医学界新聞

 

【対談】
信頼される医師の質保証へ向けて

宇都宮啓氏
(厚生労働省医政局
医療機器・情報室室長
前・医師臨床研修推進室室長)
北村聖氏
(東京大学教授
医学教育国際協力研究センター)


 2004年に開始された新医師臨床研修制度も今年で3年目を迎え,この春,最初の研修修了者が誕生した。本制度はインターン制度廃止以来の抜本的な改革で,開始後の混乱もあり,意見・要望が各所より出されている。

 今回,本制度の施行に携わった前・厚生労働省医師臨床研修推進室室長の宇都宮啓氏と,東京大学医学教育国際協力研究センター教授として研修制度の変化を身をもって感じている北村聖氏に対談をお願いし,本制度によってもたらされた変化を総括し,初期研修制度のあるべき・進むべき方向性を探った。


制度施行プロセスでの反省点

北村 新医師臨床研修制度については,いろいろ混乱,批判が出ましたが,それについてはどう思われますか。

宇都宮 過去のマッチング4回すべて95%以上のマッチ率でしたし,研修医に対する満足度調査の結果もまずまずでした。また,今夏に発表された全日本病院協会の調査でも,研修医を受け入れた病院の72.3%が「受け入れて満足だった」と回答しています。さらに,「初期研修について困っていることがありますか」という問いに対して,最も多かった回答は,なんと「問題なく順調に進行している」(43.0%)でした。このようなことから,制度自体は比較的うまくいっていると思います。

北村 総括的な意見では,前の制度に比べよくなったと私も思います。知識はあっても目の前の患者に対応できない医師が実際にいたわけで,そういった基本的な診療技術を身につけるという趣旨に何ら異存はありません。

 ただ,医師法等の改正から新医師臨床研修制度の開始まで約4年間ありましたが,具体的な内容が現場の病院や大学の医師,学生に周知されなかった。もっと早く周知され,大学や病院の半数でトライアルされていたら,混乱は少なかったかと思います。

宇都宮 ですが,医療関係者審議会で必修化が提言されてから,6年間の議論を経て法改正し,さらに施行まで4年ありました。つまり,提言から10年を経て施行となったわけで,細かい点は直前になってしまったとしても,大枠はかなり前から公表されていました。

北村 現場は「研修必修というからには,国が研修医の給料を負担することになるだろうけれども,いまの国の財政で負担は無理だろう。必修化はかけ声だけで終わる」という見方でした。お金の問題が解決していなかったため,情報を投げかけられても,100%信用するのは難しい状況でした。

宇都宮 そこですね。確かにお金の話はギリギリまで決着しませんでしたが,少なくとも「病院はプログラムを公表して,研修医が自由に選べるようにする」という情報は以前から発信していました。そして,制度化前に前倒ししてスーパーローテートを取り入れた大学もいくつかありますし,岩手県では指導医講習会を早くから始めるなどの努力で,現在は研修医が2倍に増えています。受け取った情報をしっかりキャッチして対応したかどうかの違いがあったのかと思います。

北村 これは施行プロセスの話であって本質的な問題ではありませんが,財源の課題が最後まで残っていたのは反省点かもしれませんね。

宇都宮 そこは財政当局との詰めで,なかなか厳しいところでしたね。

■細分化された現代医療の弊害

求められている医師の質保証

北村 新医師臨床研修制度を修了した医師のイメージをお聞かせください。

宇都宮 浅くではありますがプライマリケアの基本的な能力が身についているなど,改善されていると思います。例えば研修医から,「ストレート研修できた先生方は,自分の専門と違うと最低限のアセスメントもしないで投げ出してしまう。しかし自分たちは,研修修了後すぐに眼科に行ったとしても,全身状態をアセスメントし,他科に紹介できるところが違う」などという話を,ずいぶん聞きます。現在,どういう能力・手技が身についたかというデータを分析していますので,古い制度時のデータと比較し,客観的に示せると思います。

北村 今の研修医たちは外科も内科も経験しているため,診療に余裕がある感じがします。一方,スーパーローテート導入で,2年間きちんとやれない人がずいぶん表に出てきました。いままでは,医局に入ってしまうと臨床に向かない人,能力的に劣る人が隠されていたのですが,今はその人に対するフォローなど,きめ細かい卒後教育ができるようになり,すべての医師が最低限のことができる方向に進んでいると思います。

