医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


人間ドックの新時代に対応し改訂された実用書

人間ドックマニュアル  健康評価と指導のポイント(第2版)
日野原重明,田嶋基男 編集

《書 評》原島三郎(東京都予防協会理事)

将来への展望含め装いを新たに

 1996年1月27日,東京・新宿のパークタワーホールで行なわれた第24回日本総合健診医学会で「総合 健診の未来像」のシンポジウムが行なわれた。そして本年8月29―30日に熊本で行なわれる第37回日本人 間ドック学会では「新時代の人間ドック像-多様化と総合化」がシンポジウムとして企画されている。
 このように,人間ドックが新たな変容を模索して進みつつある時に,『人間ドックマニュア ル』第2版が将来への展望を含めて新たな装いのもとに発行されたのは,まことに時宜を得たもの といえる。
 巻頭で森亘日本医学会会長が医療の中の人間ドックの位置づけをし,科学とこころの調和の必要性を 述べており,次に藤間弘行・田嶋基男両先生が今日の人間ドックと将来展望について筆をすすめているが, 人間ドックの歴史のところで私は昭和29年に国立東京第一病院で小山善之先生が本邦で初めて人間ドック を開始された時にお手伝いをしたことを思い出した。
 人間ドックはその後現在のように発展し,さらに世紀末より新世紀に向かって将来展望を模索する時 期に来ていることが分かってきた。そして人間ドックの目的達成のために,日本総合健診医学会と日本人 間ドック学会の大先達を務められている日野原重明先生の「人間ドックにおける問診と診察の重要性とそ の意義」を人間ドックに関係している医師は何時も心しておくべきであろう。

高齢者の基準値と「許容値」

 各論の項では成人病に関する項目はすべて取り上げられているが,第1版と異なっている点として, 循環器系の中にあった中枢神経系を中心に「脳ドック」として新項目が取り上げられており,「骨粗鬆症 健診ドック」も骨量が低下し,大腿骨頸部骨折が増加してきて,寝たきり老人から痴呆化する悪循環を断 ち切るため,現在脚光を浴びている骨粗鬆症への対応として取り上げられている。その他,肥満,各種腫 瘍マーカーが新しい項目として取り上げられている。データとその評価の中で高齢者の基準値と「許容値」 について,日本総合健診協議会で検討されている現状を田村政紀PL東京健康管理センター所長により記 述されている。終わりに健診関係者にとって必要な健診データの守秘義務について述べてあるが,個人の データの守秘と共にデータベースの管理を厳重にすることは健診機関の責務であろう。
 本書は人間ドックに関係している多項目についてそれぞれの専門家によって記述されており,検査成 績に伴う指導のポイントが要領よくまとめてあるので,人間ドック,総合健診に関係している医師,保健 婦,保健士,看護婦,衛生管理者,健康保険組合事務担当者が人間ドックの現状と流れ,将来展望を知る のに有用であり,いつも手許に置いてよい実用書である。
(A5・頁432定宴\6,180円(税込) 医学書院刊)


国際レベルの卓越した科学的実証研究

日本の医療費 国際比較の視角から 二木 立 著

《書 評》西 三郎(愛知みずほ大教授・人間科学部)

 著者の二木立氏は,臨床医で経済学者で,それぞれの分野で一流であり,特に後者としての氏は,現 在のわが国での実証分析研究の第一人者であると筆者は思う。
 古くは,リハビリテーションでは上田敏氏と,社会科学では川上武氏と,医療経済学では江見康一氏 らと共編著・翻訳をし,現在では,医療経済学に関する多くの単著を発刊し,それも売れる本を書いてい る。その背景には,科学的実証研究に基づいているからといえよう。

