医学界新聞

 

【投稿】

北米における内科外来でのクリニカル・クラークシップの体験

西村文親(筑波大学医学専門学群医学類6年)


 北米におけるクリニカル・クラークシップ(以下,クリクラ)は,日本に比べてより実践的かつ教育的であった。筆者は2006年4月から6月までの3か月間,筑波大学のエレクティブを利用して,カナダのMcGill UniversityでImmunology & Allergy,University of TorontoでEndocrinology and Metabolism,ならびにアメリカのYale UniversityでRheumatologyの外来実習を体験する機会を得た。上記大学を選択した理由としては,同じ北米でもそれぞれまったく異なる文化的背景を持っているため,多様な経験が期待できるということと,世界から多くの学生を受け入れている実績があったためである。上記の科は,一般外来とコンサルテーション外来が主な業務であり,学生に多くの外来症例と多様な経験を積ませる教育システムが確立されており,今後の日本の外来クリクラの参考になると思われたので,ここに報告する。

学生も医療チームの重要な一人

 医療チームは指導医・フェロー・レジデント・学生といったメンバーで構成されていた。指導医はフェロー・レジデント・学生に対して教育を行い,フェローは同様にレジデント・学生に対して,レジデントは学生に対して教育を行う屋根瓦システムとなっていた。北米の病院においては,上級医師が下級医師を指導することを雇用の契約の中に明記してあることが多く,責任感を持って指導にあたっている。

 学生も医療スタッフの一人として考えられており,外来で学生が診察を見学しているだけということはなかった。チームの一員として,学生でもレジデントやフェローと同様に,患者さんに対して問診を行い,身体診察を行い,指導医とディスカッションの後,検査のオーダーを行い,最終的には指導医の監督のもとに治療行為に加わる。

 私の日本での実習の際には指導医から意見を求められることはほとんどなく,学生が治療方針などの決定の一部に携わることはなかった。しかし,今回の実習の際には,指導医は必ず学生に対して意見を求めた。学生は自分の考えを述べ,妥当と判断されれば,指導医はそのまま誉めて話を進めていく。間違った場合にも怒ったり,否定をせずにポジティブにフィードバックする。

 学生に求められるチームでの役割として,診療録の記載・患者への電話連絡・検査室からの検査データの取り寄せがある。さらに,診療録の手書きによる記録以外に,ディクテーション(患者情報,診療情報を録音する)を求められた。

 学生は平均して1日に3-4例の外来新患を診察することになり,1か月に約50人を自分で診察することで豊富な経験ができた。学生に与えられる症例は,最初はその科における一般的な症例から始まり,段々と頻度の少ない難しい症例が割り振られ,最終的にはその科で経験すべき症例の大部分を経験することができるように計画されていた。

鍛えられた症例提示の仕方

 学生は患者診察を行った後には,治療方針を決定するために指導医に対して症例提示(プレゼンテーション)を行う。この際,基本的に患者の目の前で話せない内容などがなければプレゼンテーションは患者の前で行われる。プレゼンテーションの中で,指導医は,患者へ補足質問をしていき,その意味を説明する。プレゼンテーションでは,診断をつけるのに重要な情報や自分が強調して言いたいことをまず先に言うように指導された。これは,コミュニケーションのひとつの手法であり,重要事項,強調事項を先に話すことで,論点が絞られ,正確な伝達ができる。そして,上手なプレゼンテーションは良好な患者-医学生関係を築いていく。

 指導医も日頃から,学生のプレゼンテーションに備え,PubMedやUpToDate,MD Consultなどをチェックしていた。学生もこのような学習資源を使用し,毎日,実習の終了後に多くの時間を費やして実習に基づいた勉強を行い,プレゼンテーションに備える。

 症例によっては,次の日に指導医へ再度プレゼンテーションし,討論をすることがあった。その際には鑑別診断や重症度別の治療法などのより深い討論となるために,詳しく勉強する必要があった。実際に自分で診察した多くの症例を,書物や論文などの文献で確認し,さらに突っ込んで勉強するというスタイル(症例に基づく問題解決型の学習)をとっているために,学生の理解の深まり方が早いのではないかと感じた。

真剣に行う相互評価

 指導医・フェロー・レジデント・学生は相互に評価し合っていた。評価内容として,学生は指導医に対して実習終了後,

1)症例内容が適切であったか
2)指導は適切で説明がわかりやすかったか
3)医療技術・医療知識は適切であったか
4)将来このスタッフと一緒に働きたいと思うか
5)自分のやる気を起こさせたか

など多岐にわたっている評価項目を4段階で評価し,さらに改善すべき点などを記述する。この評価は1年間を通じてまとめて指導医に対してフィードバックされる。この評価および実際の医療活動により,医師としての全体的な評価がなされているようであった。

 一方で,指導医は学生に対して

1)患者さんとのコミュニケーションが適切であったか
2)問診などは十分に行えていたか
3)身体診察などの臨床能力は適切であるか
4)さらに個人の性格について

などの項目の5段階評価と記述によるコメントが添えられる。この評価は,実習終了時の個人面談の際に伝えられ,所属大学に送られる。学生はこの評価がマッチングの際の推薦状の内容に影響することもあり,非常に真面目に実習に取り組んでいるようにも思えた。

実習を振り返って

 今回の北米での実習は,私にとっては日本での実習の際の教育とは異なり戸惑いの連続であった。しかし,どの指導医も忙しい中でも学生を教育することを当然のこととして捉えており,教育することに使命感を持っているように感じた。医師を志す私としては大変有益な経験をすることができ,充実した毎日を過ごすことができたと思っている。今後,この貴重な経験を生かし,世界的に通用する医師になれるように努力していきたいと考える。

 最後に,今回海外での実習の機会を与えてくださった筑波大学脳神経外科・松村明先生,受け入れ先探しにご尽力くださった東京医科大学霞ヶ浦病院消化器内科・松崎靖司先生,海外実習の経験よりご教授くださった筑波大学遺伝医学・野口恵美子先生,さらに本稿を推敲くださったトロント大学医学教育学部へ留学中の長崎医療センター・浜田久之先生に心から感謝を申し上げます。


西村文親さん
筑波大6年。海外の医療に興味があり,2006年4月から6月にかけて北米の病院にて実習。また,気管支喘息と遺伝子の関係にも関心を持ち,筑波大遺伝医学研究室所属。05年11月日本小児アレルギー学会で演者として発表。06年3月Allergology Internationalに論文が掲載。将来は海外の医療に携わっていくことをめざす。
E-mail:fumichika@hotmail.com