宇都宮 「臨床医としての品質保証」がこの制度の大きな趣旨です。これまでは,極論すれば「注射が打てなくても医師は医師」でした。患者さんの側からすれば,医師であればこのくらいはわかっているのではないか,できるのではないかという期待とのギャップが大きかったのだと思います。国民へのアンケート調査を見ても,医師や医療に対する不信が,最近多く表れています。例えば厚労省のある調査では,医療機関や医師等に不安を感じることが「よくある」人と「ときどきある」人を合わせると73%にも達していました。この制度は,患者が医師に求める最低限の資質・知識・技術を担保しようとするものだと思っています。

 今までの医師はアメリカンフットボール(アメフト)のプレイヤーで,今度はラグビーのプレイヤーになったと例えています。アメフトは,役割分担が細かく決まっています。人数が多ければ攻守は別ですし,さらに攻撃陣の中でも細分化し,ボールに触ってはいけないポジションもあります。しかし素人は,アメフトのプレイヤーは全員ボールを持って走ったり,蹴ったり,投げたりできると思っています。

 ラグビーの場合は,一応ポジションは決まっていますが,試合が始まれば,状況によって攻守はいつでも替わり,誰がトライをしてもいいわけです。全員が走る,蹴る,タックルをするといった必要最低限のことができたうえで,細かいポジションが決まっている。これが求められる医師じゃないかと思います。

さまざまな要因が絡み合う地域の医師不足問題

北村 「新制度のせいだ」と言われていることに医師不足があります。医師不足には,地域による医師不足と診療科の偏在による医師不足の2種類あります。多くの医師は,研修制度が多少引き金にはなったとしても,本質的にこの制度のせいではないと理解していると思います。ただ,この研修制度によって増幅されたと考えている方もいます。これについてはいかがですか。

宇都宮 地域の医師不足は,大学の医師引き揚げが要因に挙げられています。それは研修医が減ったためと聞きますが,大学病院の中で,雑用ばかりさせていた1-2年目の研修医の代わりに5年目,10年目の最前線で働いている医師を引き揚げ,雑用をやらせるというのは理屈が合わないのではないでしょうか。また,臨床研修制度のせいで指導が大変になり「指導医を確保するために引き揚げなければならなくなった」とも聞きますが,そもそも教育病院としてやっていたのですから,研修医が少なくなったらむしろ指導医はこれまでより少なくてすむのではないでしょうか。

 関連する要因として国立大学の独立行政法人化があります。大学病院自身が経営を考えざるを得なくなり,第一線で活躍する医師には,自分の病院で稼いでもらわなければならなくなるとともに,労働基準法の適用対象となることにより人員確保が必要になりました。また,名義貸し問題の発覚があり,さらには地域によって若手や中堅医師の開業傾向が強まったという指摘もあります。これらのことが,新医師臨床研修制度施行と同じ時期に集中したために,相乗効果を生んでしまったと思います。

 大学院重点化の影響も大きいと思っています。国公立大学医学系博士課程の入学定員は1995年から2004年までに1000人近く増え,私立大学大学院も含めると現在5000人以上の入学定員となっています。医師免許を取得する人が年間7500-7800人で,5000人の定員を埋めるのは厳しいでしょう。しかも大学院をつくったからには,教員を確保しなければならない。実際に2004年末には,大学の教員はわずかではありますが増えているんです。

北村 地域が医師不足に陥った原因は,大学病院が地域病院から医師を引き揚げたことに少なからずあると思います。ですが,地域医療を支えるのが大学の医局であること自体がおかしかったんですよね。いままでは自治体が大学任せにしてしまった。やはり,自治体が真剣に考えるべきことなのですから。

宇都宮 そうですね。自治医大卒業生の9年間の義務年限終了後の定着率についてのデータでも,都道府県によって50-90%と差が大きいです。自治医大卒業の医師は,地域医療に情熱を傾けている人ばかりなのですが,なぜ50%しか定着しないのかを県は真剣に考え行動する必要があると思います。「医師が減った」,「大学が医師を派遣しない」から国が何とかしろと言う前に,県としてもっとやること,できることがあるのではないかと検討することも必要なのではないでしょうか。