医療費めぐる神話や常識を覆す

 「まえがき」に「日本の医療費問題を国際比較の視角から実証的かつ批判的に検討し」,いわゆる 「神話」「常識」を覆している。例えば,第1章で人口の高齢化,社会的入院が医療費増加の主因でない こと,第2章で医療技術進歩が単純に医療費を増加させるのではなく,医療費抑制策により操作され,過 度の医療費抑制が「医療の質」を低下させること,第3章ではリハビリテーション医療の原価計算より, 承認施設は好転し非承認施設では悪化していること,第4章では地域ケアの普及と医療費抑制とが直接結 びつかないこと,第5章では医薬品に関してマクロ経済学から薬価の高いこと,ミクロ経済学から新薬の 技術評価を含めて臨床経済学研究の遅れていること,第6章では80年代の医療法人病院チェーンの急増と 勤務医師の給与水準の低下が現在も続いていること等を実証している。
 著者の実証研究は,科学的な実証に努め,基本的に国際的な研究成果と比較できる研究方法を採用し ている。この裏付けを得るために医療経済に関する雑誌,図書に精力的に目を通し,引用文献をみてもそ の豊富さが明らかである。このため,実証していく過程を含めた論文であることから,個別の報告を追試 できるように記述してあり,丁寧に読むには多少しんどい面を含んでいる。なお,時間的な制約のためか, 校正ミスと思われる事項がみられ,再版の際には,新しいデータによる追加のみならず訂正を期待したい。
 本書の内容から,日本の医療費は,医療費政策に大きな影響を受けていることが明らかにされた。本 来,医療政策を論議するには,科学的な実証分析が基礎になければならない。しかしながら,広くこのよ うな分析が行なわれることは,政府の力が相対的に弱体化することになる。このためか,実証分析に耐え る調査も少なく,その資料の公開も進んでいない。著者は,直接国の政策に関与していない数少ない医療 経済研究者であるために,資料の入手には多くの苦労をかけながら実証分析研究に努めている。本書は, その成果の一部である。国際的な動向をみても,これからの時代は,独占した資料による政策づくりから, 資料を公開して広く科学的な政策づくりに基づくことが必要である。この著者と同様に,在野で医療経済 研究を手がける人が続出することがよりよい医療の確保のために不可欠といえよう。このためにも,本書 を参考書として活用することを薦めたい。
(A5・頁288 定価3,708円(税込)医学書院刊)


単独の著者によって洗練が重ねられた名著

腎不全の臨床(第4版) 杉野信博 著

《書 評》長澤俊彦(杏林大教授,日本腎臓学会理事長長)

 杉野信博東京女子医大名誉教授,腎研究会理事長の著書『腎不全の臨床』第4版が昨 年12月に医学書院から出版された。この本の第1版は実に驚くなかれ1971年に出版された。それからほぼ 四半世紀たって同じ著者により第4版が世に出たのである。共同執筆よりなる教科書ではありうることだ が,単独の著者によるこれだけ息の長い単行本は医学書の中でも類いまれの部類に属すといえよう。この ことだけでも本書が極めて価値の高い学術書であることが分かる。

腎不全の臨床の生き字引

 日本腎臓学会,日本透析医学学会の会長を務められた杉野先生は,わが国の腎臓病学の臨床と研究を 長年リードされてきた我々の尊敬する先生である。先生は若い日にアメリカで腎生理を専攻された関係も あって,腎臓病学の中でも特に腎不全の臨床と研究をライフワークとされてきた。この先生により改訂に 改訂を積み重ねられてきた本書は,文字どおり“腎不全”の臨床の生き字引ということができよう。本書 は著者が序で述べておられるように,医学生,研修医,若き病棟医たちを対象とした入門的小冊子である。 その内容は腎不全,急性腎不全,慢性腎不全,透析療法,腎移植,腎不全対策の6章からなりたっており, 腎不全のすべてが分かりやすく理解できるような構成になっている。そして,その内容は著者が長年務め られた東京女子医大腎臓病総合センターの症例・資料を随所に引用して新鮮さが満ちあふれている。本書 は腎臓病学を志す若き医学徒のみならず,腎臓病学に関心の深い一般医家にとってもまたとないよき参考 書となるであろう。
 先生は序の終わりに,本書がおそらく自著として最終改訂になると思うと記されているが,先生はま だ我々腎臓学を専攻する者を指導されている現役の腎臓病の学者であり,臨床家である。腎臓病,特に腎 不全の研究と臨床の進歩はきわめて早い。先生が次の改訂で本書を通じて腎不全の臨床の歴史と進歩を我々 に教えて下さることを願って本書の書評の結語としたい。
(A5・頁312 定価6,180円(税込)医学書院刊)


絶対必要な知識を教えたいという著者の熱意

Q&A整形外科学の要点 辻 陽雄 著

《書 評》山内裕雄(順大教授・整形外科学)

 著者辻陽雄教授は情熱家である。とくに医学・医療のあるべき姿について話すときの彼は峻 烈かつ独創的である。その底には,かくあるべしとするものへの彼の真摯な姿勢が滲み出ているために, 人を打つ。さらに医学教育のことになると,その情勢は留まるところを知らない。そして彼一流の表現が 飛び出す。「人間性」を「じんかんせい」と読ませて,「ひとのあるべき姿」を意味させるらしい。それ やこれやで彼の弁論は世に「辻説法」とも言われている。わたしは彼のようなパトスの(そして ロゴスの)持ち主がわれわれの仲間にいることを誇りに思っている。

