医学界新聞

 

【視点】

岐路に立つ地域医療・保健研修の充実に向けて

白浜雅司(佐賀市立国民健康保険三瀬診療所・佐賀大学医学部臨床教授)


 地域の医師不足が叫ばれて久しい。一方,卒後臨床研修では,地域医療・保健の研修を1か月以上研修することになり,人口1700人の三瀬村(正確には昨年佐賀市に合併)の診療所にも昨年から毎月1人,2年目研修医が派遣された。診療所の外来を中心に1か月研修し,「大病院では経験できない患者の生活に近い場での医療と福祉の研修ができてよかった。病気と戦うのではなく,病気を持ちながらも元気に生活する人々を支える視点が学べた」というような感想をもらっている。

 だが,この地域医療・保健研修の評判があまりよくない。「週ごとに診療所,保健所,老健施設をまわって見学するだけ」「関連病院に派遣され,内科医として働くだけ」「保健所に行って1か月間講義のみの毎日」というような研修医の感想を聞くことが多い。もちろん,在宅医療や福祉と連携して患者を診ている病院や保健所もあるのだろうが。

 私は1か月の限られた地域医療・保健研修ならば,切れ切れでなくひとつの診療所をベースに研修することをお勧めしたい。私の診療所では,初日に診察室の入り口に貼る「今月の研修医紹介」の写真撮りから始め,外来新患の予診取り,ひとりでの診察と,レベルアップしていく。最初のうちは患者さんの生活背景までの病歴は取れないが,だんだんとその生活を聞くことが,診断や治療選択に大きな影響を与えることがわかってくる。田植えや稲刈りの忙しさ,盆正月の本家の嫁のストレス(帰省する大家族の接待)などなど。

 問題をかかえた患者さんの対応は,保健センターの保健師,デイサービスのヘルパー,ケアマネジャーなど診療所以外の方とも相談して決めることが多い。季節はずれのインフルエンザ流行時には,保健所や県の担当課,養護教諭,校長などと相談して学級閉鎖を決めた。これらは何かのマニュアル的な知識を身につけるというより,「地域で起きた問題にそこにある資源(ネットワーク)で対応する」という地域で働く医師の姿勢とやりがいを伝え,将来の地域医療の後継者を生む絶好の機会にもなると考えている。

 診療所で学んだ研修医たちの感想や,研修内容,同様な研修を提供している診療所(PCFMネット)を以下のHPに紹介しているので参考にしてほしい。

「地域医療の現場から」URL=http://square.umin.ac.jp/masashi/genba.html


略歴
1983年九大医学部卒。佐賀医大総合診療部で研修,診療教育に当たった後,94年より現職。現在も毎週火曜日は佐賀大医学部で臨床倫理,コミュニケーション教育に従事。2007年6月23-24日に東京で開催予定の第22回日本家庭医療学会総会会長。