葉はなるべく使わないで,エストロゲンの欠乏に基づく症状は何かということを見極め,それを認識した上で患者さんそのものを治療するようにしています。いわゆる原因療法につながると思いますが。
 

更年期の急性症状と慢性症状

 青野 更年期というのは,およそ40代の初めぐらいから50代の半ばぐらいまでの非常に長い期間,すなわち正常であった卵巣の機能が衰え始め完全になくなるまでの期間と定義されています。卵巣からのエストロゲン分泌が徐々に低下し,最後はエストロゲンの分泌がなくなるという大きな変化です。男性と違ってかなり急激な低下が起こることがわかっていますね。これに伴う症状を整理していただけますか。
 水沼 Van Keepの有名な論文がありますが,エストロゲン欠乏によってもたらされる各種の症状は,急性症状と慢性症状とに分かれます。
 急性症状としては,閉経前後のホットフラッシュ(ほてり,のぼせ),発汗,不眠などがあります。また慢性症状としては,エストロゲンの欠乏によって骨粗鬆症や動脈硬化症,皮膚の萎縮,尿失禁などが起こりますが,これが症状として発現するには5年や10年など年月がかかります。このように発生の時期によって2つに分けられます。
 それから,急性症状は比較的一過性なのですが,慢性症状は不可逆的であり,女性の老後のQOLに対して大きな影響を及ぼします。

更年期の初期症状

 青野 エストロゲン欠乏の始まる時期,つまり40歳代の前半ぐらいのホルモン分泌が下り坂になった時に起こる症状にはどのようなものがありますか。
 持丸 最初はやはり月経異常だと思います。それから,ホットフラッシュなどの血管運動神経症状ですね。それらに続いて不眠や不安,あるいは人によっては鬱状態などの精神・神経症状が出てきます。それらが先ほどの急性症状で,これについては対症的な治療をします。
 それに対して,遅発症状  動脈硬化や骨粗鬆症などの場合には,対症的治療というよりも先ほど話に出た予防的な治療になります。そこが従来の更年期障害の治療と若干違ってきていますね。
 青野 予防的な色彩が出てきたということですね。
 更年期障害の最も典型的な症状といわれているホットフラッシュや発汗などは発作性に起こると言われていますが。
 持丸 最初は胸のあたりが熱くなって,それからそれがぐっと顔に上がり,非常に暑くなって,同時に動悸がして,その直後に汗がドッと出るという感じですね。1回の発作は数分で終わるようです。

精神・神経症状の背景を見極める

 青野 更年期の不安やイライラなどの症状には,ある程度老化して体力が衰えてきたことも加味されていますし,また社会的な環境,例えば単身赴任や大学進学などで夫や子どもが家にいなくなった影響  これは「空の巣症候群」と言われますが  もあります。このような精神・神経症状にエストロゲン欠乏は果たしてどの程度関与しているのでしょうか。
 水沼 これは非常に難しいですね。そういう精神・神経症状に対してエストロゲン投与が効くかというと,私はあまり効かないのではないかと思っています。
 しかし,よく患者さんの話を聞いてみると,中には「そういえば顔が熱くなることがある」など,隠されたエストロゲン欠落症状を持つ人もいるのです。このような人の場合,エストロゲンを投与すると精神症状もとれてくることがあります。エストロゲン療法が奏効する人では,よくよく聞くと血管運動神経症状のあることが多いようです。
 精神・神経症状があったとしてもその背景には,エストロゲン欠落による自律神経系の異常によるもの,自律神経失調症状が見え隠れするうちに精神症状が出てくる人,それから,心因性の要因があってエストロゲンとは関係なく不安やイライラが出てくる人というように,症状の出方には大きく考えると3通りあるのではないかと思いますね。
 青野 なるほど。全例にエストロゲンの欠乏が何がしか関与しているというよりは,何%かの患者さんにエストロゲン不足が関与していて,何%かには関与していないと。また,精神・神経症状のうち,あるものは自律神経失調症などによる二次的な症状の可能性もあるということですか。
 水沼 そういうことですね。その辺の見極めが大事ではないかと思います。

