医学界新聞

 

がんの罹患率と死亡率の激減をめざして

第65回日本癌学会の話題から


 第65回日本癌学会がさる9月28-30日,垣添忠生会長(国立がんセンター)のもとパシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。総会テーマは,第3次対がん10か年総合戦略のキャッチフレーズと同じ「がんの罹患率と死亡率の激減を目指して」。同学会は基礎研究者中心の学会であるが,「がんは人間の病気であり,基礎研究の背後には,がんに苦しむ患者さんや,がんを心配する国民がいる」という垣添氏の強い想いが込められている。

 本紙では,パネルディスカッション「がんの罹患率と死亡率の激減を達成するには」のもようを報告する。


 2007年4月,「がん対策基本法」が施行され,がんの罹患率および死亡率激減の突破口となることが期待されている。パネルディスカッション(座長=垣添氏)ではこうした背景も踏まえつつ,一次予防から検診,がん登録,緩和医療まで,必要な手立てが幅広く議論された。

 最初に,がんの一次予防について富永祐民氏(愛知健康づくり振興事業団)が口演。がんにならないためには,(1)生活習慣の改善,(2)がん感染症の感染防止と駆除,(3)多重がんの1.5次予防,の3点が肝要であると述べた。生活習慣の改善に関しては,特に喫煙対策の推進を強調。推進課題として,たばこ価格の大幅な引き上げ,分煙対策の徹底,たばこ自販機の規制強化,ニコチン依存症に対する禁煙治療の拡充などを挙げた。

検診を“学問”として考える

 杉村隆氏(日本対がん協会)は,画像診断機器の研究開発や検診の精度管理,受診率増加策などは学問として確立すべきだとして,「がん検診学」を提唱。さらには,大学での「検診学」講座設置の必要性にも触れた。また,検診技術が急速に発達していることから,「従来の検診法に固執せず,効果が明らかなものは速やかに取り入れることが重要」と,ガイドラインなどに関して柔軟な考え方の必要性を説いた。

 中島正治氏(前厚労省)は,がん対策基本法を中心に,国としてのがん対策のあゆみを紹介。法の概要や,がん診療連携拠点病院制度について解説した。また,来年度のがん対策における大幅な予算増加(前年比2倍の約303億円を概算要求)にも触れ,今後研究・予防・がん医療を総合的に推進していくと語った。

 祖父江友孝氏(国立がんセンター)はがん登録を中心に口演。「地域がん登録」「院内がん登録」「臓器別がん登録」それぞれの目的や現状,問題点を概説したうえで,今後の課題として,登録手順の標準化やがん登録実務者(腫瘍登録士)の確保,個人情報保護法への対応などを挙げた。

がん対策基本法を後ろ盾に

 江口研二氏(東海大)は日本緩和医療学会理事長の立場で登壇。緩和ケアの向上における今後の課題として,主治医と緩和ケアチームにおける介入目標の認識のずれ(疼痛ケアかメンタルケアかなど)を指摘した。また緩和医療における医師教育体制についても言及し,「今後は各診療科横断的な教育体制の整備が必要」と述べた。

 患者の立場からは,関原健夫氏が口演。各種がんの生存率など一般的な情報では限界があることを指摘し,個別相談のできる相談支援センターの重要性を説いた。また氏が発案し対がん協会に設置された電話相談のホットラインからは,医師と患者とのコミュニケーション不足が読み取れるとした。最後に,「国に何をしてほしいかだけでなく,国民が積極的に参加することが重要」と,がん医療の成熟に向けた将来展望を語った。

 総合討論では,検診では受診率の低さに加え,毎年同じ人が受診している現状も問題と指摘され,検診の種類によって隔年・3年おきなどガイドラインを定めることで,費用をかけずに受診率の向上が可能であるとの指摘がなされた。さらには,検診のインセンティブの醸成も,今後の重点課題に挙がった。また,在宅での緩和医療の話題では,「実際に行うとそれほど難しいことではないと開業医に知らせることで,もっと広まる可能性がある。診療報酬も含めて検討すべきだ」との声が会場からあがった。その際,医師1人体制では限界があり,チームとしての在宅医療を確立することの必要性が語られた。

 最後に垣添氏は,「がん対策基本法という法律ができたことは非常に重要で,大きな後ろ盾ができたと言える。今“何をすればいいのか”はもうわかっている。あとはしかるべきスイッチを押すこと」と,がんの罹患率と死亡率の激減に向けた医療者の一層の参画を求め,パネルディスカッションを閉じた。