医学界新聞

 

看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第22回〉
神は細部に宿る

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 この夏,学部の2年生は基礎看護実習で初めて病棟に出た。その2日目,学生と指導教員の様子をみるためいくつかの病棟の見回りをした。学生は,受け持ちの患者の看護計画をどう立てたらよいのか,どのように看護を進めていったらよいのかに捉われ“視野狭窄”の状態で動いていた。指導教員は,まったくの初心者を相手に,患者に不利益が生じないよう全神経を集中させていた。

 私は,学生がいる病室を見つけて入ってみた。患者はリハビリテーション室に行っていて不在であった。学生はベッドの上に新しいシーツを広げてたたみ直していた。どうしたのかと私が問うと,これから横シーツを作るのだがシーツのたたみ方が中表(なかおもて)になっていないので,習った手順通りできないから,たたみ直しているのだと少し照れたような表情で説明してくれた。

ナースの様式美

 看護の基礎技術のひとつにベッドメイキングがある。120万床あると言われるわが国の病院のベッドを看護師は作る。ベッドには,クローズド・ベッドとオープン・ベッドがある。クローズド・ベッドとは,患者を迎えるために整えられたベッドが掛け物(スプレッド)で覆われ,襟元部分が閉じられている状態を指す。病院で使用されるベッドの基本形である。オープン・ベッドとは,クローズド・ベッドの襟元部分の掛け物を折り返し,いつでも患者を迎えられる状態に整えられたものを言う。

 初心者は,患者が横たわっていないベッドのベッドメイキングから練習する。ベッドメイキングに必要な物品を準備し,作業しやすいように床頭台や椅子を移動させる。マットレスパッドを敷き,その上に下シーツを敷く。ベッド上で便器や尿器を使用する患者や排液によって汚れる恐れのある場合は,その予防ができる位置に防水シーツを敷き,その上に敷くのが「横シーツ」である。横シーツは,ベッド上に横たわる患者の移動や体位を整えるためにも用いられる。

 横シーツは,普通のシーツを二つ折りにした中裏・縦半分のシーツである。シーツを1人で簡単に二つ折りにする方法がある。シーツを横シーツにさばく方法として,学生は実習室で教わる。ベテランナースの「さばき方」は,手早く美しい。

すみずみまで及ぶ看護管理の範囲

 前述の学生が横シーツを作るために,シーツをたたみ直していたのは,つまり,シーツが中表に手順通りたたまれていないので,横シーツに「さばく」ことができないからである。私は病室で学生とともにシーツのたたみ直しをしたあと,廊下を歩きながら,学生のきまじめさに苦笑しながら,はたと気がついた。病院中のすべてのシーツが中表に手順通りたたまれて供給されていないとしたら,ナースたちのベッドメイキングがいかに美しくないかということである。

 下シーツを敷くには手順がある。まず,たたんであるシーツの中央線をマットレスパッドの中央線に合わせて置き,シーツの下端をマットレスの下端に合わせ,その中央線をそわせながら頭部のほうへのばす。そして,シーツの手前の上一枚を手前にたらし,残りのシーツを反対側に置く。シーツの中央線がマットレスの中央線と一致していることを確認しながら,頭部に集めたシーツを左手で持ち,マットレスを右手で持ち上げて入れる。さらに,敷きシーツの頭部側面の角をつくり,マットレスの側面にたれた下シーツをマットレスの下に入れる。

 ナースのベッドメイキングは,一定の様式で無駄な動きをせず効率的に美しく行われる。患者が重症でベッド上に横たわっていても,ベッドメイキングは滞りなく行われる。そのためには,シーツは清潔であり,中表に縦折にしてたたまれ,供給されなければならない。看護管理の範囲はすみずみまで及ぶ。まさに「神は細部に宿る」のである。

次回につづく

「ベッドメイキング」については,以下のテキストを参照した。
1)氏家幸子他:基礎看護技術I 第6版,医学書院,2005.
2)川島みどり監修:看護技術スタンダードマニュアル,メヂカルフレンド社,2006.