医学界新聞

 

【特集】

聞ける! 頼れる!
専任看護師による研修支援


 わからないことがあるけど指導医は診療に忙しくつかまらない,看護師さんに聞こうと思ったらこっちはもっと忙しそう。上級医には聞きにくいけど,看護師さんに相談してみたいことがある――。研修中にこうした経験はないだろうか。

 聖隷浜松病院では,経験豊富な看護師2人を臨床研修専任の看護師(以下,「専任看護師」)として配置し,研修医のサポート体制を強化している。本紙では同院を取材し,専任看護師の役割や意義,研修医-看護師のよりよい関係づくりに向けた抱負を聞いた。


“患者に近い”視点での研修支援と安全管理

 聖隷浜松病院に専任看護師が配属されたのは,新医師臨床研修制度が始まる2004年のこと。それまで毎年4-5人程度だった研修医が,新制度によって一気に12人に増えた。そのことで病棟などの現場が混乱することを懸念した総看護部長の発案だったという。

専任看護師の役割は下記のとおり。

1)研修医が担当することによる患者のリスク回避(研修医の技術やコミュニケーション不足,現場における看護業務の混乱などの環境要因の改善)
2)指導医や研修医と連絡を密にし,研修状況の把握,調整を行う
3)研修医が厚労省の示す「臨床研修の到達目標」を達成できるようにする

 看護師として,“患者に近い”視点で研修を支援し,安全管理を行うことが求められており,現在は奥田希世子氏,中村典子氏の2人がその役割を担っている。

マニュアル遵守,カウンターサイン徹底の取り組み

 専任看護師の1日のスケジュールは図のとおり。カンファレンスの参加も役割のひとつで,取材日は週1回の「総合診療内科・全入院患者カンファレンス」が行われた。研修医,指導医に実習中の医学生も交えて,午前10時から2時間にわたり討議。最後はKYT(危機予知トレーニング)があり,専任看護師の奥田氏が用意した写真をもとに,「この状態ではどんな危険が考えられるか?」を予想し,対応策が話し合われた。

 患者訪問は新入院患者が1日5人,継続訪問が30人程度。新入院患者に対しては,病院が臨床研修病院に指定されていることや専任看護師の役割を説明する。継続訪問においては,患者からの診療に対する不満を聞いたり,医療スタッフとのコミュニケーション不足で患者に不利益が起きていないかを確認したりする。

「総合診療内科・全入院患者カンファレンス」終盤のKYT(危機予知トレーニング)の場面。「異物や他の薬剤が混ざって汚染の可能性がある」「物の位置がわからない」など,提示された写真から研修医が危険を読み取る。

 また,マニュアル遵守活動も重要な仕事だ。病院では独自に「研修医が単独で行ってよい処置・処方の基準」を作成し,各種の検査オーダーや治療・処方ごとに「単独で行ってよいこと」「単独で行ってはいけないこと」が区分されている。専任看護師はこの基準に沿って「カウンターサインがなされているか」,「安全に実施できる指示であるか」などに注意しながら,記録の内容を確かめる。

電子カルテ上でカウンターサインのチェックを済ませた中村典子氏(右)が,今度は病棟看護師から情報収集している場面。「研修医に任せている退院調整の件で報告を待っている」という看護師の話を聞き,後で研修医に確認を取ることに。

準備から後片付けまで研修医をひとりにしない

 CVライン挿入など時間のかかる処置の場合には,指導医や研修医から電話で連絡があり,専任看護師の2人が手伝いをすることもあるという。カテーテルの挿入自体は指導医が教え,病棟看護師も介助する。しかし,準備から挿入後の管理に至るまでに慣れない研修医だと1時間以上かかることもあり,指導医も病棟看護師もつきっきりでみることはできない。そこに専任看護師がマンツーマンで関わることで研修医は安心し,病棟看護師もベッドサイドでの看護に専念できるというメリットがある。なお,「研修医には(処置だけでなく)準備から片付けまで一連の流れを(感染予防策も含めて)覚えてほしい」とのことだ。

 また,新たな試みとして,「研修医のためのステップアップ講習会」に今年初めて取り組むことにした。これは「4月のオリエンテーションで行うよりも,働き始めてからのほうが効果的な学習ができる項目がある」との理由で企画されたもの。具体的には,文献の日本語・英語検索,DPC・ICD10,人工呼吸器など。1年目研修医全員と2年目研修医の希望者を対象に,月1回のペースで開催している。

研修環境の整備から病院全体の改善へ

 これまで紹介してきたような定期的な仕事のほか,研修環境における問題点を発見し,改善するのも専任看護師の役割だ。

 新制度によって研修医が多数入ってきた際,専任看護師がいちばん苦労したのは,診療録指示シグナル運用の統一だという。それまでも,院内の規定(例えば,医師から看護師への指示は青い指示棒,看護師から医師への報告は黄色,緊急は赤色など)が“あるにはあった”が,現実は病棟によって指示棒の運用がまちまちになっていた。研修医はこうした病棟ごとの運用の違いを知らないので,指示出しの際に混乱し,現場の看護師も混乱した。患者訪問をすることで職場毎の事情を知りえる立場にあった当時の専任看護師が,看護課長会に提案し,運用の統一を図ったという。

 消毒の方法なども病棟によって違いがあったが,標準化を図った。こうしたことは,研修医自身による問題ではなく,「研修医がいろんな病棟をまわることで顕在化した,病院全体の問題点」と捉えることができる。現場の問題を病院全体のシステム改善につなげるのは看護師の得意分野であり,その意味でも,専任看護師の意義を感じる印象的なエピソードだ。

専任看護師の未来図

 新医師臨床研修制度も3年目を迎え,多くの病棟が初めて研修医を迎え入れた初期と違い,現在は各病棟が受け入れに慣れてきているという。また,1年目研修医にとっては,2-3年目の研修医が増え“屋根瓦”に厚みが出たことで,気軽に相談できる先輩医師が存在する。こうした変化のなか,専任看護師の役割は今後どのように変わっていくのだろうか。

 奥田氏は「安全管理上の役割が増した」と感じている。最近の試みとしては,m-SHELモデル()を用いた医療事故要因分析を行い,4月のオリエンテーションでフィードバックを行った。また,前述の「ステップアップ講習会」や日々の処置中での確認など,ICN(感染管理看護師)とのコラボレーションによる院内感染予防策実習を企画中だ。

 一方で,研修センター長の清水貴子氏はこうも指摘する。“看護の視点”での研修支援は,取りも直さず“患者の視点”で研修医を支援すること,その本質的な意義は今後も変わらない――。

手術後のリンパ浮腫のある患者に対し,研修医とともにリンパマッサージを行う。意欲的な研修医から「自分もやってみたい」との申し出。「食事介助,たん吸引などのやり方を知りたがる研修医が増えているし,自分も看護師の仕事を伝えたい。研修専任となったことで“新しい看護”ができている実感がある」と中村氏は語る。

:m-SHELモデル
Liveware(当事者),すなわち人間を中心にしたヒューマンファクター理論をもとに,人間とSoftware(現場の慣習や教育),Hardware(医療機器や設備),Environment(環境),Liveware(スタッフや患者などの関与者)との関係を分析し,管理(management)対策方法を具体化する手法