自覚症状の治療効果判定は冷静に

 青野 持丸先生はそのような感じをもたれたことがありますか。
 持丸 さきほど少しお話ししたように,いわゆる急性症状の原因は必ずしもホルモンの失調だけではなくて,心因性であり環境因子も加わっているという不定愁訴的な面をどうしても持っていますよね。病院に来て話を聞いてもらっただけでよくなる人もいますし,あるいは薬によるプラシボ効果もあります。
 ですから,ホルモン補充療法(HRT)が効いたかどうかをあくまでも自覚症状の改善度だけで測ろうとする評価法にはピットフォールがあります。いわゆる遅発性症状に対する治療効果のほうは定量化することができます。しかし急性症状は自覚症状中心なだけに,あくまでも客観的に評価しようと努めないかぎり,独善的になってしまう恐れがあるとはいつも考えています。
 

ホルモン補充療法(HRT)の実際

表 エストロゲン製剤の種類
 含有量商品名投与ルート 保険適用
更年期障害骨粗鬆症
結合型エストロゲン
メストラノール
エチニルエストラジオール
エストリオール
0.625mg
0.08mg
0.5mg
1mg
プレマリン
デポシン
プロセキソール
エストリール
ホーリン
経口
経口
経口
経口


×
×
×
×
エストロゲンパッチ2mgエストラジオールTTS経皮×
安井敏之:『更年期外来診療プラクティス』(青野敏博編集,医学書院刊)より引用

 

単独療法と併用療法

 青野 近年,更年期障害に対してHRT,つまりエストロゲンとプロゲストーゲンの投与がかなり急速に普及しています。各病院でも,更年期外来あるいはホルモン治療外来を設けてHRTを進めています。水沼先生,これには何種類の投与方法があるのでしょうか。
 水沼 大きく分けると,エストロゲンを単独で投与する用法と,エストロゲンとプロゲストーゲンの併用療法があります。
 子宮体癌のおそれがあるので,子宮を持つ女性の場合はエストロゲン単独療法は原則として行ないません。そうすると一般的にはエストロゲンとプロゲストーゲンの併用療法になりますが,これは大きく3つに分けられます。エストロゲンとプロゲストーゲンを毎日服用するコンティニアスコンバインド法,エストロゲンは毎日でプロゲストーゲンは4週間に1回,10日または2週間ぐらいずつ投与するシークエンシャル法,またエストロゲンにも休薬期間を置くもの。これにバリエーションがいくつかあるかと思います。
 青野 子宮内膜癌の発生予防の見地から,エストロゲンに黄体ホルモンを併用することは最近では常識になっていますね。
 女性ホルモン製剤としてはエストロゲン製剤(表)やプロゲストーゲン製剤があり,また剤型として内服剤や貼布剤などが出ています。実際にはどのような薬剤がよく使われているのでしょうか。
 持丸 一般的には,いわゆる結合型エストロゲンとプロゲステロンの併用療法ですね。問題なのはコンプライアンスだと思います。投与後にどうしても不正出血があるものですから,しばらくすると結合型エストロゲンからエストリオールのほうにだんだんと移行してしまうことがあります。60歳以上の方に月経を繰り返し起こすことが適当なのかどうかという,投与方法の問題だけでなく,投与期間についても今後大いに検討される必要があると思います。

HRTの禁忌

 持丸 またHRTの際に,システムとして視診,触診,画像をきちんと採用して乳腺のチェックをしている施設はそれほど多くないようです。今後は乳癌の検診のあり方も問題になってくると思いますね。
 青野 私たちの施設でも,必ずHRTを行なう前にマンモグラフィーをして,乳癌や乳腺の腫瘍がないことを確認してから始めています。特に予防的投与をする場合には,よけいにその点についての厳密さが要求されるのではないかと思います。
 それに関連して,HRTの禁忌も非常に重要な事項だと思います。禁忌としては,絶対的禁忌と相対的禁忌があります。
 まず絶対的禁忌としては,エストロゲン依存性の悪性腫瘍の子宮内膜癌と乳癌,原因不明の不正性器出血,血栓性疾患,重症肝機能障害があげられます。一方,疾患の程度によっては注意しながらHRTを行なってもよいものとしては,子宮筋腫や子宮内膜症,高血圧,糖尿病,胆石症,高度の肥満などがあります。
 後者の場合はリスクとベネフィットを十分に説明してインフォームドコンセントを行なっておくことが大切です。