専門性の追求にはプライマリケアの土台が重要

宇都宮 宮城征四郎先生がよくおっしゃっていたのは,「へき地に医師が行かなかったのではなく,行けなかったのだ」ということです。ストレート研修で,設備の整った病院で研修してきた医師が,地方の設備も少なく,どんな患者が来るかわからないところへ行くのは非常に怖いことです。

北村 医師不足の根本に,1人の医師ができる範囲が狭くなりすぎたことがあると思います。昔の医師は内科でも,風邪から血圧,糖尿病と一通り診ることができました。いまは,「循環器は循環器,糖尿病は糖尿病の専門にかかってください」となり1つの病院に何人も医師がいりますよね。いまの研修制度で,一通り診られる医師たちが育っていけば,医師不足の解消にもつながるでしょうし,自発的にへき地にも行くようになると思います。仮に派遣という形でも,うまく対応できる人が行くようになるでしょう。

 小坂樹徳先生が,「富士山がきれいなのは,高いからきれいなんじゃない。裾野が広いからきれいなんだ。電信柱がどんなに高くても,美しくはない」と,そこまでおっしゃっていましたが(笑)。専門医であっても,プライマリケア能力を持っていないといけないと思います。専門性が高ければいいというものではないことを,ぜひわかっていただきたいです。

 あと医療制度上,医療が高度になったら集約化はどうしても必要になります。そのためにはまず医療のアクセスと質は相反することの周知が重要ですね。8割ぐらいの病気は,プライマリケア医のところで済むのだから,全員が専門医にかからなくてもいいんじゃないですか,と言いたいですね。

宇都宮 患者さんは専門医志向と耳にしますし,実際そういう部分もありますが,むしろ医師に対する不信感の裏返しだと思うんです。一般の医師が信用できないから,専門医を求めているのだと感じます。実際,「専門医へ」と言っている患者さんによく話を聞いてみると,実際に求めているのは,多くの場合,「よく話を聞いて,きちんと説明してくれる医師」「信頼できる医師」なんです。

北村 専門医の試験では,狭い分野の知識をみていますから,患者さんが期待している,説明責任の果たせる医師,患者にわかるように話せる医師というのと,現状の専門医とずれがありますね。アメリカでは,専門医は腕利きだけれども愛想はない。むしろ,プライマリケア医のほうがいいです(笑)。

■キャリアデザインを示すことが重要

北村 研修医は何を基準として,研修病院を選んだのでしょうか。

宇都宮 厚労省の臨床研修に関する調査結果で見ると,市中病院の場合は「症例が多い」,「プログラムが充実している」,「実家に近い」,「熱心な指導医が在職」ということでした。

北村 この「実家に近い」ということですが,私は,医学部に合格する人は,都会の進学高校の人が多いと思っています。そして,自分の成績にあわせて地方の大学に入ってしまうので,「実家に近い」と書いてはありますが,それは大都市にある実家に近いことが多いのではないでしょうか。

宇都宮 都心部に集中しているわけではありません。例えば山口,島根,岩手県などはかなり戻ってきているように聞いています。特に女性は,比較的地元志向があるようなので,女性医師の増加も影響していると思います。そういう意味では地域枠設置という施策の1つの根拠になると思います。

北村 研修先の決め手が給料や大都市ではないのは,嬉しいですね。

宇都宮 大学病院の先生方が,「都会の給料の高いところへ行ってしまう」とよく言われますが,大学の中だけで見ても,国公立大よりも私立大学のほうが給料は低いです。しかし,私立大学のほうが比較的マッチ率はよいです。また,例えば島根大学は県と一緒になって取り組み研修医が増えました。そういうところを分析してみてはいかがでしょうか。

 診療科については,小児科や産婦人科など臨床研修で非常に厳しい現状を見て志望しなくなったとおっしゃる先生がいます。しかし,逆に他科志望だったが,研修を行った結果,「やりがいがあるから」という理由で産婦人科,小児科に行くことを決めたという人たちもかなりいます。そして,産婦人科,小児科の志望者数も減少しているわけではありません。むしろ厳しい現状をよくわかったうえで志望する人がこれだけいるということは,未来は明るいのではないでしょうか。

