医学界新聞

 

糖尿病対策に総合的マネジメントを

第11回日本糖尿病教育・看護学会開催


 第11回日本糖尿病教育・看護学会学術集会が,さる9月16-17日,嶋森好子大会長(京大病院)のもと,京都市の京都国立国際会館において,約2300人の参加者を集め開催された。

 メインテーマ「質と安全確保の時代に求められる糖尿病教育・看護」はじめ,特別講演「ヒューマンファクターからみた医療安全」,シンポジウム「糖尿病教育・看護における標準化への挑戦」,教育セッション「糖尿病と妊娠――看護者間が連携して糖尿病合併妊婦へのケアの提供する……」「成人したI型糖尿病患者の体験から学ぶ」など,医療安全,標準化,妊娠,患者からの学びといった,これからのケア提供で追求されるべきキーワードが今大会の柱となった。


 今学会は,嶋森大会長によるメインテーマ講演「質と安全確保の時代に求められる糖尿病教育・看護」で幕が開けた。まず,糖尿病をはじめとした生活習慣病患者管理の重要性を示す厚労省の施策から,わが国の生活習慣病の現状,生活習慣病の背景と対策,今後の方向性を示し,医療機関の医療機能の分化・連携とともに,医療費増加に関連づけたうえで,総合的な対策が急務だと訴えた。

 またこうした状況のもと,糖尿病における質の高い看護師育成事業に対して,厚労省が予算化したことを受けて,学会として特別委員会を設けたことを報告。さらに,インスリン関連のエラーが多発している現状から,医療安全管理の考え方に関して,リスクマネジメントからセイフティマネジメントへの転換が必要だとして,安全対策のステップを具体的に示した。これには,総合的解決をめざす“改善”を中心とした質管理の中長期的な対策が有効としたほか,他分野との協働による医療安全体制の整備の推進,患者安全に視点を置いた看護提供プロセスの再構築,機器・製薬メーカーとの協働による安全な機器および表示方法の開発の必要性,そして患者への適切な情報提供と患者の医療参画の推進などを,今後の課題として提示した。

 続く特別講演では,芳賀繁氏(立教大現代心理学部)が「ヒューマンファクターからみた医療安全」をテーマに壇上に立った。“ヒューマン・マシン・システム”の構成要素としての人間が,与えられた役割を果たせなかったときに発生するヒューマンエラーには,システム全体を視野に入れた対策の検討が不可欠であると指摘。そして,医療には“絶対安全”はないが,リスクを最小限に抑える努力が必要であり,守るべきルールは守るべきとし,さらに仕事の社会的意義を考えること,仕事に誇りを持つこと,仕事が楽しいことなど,安全への動機づけを高めていくことの重要性を強調した。

さまざまな立場から“標準化”を議論

 シンポジウム「糖尿病教育・看護における標準化への挑戦」(座長=杏林大病院・福井トシ子氏)では,「標準化の意義について考える」をテーマに掲げた飯塚悦功氏(東大大学院工学系研究科)が,産業界においてすでに常識となっている標準・標準化の概念や方法論について,医療・看護分野でも十分通用し,しかも問題解決にあたって重要なヒントになると述べた。標準とは,マネジメントにおける計画の結果であり,標準化とはベストプラクティスの共有手段であるとし,さらに標準化の目的を「単純化,統一」であるとしたうえで,“Save Thinking”(独創的であるためには,考えずにすむことは考えず,その分考えなければならないことをとことん考えよう)の考え方を示した。

 大橋健氏(東大病院糖尿病代謝内科医師)は,今最大の問題は,糖尿病の病態解明と根治に向けた研究の進展や治療に関して集積されたエビデンスが治療に十分に結びついておらず,個々の患者に届いていないことだと述べた。そのうえで,網膜症・腎症・神経障害などの合併症に加え,心筋梗塞・脳血管障害などの大血管症がクローズアップされるなかで,いっそうの医療の進歩と質の改善,標準化が必要だと訴えた。さらに,治療の成否のカギを握る患者のセルフマネジメントを効率的に促すための“患者と医療者の協働作業”こそ,療養指導の本質だと語った。

 幣健一郎氏(京大病院疾患栄養治療部栄養管理室)は,これまで糖尿病治療に実践されてきた個別化した食事療法・栄養管理はまさにNST活動そのもので,NSTはそもそも質の高い医療の提供が目的であるとしたうえで,従来の栄養管理では,特に性別や年齢などへの配慮が十分でなかったと指摘。そして,栄養アセスメントによる個別栄養管理,療養指導連携,個別性への配慮は,標準化があってはじめて有効になるとし,糖尿病療養指導士によるチーム活動,NSTの普及に加えて,標準に基づく個別性を重視することの必要性を訴えた。

 伊波早苗氏(滋賀医大病院)は,「いかに標準化すれば,患者支援となるか」という観点から,現場の看護師として,標準化の必要性を理解しながらも,実際に取り組むことの難しさなど,現場の率直な意見を述べた。糖尿病看護におけるエビデンスはあまりないなかで,クリニカルパスはうまくいっているとしながらも,アウトカム志向であり,個別性が重視されていないのは,インスリン導入時や初回教育入院時など対象を限定しているからだと述べた。

 学会理事長でもある河口てる子氏(日赤看護大)は,ポピュラーな糖尿病看護ケアを標準とした場合,看護師の力量によって差が出るほか,客観的指標が少なく無理があるのではないかと指摘したうえで,改善が見込め,可能性もあるとして“半歩上の水準”に標準をおくべきだと述べ,高度な看護実践の思考,判断,行為のプロセスなどの構造を可視化し,アドバンスケアに資する道を追求するよう求めた。

糖尿病に強い看護師を育成

 交流集会「糖尿病に強い看護師育成支援のための研修プログラムの作成」(進行=福井トシ子氏)では,まず「糖尿病に強い看護師育成支援委員会」委員長である嶋森氏が,厚労省の事業への協力,看護職員の質の向上,健康フロンティア戦略の一環としての国民の健康への寄与,学術大会としての使命,標準化した研修プログラムを全国で均てん化し提供することなどを理由として挙げ,政策に反映させるべく活動を推進していきたいと述べた。本事業は,厚労省の平成18年度予算(1億3800万円)のもとに「がん及び糖尿病の患者に対する看護ケアの充実のため,都道府県が企画立案・評価し,臨床実務研修を実施することにより,臨床実践能力の高い専門的な看護師の育成を図る」ことを目的としている。

 数間恵子氏(東大大学院)は,本事業に対して学会のネットワークと資源を利用し,標準的研修プログラムの開発を決めた経緯を説明。続いて,瀬戸奈津子氏(日看協)らが具体的なプログラムの内容について解説した(詳細は学会HP参照,URL=http://jaden1996.com/committee/special_program_detail.html)。

 本事業は都道府県から委託を受けた中核病院が実施することになるため,本委員会では,そうした医療機関への働きかけをさらに進めていくとともに,該当医療機関の積極的な参加を呼びかけた。