勉学と実践に役立つ一問一答形式

 本著は辻教授が医学書院発行の教科書『標準整形外科学』の改訂編集に携わっ ての経験から「学生や研修医にとって大切なことがらについてのポイントを明示し,勉学と実践に役立て ようと一問一答形式でまとめた」冊子である。読んでいって,やはり彼らしいなと思わずほほえんでしま う。「筋力増強トレーニングの生理学的要諦は?」とくる。まるで弁慶と富樫の問答だな, 若い読者に果たして要諦はわかるだろうかと心配になる(現代的表現であればポイントであ ろう)。彼のモットーの一つに「基本に忠実であれ」がある。彼の名著も『基本腰椎 外科手術書』となっている。これが本書の要諦らしい。整形外科学を学ぶもの,実践 するものにとって絶対必要な知識をなんとか知らせたいという彼の熱意が本書を書かせたようだ。
 基礎医学的な知識から医療経済・福祉にいたるまで一問一答はつづく。難易度はまちまちである。し かし知識の整理はひとさまざまであって,わたしも教えられるところが多かった。特筆すべきは,とかく 初版本にありがちな誤植・ミススペルがほとんどないことで,著者の意気込みのほどがしのばれる。注文 としてはすぐ横の欄に答えがあるため,つい自分で答を考える前に読んでしまうことであり,日整会の Q&AのようにAを次項にでも離して印刷するとよかったかもしれない。
 さらに欲をいえば,パソコンの時代である,この本の読者のような若い世代はほとんど日常パソコン をあやつっている。このようなQ&Aは格好なパソコン教材になる。もう本が本のかたちをとる必要がな くなりつつある時代である。ゲーム的なパソコンフロッピーで整形外科学の教材を作ることをぜひ出版社 にお願いしたい。この本などは,その手始めとしてまさに格好のものではなかろうか。
 最後にもう一つ注文。難しいではあろうが,Aの欄に,著者が推奨する文献を記載しえもらったら自 己学習にさらに有意義ではなかろうか。さぞかしお忙しいではあろうが,著者がこの冊子をさらにダイナ ミックなQ&Aに発展されんことを若い世代のためにねがって書評にかえたい。妄言多謝。
(A5・頁272 定価3,605円(税込)医学書院刊)


著者独自の方法が非常に参考になる

PTCAテクニック 光藤和明 著

《書 評》延吉正清(小倉記念病院・循環器科主任部長)

 今回光藤和明先生の執筆により『PTCAテクニック』というユニークな本が出 版された。光藤先生は冠動脈インターベンションの本邦における第一人者であり,技術などその判断力は 随一といえる。このような実地にPTCAを行なっている人が書かれた本であるので本書の内容は非常に実 用的である。

PTCAを患者にどう説明するか

 まず,実際にPTCAについて患者にどのように説明するかが書かれている。このような内容の本は本 邦には今まで皆無であり,これからPTCAをはじめる人や現在PTCAを行なっている人にも非常に役立つ と思う。
 次にPTCAのトレーニングの問題について書かれている。欧米では常に問題になるが,本邦では必ず しも取り上げられる問題ではない。例えば,同じ程度の術者が2人で行なうよりも,まずうまい術者をつ くり,その術者が次を訓練するというように,具体的なことが書かれており,私もこの問題については全 く同意見である。
 その後はPTCAの実地面について,PTCA前,実施中の投薬の問題が書かれている。
 次の章は使用するdeviceのことが細かく書かれている。シースの入れ方,角度,ガイドワイヤーの挿 入も手にとるように書かれており,特に腸骨動脈の曲がった方のロングシースの用い方などは非常に参考 となる。上腕からのPTCAは比較的まれであるので経験した方も少ないと思われるが,この方法について も詳しく解説されている。

ガイディングカテーテルを詳述

 その後はいよいよPTCAの本質的な部分に入り,ガイディングカテーテルはどのような場合にどのよ うなものがよいかを図示しながら非常に詳述されている。PTCAで大切なことはいかに上手にガイディン グカテーテルを使うかであり,またその使用が不適切であれば冠動脈口の損傷を引き起こし,重大な事故 につながる。このためこの章は初心者には役立つと思う。
 次のバルーンカテーテルの選択では,バルーンの持つ特性をあげ,それぞれについてどのような場合 にどのようなものが最適かが書かれている。その後はロングバルーンモノレールなどの使用法(適応基準) があげられており,参考になると思われる。冠動脈造影はPTCAでは欠かせないので,第9章は各方向から 見た造影所見がPTCAに必要な知見から述べられている。
 次のガイドワイヤーの選択と操作もPTCAの基本であり,このワイヤーの操作につき非常に細かく図 を用いながら述べられている。初心者は本書に書かれたガイドワイヤーの操作方法を十分に習熟すること により,安全で確実な操作ができると思う。バルーンを通過させるのも色々な技術が必要であるが,ガイ ディングカテーテルとバルーンをどのようにうまく使用するか,バルーンの通過方法を図で示しながら書 かれており,この方法を十分理解することにより,バルーンの通過を容易にすることができると思われる。

