MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
プレゼンテーションの本質重んずる著者の見識
Macintoshによるパワー・プレゼンテーション 齋藤英昭 著《書 評》井上一知(京大助教授・腫瘍外科学)
齋藤英昭博士は私の敬愛する人物であり,私にとっては良き兄のような存在でもある。9年前に海外 の学会でお会いした時に自然と意気投合して以来,現在に至るまで懇意にさせていただいている。齋藤博 士は,4年前に術前術後管理の大作を出版されて大変好評を博したが,今回は 『Macintoshによるパワー・ プレゼンテーション』というユニークな本を出版され,その多才ぶりに改めて敬意を表する次第である。
見やすく読みやすい指南書
近年学会発表におけるコンピュータ,特に画像処理に優れたMacの利用は,我々にとって必須のもの となってきている。しかしながら,その操作法をマスターするためには,いかに操作性に優れたMacとい えども,適切な指南書が必要であるのはいうまでもない。本書を開いて最初に感じたのは,まず見やすい, 読みやすいということである。さらに本書には,齋藤博士のお人柄,読者に対するきめ細やかな配慮,そ して,コンピュータを利用していかに人を魅了するプレゼンテーションを行なうか,ということに並々な らぬ情熱を注ぐ著者の一貫した基本姿勢が,鮮やかに反映されている。本書では,必要なソフトとその操作法がマウスのクリックに対応した形で箇条書きにされており,か つ実際のダイアログボックスとともに説明されているので極めて理解しやすく,初心者にとっても,本書 の記載通りに操作を進めるだけで簡単に,短時間で発表準備を整えることができる。また操作法について 熟知している研究者にとっても,1,3章においてポイント,注意点として囲まれた部分を参照することに より,コンピュータの能力を最大限に駆使し得たプレゼンテーションが可能となろう。
“Mac 右”に置いて利用したい力作
本書には,随所に珍談,こぼれ話として著者自身の失敗談などが挿入されており,とかく緊張しがち な学会発表にも,ユーモアのセンスと余裕が大切であるとの著者の思い入れを,垣間見ることができる。 最近,ややもすると,スライドのバックグラウンドにlogoを入れる風潮にあるが,logoを入れると肝心の 発表内容のスペースがその分狭くなるので,本末転倒であるとする著者の主張は,まさしてく当を得たも のである。これは,コンピュータの使用に際しても,あくまでプレゼンテーションの本質,プレゼンテー ターの基本姿勢を重んずる著者の毅然たる見識の表れであろう。プレゼンテーションは,人と人とのふれ あいの場を提供し,かつその結びつきを深めるものであるとする著者の哲学が,本書の基本理念を構築し ており,大いなる共鳴を禁じ得ない。レンブラントの 『夜警 』を前に乾杯しながら自らの成果を振り返 り,先人の偉業に勇気づけられている著者の感動がそのまま伝わってくるように思える。本書は,医者,研究者としての真に心の通ったMacの指南書である。本書一冊で十分に事足れるもの であり,ぜひ,座右ならぬMac右に置いて利用したい力作である。明るく,楽しく,視野が広く,独創的 でかつ心暖かい齋藤博士の今後のますますのご活躍を期待するとともに,本書が幅広く活用されることを 切に祈りたい。
(B5・頁238 定価4,120 円(税込) 医学書院刊)
CRを有効に利用するために座右に置きたい
Computed Radiography 入門 臨床医に必要な基礎知識 草野正一 編集《書 評》上村良一(金沢大・放射線医学)