漢方薬の出番

 青野 ではHRTの限界というか,向精神薬あるいは漢方薬など,その他の治療を使うべき症例にはどのような場合があるでしょうか。
 持丸 エストロゲン欠乏による症状であってもHRTが効かない症例がありますが,それは,原因が厳密な意味でエストロゲン欠乏だけなのか,あるいは心因性や環境要因も入った症状なのかどうかということにも関わってくると思います。
 青野 例えばホットフラッシュは,エストロゲンにかなり依存的で,他の因子はあまりないと言われていますが,あまりよくならない人も10%ぐらいいますね。
 持丸 更年期心身症の一症状としてホットフラッシュを訴える患者さんもいますので,あらためて原因別分類の重要性を強調したいと思います。
 一般にHRTを希望しない患者や禁忌とされる症例では,漢方薬が第1選択となります。血管運動神経症状に対する効果はHRTほど期待できないものの,いわゆる不定愁訴症候群に対しては,思わぬ切れ味を発揮することがあります。ただ,一方でもう少し科学的に漢方薬を評価する必要があると思います。その上でHRTと漢方薬をうまく使い分けることにより,幅広い有効な治療が期待できると思います。

HRTをファーストチョイスに

 青野 水沼先生はいかがでしょう。
 水沼 私はあまり漢方薬を使わないのですが,一般に,漢方薬は症状が非常に多岐にわたる人の場合に使うのではないかと思います。
 ところが背景にエストロゲン欠乏がある人の場合には,ホットフラッシュや発汗など患者さんが訴える症状があると同時に,訴えがなくても,例えば萎縮性の腟炎や骨粗鬆症など,患者さんが気づいていない,あるいは気づいても言えないような症状があることがあります。そういうものまで含めての治療になると,漢方薬で一時的に症状を抑えるよりは,HRTで総合的に改善するほうが好ましいのではないかと思っています。
 ですからそういう意味で,私の場合にはHRTのほうをファーストチョイスにするようにしています。
 青野 非常にすっきりしたお考えですね。

夫婦の関係が精神・神経症状に与える影響は大きい

 青野 向精神薬の併用についてはどうでしょうか。
 持丸 いちばん多い症状である不眠に対しては,眠剤を併用することが効果的です。眠らない日が続くと,精神的にも体力的にも調子が崩れてきますので,眠剤を適度に使うことはよいと思います。
 ただ向精神薬については難しい部分があります。特に自殺企図のおそれがあるうつ病の患者さんに対して,婦人科で安易に投薬をすることは避けるべきだと思います。精神科でも話はそこそこに薬だけ出す先生がいらっしゃるようですが,その前に十分に時間をかけて問診を行ない,患者さんの訴えを注意深く傾聴することが大切です。
 私はたまたまメンタルケア外来をやっていることもあり,更年期障害に対する心身医学的アプローチをしています。更年期は内分泌環境の変動に対する適応の時期であると同時に重積するライフストレスへの適応の時期でもあります。このストレスに対する不適応の背景には,必ずと言ってよいほど夫に対する妻の不満が潜んでいます。特に問題なのは団塊の世代ですね。
 その年代の方は,男性が昔の父親の影を引きずっているのに対し,女性のほうは,むしろ若い世代の考え方を積極的に取り入れている。男性は時代の変化に遅れをとっているように思われます。そのギャップによって,妻のほうにはいつも欲求不満がある。ですからまず妻が夫に対して結婚以来積もり積もった思いのたけを伝え,理解してもらう努力をするように言っています。具体的には,私はまず手紙を書きなさいと言いますが。
 青野 夫に対してですか。
 持丸 ええ。手紙は対面して話をするのと違い,自分の気持ちを冷静に表現できますし,また考え方が途中で変われば書き直すこともできます。読むほうも繰り返し読めるため,妻がいま何を心配して何を苦にしているかがわかり,少しずつ聞く耳を持つようになります。そこまでいくとしめたものです。
 青野 更年期障害の治療は,夫婦単位で行なうべきであるということですね。有益な助言だと思います。
 

HRTはとっつきにくい?

