医学界新聞

 

【寄稿】

もっと上手にこどもを診たい!
「こどもどこ」誕生

松本 享(岡山大学医学部医学科6年)


“夢”実現への第一歩

 2006年9月2日。それは私たちにとって大きな第一歩を踏み出した記念すべき日となりました。この日は横浜で第16回日本外来小児科学会年次集会が行われ,その中で学会史上初の学生によるセッション「上手にこどもを診るための5つのコツ」を開催することができたのです。

 年次集会直前に開催が決定したため学会のパンフレットに載っていなかったにもかかわらず,全国から約30名の学生が集まってくれました。全国規模で「こども」というテーマをもとに集まり語り合える「場」の誕生に,一日中胸がいっぱいでした。

「こどもどこ」誕生までの道

 学生による,学生のための「小児科・小児医学について語るグループ」を作りたいと医学部に入学した時から熱望しておりました。しかし,大学病院での小児科実習では重い病気を抱えている患児が多いため,小児科が楽しいというイメージは抱き難いものでした。そのような時に日本外来小児科学会の教育検討委員会が主催している「医学生のための小児プライマリ・ケア実習(以下,小児プライマリ・ケア実習)」に出会いました。

 これは全国の小児科開業医がネットワークを作って学生の実習を受け入れるというすばらしいシステムです。私は横浜から福岡まで4か所の診療所で実習をさせてもらい,初めて小児医療の“楽しさ”を実感できました。また同時に,小児プライマリ・ケアにおいて多くの問題が残されている現状も知りました。小児プライマリ・ケア実習では,大学病院とはひと味違ったプライマリ・ケアを学ぶことができ,またロールモデルとの出会いもあり魅力満載です。

 この体験を他の学生にも伝え,学生同士で語り合える場を作りたい,また先生方とももっといろいろな話をしてみたいという想いが強くなりました。そして2005年8月に行われた第15回日本外来小児科学会年次集会での「開業医による臨床講義」(武谷茂先生,橋本剛太郎先生,田原卓浩先生)に参加した学生が作ったメーリングリストをきっかけにして,医学生・研修医ネットワーク,通称「こどもどこ」設立へ向けての準備を開始。2006年5月に日本外来小児科学会より承認されました(発起人=藤田保衛大5年・島田聡子,京都府立医大5年・古家信介,岡山大6年・西連寺智子,筆者)。

みんなで作ろう!「上手にこどもを診るための5つのコツ」

 今年の年次集会での学生セッションは,前半では小児プライマリ・ケア実習の体験の報告を行い,後半の約1時間を使って「上手にこどもを診るための5つのコツ」というワークショップを行いました。

 小児プライマリ・ケア実習経験者が先生方の診察を見学して学んできたものを集めて診察のシナリオを作成し,そして「喉の痛みを訴えている女の子(4歳,お医者さんが苦手)に対応する」という寸劇を披露しました。こちら側が一方的に子どもを診察するときのコツをただ示すだけになることを避け,ロールプレイを見て感じたこと,あるいは自分の経験の中から思い出したことをもとにして「自分なりのこどもを診るときのコツ」を作ってもらうようにしました。与えられたコツではなく,自分自身のコツであれば実際に活用しやすく,また他人にも伝えやすいと考えたからです。

 最終的に参加者には「自分なりの5つのコツ」と,グループ内で「後輩へこどもを診る時にアドバイスとして伝えたい5つのコツ」を作成してもらいました。後者のコツは各グループで発表してもらい,全体で共有するようにしました。例えば「笑ってバイバイ」「目線を合わせて話す」「親との信頼関係が大事」というようなコツが挙がりました。

 このセッションを通して伝えたかったことは,小児プライマリ・ケア実習が備えている“教育力”です。学生には先生方が長年培ってきた診察の技(アート)を間近で,しかもタダ(?)で見せてもらえるというとても大きな特権があります。この体験は将来医師として,また人間として成長するための糧となるものであり,だからこそ多くの学生で共有したいと思っています。

 また,セッションには小児科希望の学生だけでなく,小児科医にはならないからこそ学びたいという学生の参加もありました。臨床研修必修化に伴い基礎臨床能力(general competence)の修得が求められている現在,こどもを診る能力も必要不可欠です。小児科志望の学生が医師になる前から小児科領域の知識や技術を学ぶことも意義のあることですが,それだけで現在の小児医療が抱えている問題が解決するわけではないと思います。

 小児科という枠だけではなく,他科との協働が重要になってくると思われるため,医学生・研修医の時代からこどもを診るということの大切さ,意義を学ぶことができれば,小児医療の問題を社会全体の問題として対応していく姿勢ができるのではと思います。小児プライマリ・ケア実習は,すべての医学生のための実習であり,「こどもどこ」では小児科を志望しない学生の参加も歓迎しています。

今後の活動と課題

 小児プライマリ・ケア実習や「こどもどこ」の存在は全国的にはまだまだ十分に知られていません。これからの活動の目標は,全国規模の学生のネットワークを作り,学びと語りの「場」を創ることです。同時に,そこに学生だけではなく先生方を巻き込んでいきたいと思っています。とりわけ,小児科医をめざしている医学生にとって,学生同士の連携,小児医療に携わる医師との連携を展開できることはすばらしいことです。

「こどもどこ」への参加について
 「こどもどこ」のメーリングリストに加入してください。小児科に興味のある医学生・研修医なら誰でも加入できます。もちろん小児科医を志望していなくても構いません。みなさんのご参加を心よりお待ちしております。

Useful Sites
1)OCSIA HP
 http://www.ocsia.umin.jp/
2)こどもどこHP
 http://park.geocities.jp/kodomodoko2006/
3)日本外来小児科学会HP
 http://www.gairai-shounika.jp/
4)医学生のための小児プライマリ・ケア実習
 http://homepage3.nifty.com/gairaishouni-kyouiku/


松本 享
岡山大医学部6年。岡山大学ではOCSIAという医療系サークルの活動を行う。興味のある分野は「小児医療」「医学教育」「家庭医療学」など。趣味は茶道。