近年コンピュータの進歩は目覚ましく世の中はますます情報化社会となっている。医用画像の面でも コンピュータが果たした役割は大きく,1970年代にCTスキャンが開発され,さらにMRI,US,RI,DSA と多くのデジタル画像が出現し,臨床診断に寄与したところが大きい。一方,単純X線写真はレントゲン がX線を発見して以来行なわれてきた手法であり,昨年はX線発見100周年の記念すべき年であった。一世 紀を経た現在でも単純X線診断はいまだ重要な画像診断の1つであり胸部,骨X線写真など画像検査に占め る割合は少なくない。単純X線写真は長らくフィルムによる撮影が主流であったが近年デジタル化の流れ はこの領域にも及んでいる。デジタルX線撮影の1つであるComputed Radiography(CR)は1981年ベルギー のブリュッセルで開催された国際放射線学会(ICR)で初めて発表され,わが国において開発,発展した 放射線機器である。デジタルX線診断システムとして最近では画像の電子保管などとの関連からも多くの 施設が積極的にCRを導入している。
CRに関してまとまった初めての教科書
本書はこのような時期に出版されたCR最初の教科書と言って良い。これまでCRに関してのまとまっ た教科書は発行されてこなかった。これはCR画像の読影は従来のフィルム撮影によるX線写真と基本的に 変わらずX線診断学としては新鮮さに欠けたためと思われる。ただ,CR画像を読影する上でデジタル画像 としてのいくつかの特徴を理解しておく必要がある。例えばCRの欠点として空間分界能がフィルムに比 して劣ることやノイズが増加することがあげられる。利点としてはセンサーとして感度が優れたイメージ ングプレートを使用していることや画像処理が可能であることがあげられる。本書は一般の臨床医にとって難解なデジタルX線写真に関する用語を平易に解説し全11章から構成さ れる。そのうち第2章から第8章まではCRの利点を中心にX線被爆を低減できる,低濃度部から高濃度部ま で広く診断できる(ワイドラチチュード),病変部のコントラストを強調できる,縁を強調できる,画像 濃度を最適化できる,高濃度部を診断できる,読影に邪魔な構造をサブトラクションできる,の順で臨床 例を中心に多くのページを割いている。また各章ごとに豊富な症例と鮮明なX線写真によりCRの特徴が述 べられており,初心者にもわかりやすい構成となっている。臨床医はデジタルX線写真の特徴をよく理解 した上で臨床応用することが望ましく,CRを有効に利用するためには本書はぜひとも座右に置きたい一 冊である。
個々の症例について処理パラメータを図示
また実際の診療現場ではどのような撮影条件で撮影し,どのような画像処理で表示するか悩むことが 多かったが,本書では骨,胸部をはじめ消化管など造影検査も含んであらゆる領域が網羅され,個々の症 例で階長処理パラメータや周波数処理パラメータがわかりやすく図示されており画像表示の際おおいに参 考となるであろう。本書はCR読影に携わる臨床医の手引書として,また初心者には入門書としておおいに役立つと思わ れるが,同時に実際に撮影する放射線技術者の皆さんにもぜひ一読していただきたい一冊である。
(B5 横・頁222 定価12,360 円(税込) 医学書院刊)
画像診断の進歩に対応し内容が充実する
画像診断のための脳解剖と機能系 H. J. Kretschmann他 著/久留裕,真柳佳昭 訳《書 評》山口 昂一(山形大教授・放射線医学)
本書の前版 『CT診断のための脳解剖と機能系 』の原本は1984年に出版され,日本語訳が出たのは 1986年のことである。ほぼ10年を経て改訂版の日本語訳が再び登場したことになる。この10年に,脳の画 像診断には目を見張る進歩があった。つまり,MRIで脳の構造を一段と明瞭に診ることが出来るようにな り,PET,SPECTの利用が進んで脳の機能に関する情報が提供されるようになった。
読みごたえある各章毎の冒頭の解説
