医学界新聞

 

看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第23回〉
マネジメントの名著論文に学ぶ

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 2006年11月号の『ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)』(31巻11号)は,創刊30周年記念号であり,「偉大なる経営論」の特集であった。

 編集者は,HBR名著論文30選を,次のような解説をつけて掲載している。「多くのビジネス手法が一時の流行に終わりがちななか,時を経ても色あせず普遍性を持つアイデアも実際に存在する。ハーバード・ビジネス・レビューが1996年までに掲載した論稿――したがって実際に10年以上の時間経過に耐え抜いている論稿のなかから,いまもって読み返されることの多い」論文を選んだというのである。パートIは「戦略の源流を探る」14論文,パートIIは「組織のダイナミズムを引き出す」15論文,パートIIIは「ビジュナリー・カンパニーへの道」1論文であり,パートI・IIは抄録,パートIIIは全訳が読める。

 そこで,パートIIより看護界でも共通のテーマである論文を2つ紹介したい。

マネジャーの10の役割とマネジメントの3つの手法

 ひとつめは,「マネジャーの職務:その神話と事実の隔たり(The Manager's Job: Folklore and Fact)」(ヘンリー・ミンツバーグ,1975)である。マネジャーは,「組織,あるいはサブ・ユニットを預かっている人物」であり,「ある組織単位に関する権限が公式に付与されている。その権限によってさまざまな対人関係が生まれ,この対人関係によって情報にアクセスすることが可能になる。さらにそうした情報によってマネジャーは,自分の組織のために意思決定し,戦略を策定している」のである。

 さらに,こうした一連の職務は10種類の役割によって構成されているとし,対人関係上の役割には,(1)看板,(2)リーダー,(3)リエゾンであり,マネジャーの情報処理上の役割には,(4)監視役,(5)散布者,(6)スポークスマンがある。しかし,情報収集は目的ではなく意思決定のためのインプットであり,意思決定者のマネジャーには,(7)企業家,(8)妨害排除者,(9)資源配分者,(10)交渉者の役割があるとしている。

 そして,マネジメントの効果をあげるためには,(1)マネジャーが所有する情報を分かち合う体系的なシステムを確立し,(2)表面的な仕事に追いやろうとするプレッシャーを意識的に克服し,真に関心を払うべき問題に真剣に取り組み,断片的な情報ではなく,幅広い状況を視野に収め,分析を活用すること。さらに,(3)マネジャーには,義務を利点に変え,やりたいことを義務に変え,自分の時間を自由に管理することが求められているとしている。

 マネジャーは自由時間を見つけるのではなく,ひねり出して,スケジュールに無理やり押し込めていくものなのだという。賛成である。

リスクを伴うトップダウンの組織改革

 次は,「成功する組織改革はボトムアップである(Why Change Programs Don't Produce Change)」(マイケル・ビーア,ラッセル・A・アイゼンスタット,バート・スペクター,1990)を紹介しよう。今日,企業の経営者は従来の階層型の組織を変えるべきだと認識しているが,その手段を誤解しているというのである。特に人事部門が主導する全社的な変革プログラムこそ,最大の障害なのであり,「プログラム型改革の虚構」であるとしている。

 成果をあげた企業では一般に,本社から遠く離れた工場や事業部のような周辺部から改革に着手しており,それを主導するのは事業部門のマネジャーである。つまり,その方法は,「組織の構造に重点を置くのではなく,具体的なビジネス上の問題の解決を目的とする特別の組織をつくること」にあり,トップは,「指導せずに」,改革“プロセス”を指導するのである。改革とは学ぶことであり,組織改革をトップから始めてはならないということではないが,この方法は一般的ではなくリスクを伴うと述べている。

 先日,業績評価を“トップ”から導入されて不満を訴えて訪ねてきた看護師の顔が浮かんだ。

つづく