研修のスタンスを明確にすべき

北村 新医師臨床研修制度開始後,年々大学病院の研修医が減少しています。大学病院に研修医が集まらないのはなぜだとお考えですか(表)。

 臨床研修医在籍状況の推移(単位:人,%)
区分2003年度2004年度2005年度2006年度
研修
医数

研修
医数

研修
医数

研修
医数

臨床研修病院2,23727.43,26244.13,82450.84,26655.3
大学病院5,92372.64,13055.93,70249.23,45144.7
8,1601007,3921007,5261007,717100

宇都宮 新制度の趣旨であるプライマリケアの基本を学ぶのにふさわしいか,そしてプログラムがきちんとしているかというところで,研修医が大学を選んでいないからではないかと思います。そもそも大学病院は,特定機能病院の指定を受け,高度先進医療を担う役割を負っているのですから,臨床研修医より3年目以降の医師が,専門を学ぶのにふさわしいところだと思っています。地域医療やプライマリケアに力を入れるという方針の大学であれば,それはそれでいいですが,スタンスをはっきりさせるべきです。

 いまの研修医はキャリアデザインを考えています。「自分はここで研修して大丈夫なんだろうか」という気持ちになるところには行きません。

北村 加えてたくさんの症例を経験できる市中病院へ進む流れがあると思います。しかし最初のうちは症例を丁寧に診ることが大事だと思っていますが,研修医は,「症例を多く診たい」「技術を少しでも早く身につけたい」と考えていますね。

宇都宮 症例を丁寧に診ることは必要ですが,いつかは一人立ちして地域に出ていく時に,それまでに経験した症例が少ないと困りますよね。できるだけたくさんの症例を診たいと思うことは,自然ではないでしょうか。

北村 数をこなすことの必要性はわかっているつもりですが,数が多いと条件反射のように,熱がある「じゃあ解熱剤」,痛みがある「鎮痛剤」など小手先のことだけを身につけてしまうのではないでしょうか。考える訓練ができていない間は,病態を真剣に診て,「この人の体の中には何が起こっているのだろう」と考え,指導医とディスカッションすることが大事だと思います。そういう意味で,1年は大学,1年は市中病院で研修する“たすきがけ”は良い点,悪い点を補完するいい制度だと思っています。

宇都宮 たすきがけは違った病院を経験できるという意味はよいかもしれませんが,大学・市中病院のどちらで内科を行うかで,かなり変わってくると思います。

北村 東大を見ていると,1年目は東大,2年目は外の病院に進みたい人は,内科や外科に行く人が多いです。最初は少ない症例で考え,自信がついたら外の病院で数多く診たいということでしょう。逆に,1年目が外の病院で,2年目が東大に来たい人は専門医をめざす人で,内科はこの時期しかやらないので,症例をたくさん経験したいといい,2年目は専門医につながる科を大学で研修するといった,キャリアデザインを考えうまく回る順番を考えていますね。

宇都宮 大学病院は,診断名がついてから来る人がほとんどですよね。福井次矢先生のデータでは,住民1000人あたり300人ぐらいが医療機関にかかる中で,大学病院の外来にかかるのは6人,入院は0.3人しかいないといいます。しかし国民が求めている医師として必要な能力は,初診時の診断能力だと思っています。厚労省の調査でも,研修医の55%は比較的ジェネラルな診療の道に進みたいと考えており,そのような医師が診断能力を修得するためにはいろいろな症例を診ておくことが必要です。もちろん,最終的には専門の高度な医療に進みたい研修医もいますから,その場合はもう少し違うアプローチもあるかとは思います。

基礎医学研究後でも研修は可能

北村 研修に人がとられてしまい,基礎医学の衰退を助長するという意見はどうですか。

宇都宮 この研修制度は,臨床を行う人が2年間受けなければならないだけで,最初から基礎をめざしている人は,この研修を受けなくても問題ありません。研究は,思考の柔軟な若いうちに行うほうが望ましいですから,先に基礎研究をやっていただければ思います。医師免許を取ったらすぐに研修をやらなければいけないということはありません。言い方が悪いですが,基礎医学を10年やって,「斬新な発想もできなくなったから,そろそろ臨床をやろうか」と思ったら,その時に臨床研修をはじめてもいいんです。そこの部分は,誤解のないようにお願いしたいです。