初版は,X線CTによる診断を念頭に置いて書かれ,脳の機能局在や伝導路の図譜とその解説が織り込 まれ,特徴があった。改訂版では,X線CTに加えて,MRI,PET,SPECTで得られる情報とその質を考慮 に入れ,それらに対応できる脳の解剖と機能が的確に盛り込まれた。その結果,図の数も種類も大幅に増 えた。本書は内容が8部門で構造されている。
第1章にあたる「はじめに」の冒頭に書かれた「課題と目標」には,本書に込めた著者の意図が述べ られている。「最新の画像診断を適切に利用するには包括的な理解が必要で,それが得られるようにする ことを本書の最大の目標とする」としているが,本書を通読して,目標を達していると思った。
第2章にあたる「画像診断の目印構造」では,まず,診断モダリティーそれぞれの特徴を捉えた適切 な解説が行なわれている。ここだけでなく,以下の各章毎の冒頭の解説はそれ自体に読みごたえを感じた。 原則的に,こうした解説のあとに解剖図譜が示してある。この章の図譜は基本的なものと表現していいと 思うが,MRIの登場に対応して,ふんだんに冠状断,矢状断などが取り入れられ,MRIで確認が容易になっ た脳神経の走行等がいっそう丁寧に書き加えられている。また,頭蓋外の頭頚部の構造も加えて記載され た。
第3,4章は「顔面頭蓋と各種腔,頭頚移行部についての解剖」で,改訂版が新たに取り上げた項目で ある。MRIの描出力と相俟って,臨床家が関心を持つことになった領域への対応と思う。例えば,頭蓋底 病変への外科的到達はこれまで困難とされてきたが,顔面頭蓋への理解を深めることによってそれが可能 になりつつあると聞く。頭蓋外の頭頚部疾患に対する関心も高まりつつある。このような臨床的背景を十 分勘案して構成された章と思う。脳に限らず,頭頚部の解剖を含んだのである。
構造と機能に関する包括的理解を助ける「臨床的なヒント」
第5章では,神経頭蓋,頭蓋腔,随液腔,脳動脈支配,脳静脈,脳神経といった構造の解説のあと, 脳幹,小脳,終脳と基本的な解剖の解説が行なわれている。第6章の神経機能とともに初版から引き継が れたものである。この2つの章で内容の基本は初版と変わらないが,比べてみると,要点となる見出しの 項目や注意すべき語句をゴシックで表示するなど,読み易さを考えた編集上の工夫が見られる。「臨床的 なヒント」として表示され書き抜かれた部分は,著者の意図した「構造と機能に関する包括的理解」を助 けると思う。第7章を新たに「神経伝達物質と神経調節因子に関するトピックス」として独立させた。最近のPET による情報を意識して構成されたもので,その方面の理解に役立つであろう。
第8章には,「研究材料と研究方法」として,本書の図譜のもとになった解剖体や,製図法,図版の 縮小に関すること等までが記載され,興味を引いた。
著者の意図を的確に日本語で伝える
先にも述べたように,図譜の有用性もさることながら,各章での解説を読むことに重みを感じた。原 典の著者の意図の実現に対する評価とともに,それを日本語にして的確に伝えることに成功しているこの 翻訳を担当された久留裕,真柳佳昭両氏に高い評価を差し上げたいと思う。脳に興味持たれる広い範囲の 研究者,医師に,ぜひ手にとって見てほしい書と思う。(A4 変・頁408 定価19,570 円(税込) 医学書院刊)
眼科領域の最新のキーワードを見事に集約
オキュラー・サイエンス 眼科臨床医のための基礎医学と実際統計学大鹿哲郎,谷原秀信,平形明人,岡田アナベルあやめ 著
《書 評》三宅養三(名大助教授・眼科学)
眼科学会で横行するキーワードを集め,4人の今一番乗りに乗っている中堅の著者たちにより非常に 分かりやすく漫画チックに解説された,過去に類をみない新しいタイプの本が出版された。著者である大 鹿,谷原,平形,岡田の諸先生の分担執筆であるが,分担執筆とは思えないほど全体を通して一貫性があ り,4氏の目的意識が読者に敏感に伝わってくる。
