医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 書評・新刊案内


医療現場におけるパーソナリティ障害
患者と医療スタッフのよりよい関係をめざして

林 直樹,西村隆夫 編

《評 者》萱間 真美(聖路加看護大教授・精神看護学)

パーソナリティ障害患者と関わる臨床家必読の書

 「あの人は,人格障害(ボーダー)だからね」という言葉は,日々患者からの攻撃にさらされ,甘えられ,持ち上げられるかと思うと途端に激しく中傷されたりする被害にあい続けるスタッフが,状況に絶望したときに漏らすひとことであるように思う。

 本書は,このように嘆く医療スタッフの気持ちやよくある臨床の状況にまずしっかりと寄り添ってくれる。ほとんどあらゆるタイプの患者の,あらゆる種類の問題状況を探すことができる。私もこう言われた。こんなふうに患者さんは悪くなった。ひどかった。読む人はまず救われる。

 しかし,読み進めると,事例の物語は絶望に向かっては語られず,むしろ再生へと進んでいく。どうしようもない空虚感を訴え,自傷行為を繰り返し,家族や医療者を振り回しながら,手を尽くし,困り果てながらも見捨てず,関心を持ち続けてくれる誠実な主治医の横で,患者はゆっくりとではあっても成長していく。その光景は,治療の破綻や中断によって具合が悪いままに目の前から去ってゆく人格障害の患者の背中を,苦い思いで見送ることが数知れない看護スタッフにとっては,あまり見たことのない風景である。

 看護スタッフが患者と出会う入院病棟という場面では,患者はとことんまで悪くなり,家族も極限状況で混乱しているためであろう。しかし,そのようなどん底を味わい,主治医が治療への動機付けの機会として活用することができれば,パーソナリティ障害の患者はどこかで自分の居場所を見出し,完全にではなくてもより適応的なやり方を見つけて落ち着いてゆくのだ。それには10年単位の時間がかかる。この本では,ケースの経過は,淡々と書かれていて年月の感覚も長いスパンである。その行間には,長い経過の中の,数限りない繰り返しがある。看護スタッフは,その場面に,断片的に付き合う職種なのだ。それは,例えば夜間の救急外来で,ドクターショッピングを繰り返し,あちらこちらの救急外来のブラックリストに載っては,違う病院に出向いていくパーソナリティ障害の特徴から,救急外来のスタッフとて同様である。そのために患者の回復を信じることができず,言動に右往左往して結局拒否的に対応してしまうことがある。そのような対応は,ただでさえ空虚感を強く訴える患者の絶望を,ますます深めることにつながる。

 編者のひとりである林直樹先生は,パーソナリティ障害治療の第一人者であり,私もその腕を臨床の場面でのケースへの関与を通じて実感し,心から尊敬申し上げるひとりである。私が現在勤める大学院での授業もお願いしているのだが,林先生の最大の特徴は,パーソナリティ障害患者の回復への信頼であると感じる。スタッフがどんなに絶望しても,もうだめだと訴えても,林先生は「そうですか,そうですか」と話を聞いたうえで,とてもソフトではあるが断固として「でも,治るんですから」という見通しを絶対に変えない。身の回りにそこまで確信に満ちた人がいると,なんとなく,つられてケアしてしまう,という面もある。林先生はスタッフの話にも忍耐強いし,優しいからかもしれない(この点,主治医として特にポイントが高い)。

 しかし,私は看護師としてあえて言いたい。「私たちは最悪の場面しか見たことがない。だから回復をどこかで信じることができずにいる。治っていく患者と感動をともにするのが主治医だけなんてずるい」と。そうであった。だからこそ,この本が書かれたのだ。パーソナリティに周囲を苦痛に陥れるほどの偏りを抱え,自らももがき苦しみつつも再生していく魂の記録を体験し,私たちもまた希望を持ちつつ彼らを見捨てず,付き合ってゆく勇気と,そして信頼を持つために。パーソナリティ障害を持つ人たちと関わり,日々苦闘する,職種を問わない臨床家必読の良書である。

A5・頁228 定価2,940円(税5%込)医学書院


糖尿病療養指導士のための
糖尿病外来ケア・チェックシート

吉岡 成人 編

《評 者》田嶋 佐和子(関西医大枚方病院・管理栄養士)

指導の質向上につながるチェックシートを多数収載

 2001年度から糖尿病療養指導士制度が本格的に発足し,糖尿病の療養指導に従事するコメディカルの多くがこの資格を有すべく講習会に参加し,試験を受け,糖尿病療養指導士となった。糖尿病の療養指導に従事するコメディカルは,この制度が発足したおかげで一定のレベルで糖尿病について知識を持つことができたと考えられる。筆者も糖尿病療養指導士の受験のために相当勉強したし,大変だったことを覚えているが,試験勉強はやはり必要で集中的にそれぞれの知識を関連付けることで糖尿病への理解が深まり,指導方法が変わってきたように思う。

 せっかく糖尿病に対する知識を得たことで,自らの療養指導に変化がでてきたように感じるならば,もっと得た知識を抜けることなく活用することができないか。また覚えていたはずなのに忘れてしまっていることはないだろうか。

 本書は,試験勉強と実際の指導をうまくつなぐために手元に置いておきたい1冊である。糖尿病療養指導を行ううえで,押さえておきたい項目ごとにチェックシートが紹介され,チェックシートに関連する説明事項が対応する形で書かれている。各項目それぞれは,糖尿病療養指導を行うにあたり押さえておきたい病態を見極められるチェックシート,療養指導には欠かせない3本柱,「食事・運動・薬物」のチェックシート,患者心理のチェックシート等に分かれており,今使いたいところから利用できるようにできている。さらに,各チェックシートには,番号がつけられ,チェック内容の詳細が見開きに解説されている。これは,つい忘れがちな細かい値などを見開きで見ることができ,とても便利に思われた。

 日常診療の場では,チェックシートを作りたいと考え,いくつか聞きたい項目があっても,いざ作るとなると,どこまで細かく聞けばよいのか,どのような順番で聞くのがよいのかなど迷うことが多い。本書はこのような場合の手助けになるであろうし,本書のチェックシートをもとに,実際に自分が働く環境(患者像,診察時間,人員など)にあわせて作り変える作業を行えば,改めて自らの糖尿病療養指導を見直すきっかけを作ることができるであろう。チェックシートを用いることで患者様への療養指導の質を上げるという意味でも,自分のスキルアップに活かすという意味でも,ぜひ活用したい。

B5・頁144 定価2,415円(税5%込)医学書院