 確かに懸念を持っている先生もおられますが,基礎研究で業績をあげ,それなりのポジションについていらっしゃる先生方にも聞いてみましたが,「別に臨床研修があるから,基礎が衰退するというようなことはないと思う」とおっしゃる先生もけっこういらっしゃいました。また,「最初は内科だったけれど,患者を診た経験が,基礎研究を行ううえでも役立った」とおっしゃる先生もいらっしゃいました。患者さんを診たうえで基礎研究をやるのも,いいのではとも思いました。

北村 ですが,10年基礎をやってから臨床に変わりたいと思っても,マッチングで病院が採用してくれるかという不安も大きいと思います。

宇都宮 それこそ専門性の高い先生なので大学が救ってあげては(笑)。基礎で実績を築いてきた方ならなおさらでしょう。

グランドデザインを求めて

北村 いまの保険制度改革には,医師養成と,医療制度の方向性が見えない。グランドデザインを立てたうえで,そこに近づくために進めているのとは違う印象を持っています。難しいとは思いますが,ぜひ本日は,10年後,20年後の日本の医療,医師養成がどうなっているか示していただけますか。

宇都宮 非常に難しい課題ですね。今回の臨床研修制度だけでも,提言から施行までに10年かかっているわけですから,グランドデザイン自体を創るには数十年かかってしまい,できあがる頃には時代に合わないものになってしまうことさえあるのではないでしょうか。ですから,できるところからやっていくしかないというのが現状です。

 私見ですが,「まずは国民のニーズに合う,求められる医師を育成すること」だと思います。基礎医学はもちろん大事です。しかし医師の95-96%は臨床医で,基礎研究に携わる医師は2%ほどです。ですから現在のように医師や医療への不信が高まっている時代においては,患者さんに接する大多数の医師について,どのようにして良医に育てていくかを,まず考えざるを得ません。もちろん,日本の研究水準を維持,向上させていかなければならないとは思いますが。

 この前提で,まず医学部教育6年間で人間性,医学知識,リサーチマインドの面をきちんと身につける。大学卒業時の到達目標をつくり,卒後研修は到達目標を修めている前提で始められることが大事ではないでしょうか。

 卒後臨床研修修了後は,専門医の問題が出てきます。これはまさに,日本医学会,日本専門医認定制機構,日本医師会が議論を始めています。分野ごとにバラバラになっている現状を,国民の信頼が得られる専門医制度にどう変えていくかということについて大変な議論が必要になります。これらがクリアされて,はじめて医師の生涯教育につながっていくのではないでしょうか。

よりよい医療を求めて患者の視点を取り入れた議論を

宇都宮 いままで,卒業したあとの国家試験および研修と,卒前の教育があまりリンクしていなかったために,いろいろ問題があったと思います。卒前教育にコアカリキュラムができ,最低限の知識・技術が示されたわけですから,私見ですが,国家試験との連動性や共通性といったものが必要だと思います。そういうことも含めて,国家試験改善の検討が始まっていますので,一貫したものができるのではないかと期待しています。

北村 グランドデザインを創ることが難しいのは,よくわかっているつもりです。しかし,先生のような若手の行政官に,ぜひグランドデザインに近いものをどんどん出していただいて,いいものはいい,問題があるものは問題があると議論しながら,患者のために,日本のいい医療のためにやっていけたらいいなと思います。

宇都宮 われわれも現場の医師とどんどん議論していきたいと思っています。その時に,やはり私には,これまでの議論は,医師の理屈とか大学人の理屈が優先していたように見えて仕方ないのです。あくまでも患者さんの立場に立つことが大切だと思います。

北村 本日は,お忙しい中,ありがとうございました。


宇都宮啓氏
1986年慶大医学部卒。岩手県環境保健部,チューレン大公衆衛生・熱帯医学大学院,カリフォルニア大サンフランシスコ校保健政策研究所,WHO西太平洋地域事務局などを経て,厚労省で疾病対策や地域保健に携わる。2002年より岡山県保健福祉部長。04年より厚労省医政局医師臨床研修推進室長。06年9月より現職。

北村聖氏
1978年東大医学部卒,第3内科入局。免疫学教室(多田富雄教授)研究生を経て,84年スタンフォード大に留学。帰国後東大病院検査部に移り,95年同副部長,臨床検査医学講座助教授。2002年より現職。メディカルヒューマニティ教育・卒後臨床研修ならびに教育評価に興味を持っている。また,アフガニスタンとの医学教育を介した国際協力を行っている。