情報化時代の申し子
学会で数回同じ言葉を聞くと,そろそろこの言葉を勉強しなくはいけないと感ずることがあるが,な かなか要領よく知識が吸収できないのが現状である。この本はこのようなキーワードを見事に集約し解説 したものであり,その内容は分子生物・細胞生物学,生理学,薬理学・治療,検査・MEと多岐にわたっ ており,最後に実際統計学が実に要領よく解説されている。この本の中で解説されたキーワードは,数年後には新しいキーワードにとって変わられるであろう。 そのため2ndあるいは3rd Editionが将来発売されることを期待するものである。情報化時代の申し子のよう な本である。
(B5・頁212 定価7,931 円(税込) 医学書院刊)
国際的価値のあるアジア発の優れた図譜
Sectional Human Anatomy (Third Edition) Ham,M.C & C.W. Kim 著《書 評》村上 弦(札幌医大教授・解剖学)
韓国の放射線科医Ham教授・Kim教授による人体断面解剖図譜が,いよいよ全身を網羅して第3版を
迎えた。Ham & Kimの図譜(と呼ぶことをご容赦いただきたい)と言えば,メリハリの効いた鮮明な断面
解剖写真を用いてまとめ上げていることで,この手の図譜の中では以前から特長的であった。
今回の改訂では,断面解剖に対比させる画像を全体にMRI中心に置き換えたことと,特に四肢・肢帯
部領域を独立させて充実させたことが特徴的である。今さら申し述べるほどの特徴ではないが,断面解剖
と画像の対応に最大限の努力が払われており,また腹部内臓の解剖断面は臨床現場の画像同様に下から見
上げた形で撮影されている。単に各種画像読影の手引きとしてばかりでなく,応用的な立場から人体諸構
造の位置関係を学ぶ必要があるすべての人々にとって,有益な図譜であることは疑いない。
美しく引き立つ適切な標本選択
人体解剖になじんでいる者なら誰でも分かることだが,標本内の各部の色調は解剖体ごとに異なって いる。筋の色調,骨の色調,さらに筋間中隔など結合組織の色調,各内臓の色調,すべて解剖体ごとにパ タンが異なる。Ham & Kimの図譜では,断面各部のコントラストが美しく引き立つように,図譜に必要な 局所に合わせて適切な標本選択を行なっている。色調のコントラストと立体感を出すため,脂肪組織の豊 かな解剖体を適切に活用している。同時に,解剖断面の処理がきわめて鮮やかで,断面解剖標本にありが ちな組織の毛ばだちが感じられない。またHam & Kimの図譜では,漿膜腔等に樹脂(?)を入れて着色す るというユニークな手法がしつこくならずに見事に成功しており,管腔とは異なる空隙の広がりを初学者 にもはっきりと認識させてくれる。全体を統一する美しい配色と輪郭の明確な挿図には,お国柄の優れた 美意識を感じる。Introductionで標本作成の手順を詳述していること,当然とはいえ索引に英語・漢字・ハ ングル文字を列記していることにも,この図譜の作成に取組む著者らの真摯な姿勢を見ることができる。見事な図譜の数々に目を奪われる
個々の解剖断面でHam & Kimの図譜をめくりながら引き付けられる事項には,当然個人的な興味の偏 りがあるが,上顎洞の立体的な広がり,咀嚼筋の腱束構成,左胃膵ヒダの立ち上がり,そして小腸粘膜ヒ ダの保存がきわめて良好なことなど,目を奪われた事項が少なくない。筋間中隔など結合組織の描出は, どの場面でもきわめて良好である。将来的に,図譜の右ページに収まるCTやMRIの画像の質がさらに高 まり,また臨床現場で多用される局所に特異的な斜め切り画像にも対応するようになれば,アジアから発 信されたこの優れた図譜の国際的価値は一層高まるだろう。(頁325 \12,200 Igaku - Shoin New York 刊)