無駄な部分のない実戦的な本

 分岐部病変に対するPTCAは,以前は2つのガイドカテーテルを用いたが,現在ではほとんど皆無であ り,現在の方法について詳しく述べている。
 慢性完全閉塞に対するPTCAについては,各術者は色々工夫されているが,左右の同時造影,対側造 影,ガイドカテーテルとバルーンの位置関係,ガイドワイヤーの交換,閉塞血管内でのガイドワイヤーの 操作方法につき著者独自の方法で書かれており,私にとっても非常に参考となる。この慢性完全閉塞は色々 なアプローチがあり,著者の方法は読者にとって参考となると思う。
 急性心筋梗塞に対するPTCAであるが,バルーンサイズと使用方法またbail outの方法につき詳しく書 かれており,また著者独自の工夫もなされていることが本書よりうかがえる。合併症と対策については, 急性冠閉塞や穿孔,末梢塞栓などが起こった時にどのようにするかを非常に簡潔に述べており,読者はこ の章に目を通しておく必要がある。
 本書は本文が132ページという比較的手軽な本であるが,無駄な部分がなく,非常に実践的な本であ る。本書を一読することにより,初心者はもちろんのこと,今までに多くのPTCAを行なってきた先生方 も,異なった方法を用いて工夫しているところが多いので,非常に参考になると思われる。ぜひ一読を薦 めたい。
(B5・頁146 定価6,180円(税込)医学書院刊)


尿検査の全体的理解の一助となるテキスト

Cytodiagnostic Urinalysis of Renal and Lower Urinary Tract Disorders
G. Berry Schumann, Janet L. Schumann, Niels Marcussen 著

《書 評》矢谷隆一(三重大学教授・病理学)

 尿検査は現在でも安価で非浸襲的な検査方法として,日常的に行なわれている。しかし多くの病院で は尿の検査は蛋白,糖などの検出,定量を行なったり,沈渣を顕微鏡的に検査する部門と悪性腫瘍の検出 を主とする細胞診部門に分かれていることが多い。また出版されている専門書に関してもそれぞれの分野 に関しては多くの専門書が出版されているが,この2分野を統合するような専門書はほとんど見られない。

肉眼的検査も詳しく記載

 今回出版されたG.Berry Schumann他による『Cytodiagnostic Urinalysis of Renal and Lower Urinary Tract Disorders』はこれらの統合を目指した新しいタイプのテキストである。本書では組織 学を含めた尿検査のbackground,検体の取扱い,処理など基礎的な分野について詳しく記述がなされ,初 心者にとってもわかりやすく読めるものと思われる。その後,細胞診の分野ではあまり触れられない肉眼 的な検査についても詳しく記載が行なわれており,ベテランの細胞検査士や医師にとっても基礎を振り返 る良い機会になるものと思われる。その後通常行なわれる,蛋白,糖などの化学的分野の検出手順,解釈 について述べた後で,尿沈渣について詳細な解説が行なわれている。そして顕微鏡レベルでの検索は細胞 のみでなく,結晶成分,様々な円柱等についても詳細な記載がなされている。
 全般的な検査についての記載の後各論に移るが,そこでは急性腎不全,糸球体疾患などこれまで細胞 診の分野ではあまり触れられたことのない分野についても触れられている。また日本ではほとんど触れら れることのなかった腎移植,それに伴う拒絶時に見られる変化についても述べられていることは,今後移 植が増加した場合大いに手助けになるものと考えられる。

本書の狙いが一目瞭然の最終章

 本書で著者たちが目指したものは尿検査を総合的に行なうことであったと思われるが,それを端的に 現しているのが,最終章に纏められた症例である。ここでは美しいカラー写真とともに様々な症例が呈示 されているが,ここでは肉眼所見,糖,蛋白などの所見,尿中の細胞に関する所見が提示され,それらを 総合した上での解釈がなされている。本書をご覧の際にはまず最終章をご覧になれば,本書の目指すもの がご理解いただけると思われる。とかく日々の業務に従事していると,それぞれの分野に閉じこもりがち であるが,総合的に尿検査について理解したい病理医,臨床医,細胞検査士,臨床検査技師にとって,活 用の期待できる参考書であると思われる。
(頁200 定価17,900円 Igaku-Shoin New York刊)