 青野 今までの話にも出ていましたが,更年期診療を行なうにあたっては,科学的な検証を経た治療法を有効に使っていかなければいけません。またそれを超えたいろいろな問題,特にHRTの場合には副作用の問題もありますので,それらを解決していく必要があります。

不正出血への対応

 青野 そこでまず手近な問題ですが,HRTにおいて患者さんのコンプライアンスが悪い最大の理由に性器出血があります。これがあるために,特に内科系の先生はHRTをなかなか始めにくい,とっつきにくいということがあるかと思います。これをある程度減らすためには,どのような工夫をしたらよいのでしょうか。
 水沼 まず量の問題があると思います。日本で手に入る結合型エストロゲンは,最小錠型が0.625 mgで,これは日本人には多すぎるのではないかと思います。私はその結合型エストロゲンとプロゲステロンの連続併用投与を行なったところ,どうしても出血が止まらない例がありました。そういう人に対しては結合型エストロゲンの量を半分にしたり,あるいは青野先生のように2日に1回の割で投与したりすると,かなりの症例で出血が止まってきます。ですから量をもう1度考えるということが大事ではないかと思っています。
 それから,そのように量を減らしても出血がある人の場合,子宮内腔に小さなポリープがあったり子宮筋腫があったりすることがわりと多いので,まず投与量を減らして,止まらない場合には婦人科でポリープの検査を依頼すれば,内科の先生でも安心して使えるのではないでしょうか。
 青野 その場合は超音波検査や子宮鏡も含めてですか。
 水沼 子宮鏡,あるいは最近は子宮腔内に生食水などを入れて経腟超音波断層法で見るとポリープがわかることがあります。

日本人のきちんとしたデータを

 青野 シークエンシャル法の場合には消退出血がありますが,そのことで一定年齢以上の患者さんは,出血,すなわち一般の方の言う月経が起こることに対して違和感を訴えませんか。
 持丸 それはあるでしょうね。「月経が終わってようやくさっぱりしたのに」というのは共通の認識だと思います。ですから,いまのように消退出血を5~10年と繰り返していくのは,コンプライアンスということを考えても難しい問題です。
 そうすると,先ほども出たように半分の用量ではどうかという考えもありますが,問題は,用量を減らした時の効果です。例えば,脂質にしても骨量にしても,日本人についてのきちんとしたデータがほとんど出たことがないですね。ですから用量と効果の問題がもう少し明確になれば,使う側の選択肢もはっきりしてくると思います。

患者にとって何が大事かを見極めて容量を選ぶ

 水沼 私たちのデータでは,エストリールを1日2mg投与した場合に1年間で骨量が1%少し増えるという感じですね。それから結合型エストロゲンの場合には,0.625 mgの場合5%ぐらいです。0.3125mgの場合にはその半分の2.7%。また,半量にしても,ほとんどの患者さんでホットフラッシュはとれます。たとえホットフラッシュが完全になくならない人でもかなり軽くなったと言ってくれますので,0.3125mgで十分だと考えています。
 ただ問題は,それを5年10年続けた場合に,はたして例えば骨量を同じようにずっと維持できるかどうかです。そこまでの結論はまだ出ていないのですが,0.3125mgでも,1日おきの投与であっても,十分対応できるのではないかといまの段階では思います。
 青野 1年間の成績ですね。脂質代謝はどうですか。
 水沼 脂質に関しては,私たちのデータではあまりメリットがありませんでしたが,癌研のデータを見ると,0.3125でもHDLが上がってトータルコレステロールが下がるという成績が出ています。ある程度期待してよいのではないかと思います。
 強調したいのは,半量投与をすべての人に実施するのではないということです。脂質が高い人の場合などには量を増やせばよく,またまったく脂質が正常の人に,さらに脂質を降下させるために多く投与する必要はありません。患者さんに対して何がいちばん重要であるかを見ながら量を選ぶことも大事だと思っています。
 青野 アメリカのBarbieriがエストロゲンの濃度といろいろな症状の治療成績の関係について研究をしています。そこでは,骨量はかなり低いエストロゲンレベルで維持が可能であると言っています。またホットフラッシュ,自律神経失調症,脂質代謝の改善には,やや高用量のエストロゲンが必要ではないかということで,自律神経失調症状の改善の維持と,子宮内膜から出血を起こすエストロゲンレベルがオーバーラップしてくるという趣旨の仮説を提出していました。
 私たちの教室でも,1日おきの投与では,骨量は維持できるが脂質代謝の改善がやや不十分だという成績が出ています。
 

患者の訴えをいかに聞くか

 青野 更年期外来に来る患者さんはいろいろな訴えをなさいますね。それに対して,毎回長い時間を費やして訴えを十分に聞くだけの時間的余裕が医師にないのではと思います。私たちの教室では,初診のときだけは時間を十分とって,納得のいくまでお話をさせていただいて,あとはパンフレットを渡して短い時間で診療を継続していくようにしています。
 持丸先生の外来では,患者さんの訴えをどのように聞いて,患者さんに納得してもらっておられますか。
 持丸 原因によってもだいぶ違うと思います。原因がエストロゲンの不足だけであれば,スクリーニングの後は投薬するばかりですが,心因性の要素が大きい方の場合には,毎回同じくらいの時間をとってお話を吸い上げるようにしています。
 青野 外来の運営はそれで可能ですか。
 持丸 サービスだと思い,メンタルケア外来で1人1回1時間を割いています。

訴えの中から問題点を抽出する

 青野 水沼先生はいかがでしょうか。
 水沼 特に不定愁訴的な症状を訴えて受診される場合には,婦人科の更年期外来に行けばなんとかしてくれるのではないかという多大な期待を患者さんは持っているんですね。症状を聞いてエストロゲン欠落症状があるような場合には,「この薬を飲めばある程度よくなるでしょう」と言うのですが,エストロゲン欠落症状がまったくない人の場合には,「ホルモン補充療法をしてもまずあなたには効かないと思います」とはっきり言うことから始めます。
 しかしそれで「ではもう来ません」と言う人はまずいません。ですから効いたら儲けものですねという感じでHRTをすると,意外と効くことがあります。また,ある程度見ていって効かない場合には,婦人科だけでは手に負えない症例ということで,精神科などとも協力しながら患者さんに対応していきます。
 ですから,最初はやはり時間をかけて話を聞いて,あとはどちらかというと管理が中心というかたちです。
 青野 わかりました。本当に,この領域の患者さんに対応する場合には,気を長く誠意を持って十分話を聞き,またそれぞれの症状や訴えの中から的確にその患者さんの問題点を抽出する必要がありますね。そしてそれに対して最も適切な治療法を選択し,また場合によっては途中で治療的診断法も用いながらつき合っていくことが大事ではないかと思います。
 本日は,実際に即した現場の状況などを含めて,更年期外来診療のコツをお教えいただき,大変参考になりました。どうもありがとうございました。 (おわり)

 


●訂正とお詫び
 本紙第2192号(5月27日付)10面の表「各種国家試験の結果一覧」の中で,毎年掲載している「第42回臨床検査技師国家試験」の結果が抜けていました。上記試験の結果は以下の通りです。関係各位にご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。
 なお,インターネット上では,7月1日に訂正いたしました。


 第42回臨床検査技師国家試験
 受験者数5060名,合格者数3753名,合格率74.2%