医学界新聞

 

看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第20回〉
学生たちの学習能力

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 『週刊医学界新聞』のこの号が出る頃は,長雨から解放されて夏まっ盛りであろう。卒業を控えた看護学生たちの中には,お目当ての病院でインターンシップを体験している人もいよう。

質的差異を認識し,成長する看護学生・新人ナース

 私は,以前インターンシップを体験するためにやってきた看護学生たちの潜在能力の高さに驚き次のような記述を残した(拙著,マネジメントの魅力2,180-183,日本看護協会出版会,2004年)。当時看護部長・副院長として勤務していた聖路加国際病院の,5日間のインターンシップを終えた看護学生たちの発言の一部である。曰く「病院の看護が学生の価値観に影響している」のだということを,「他校の学生と触れ合うことでわかった」という。

 つまり,学生の看護に対する価値観の形成は,看護理論ではなく,教員の講義や態度でもなく,臨地実習で出会う病院の看護や看護師たちであると指摘しているのである。先輩ナースは,新人は何もできないと嘆くが,新人という階級になる前の看護学生は,「1年目,2年目,3年目の成長ぶりがよく見え,自分の将来を見るようだった」と言う。つまり,彼女は経験による質の差を認識する能力があるということである。

 このことは次のように敷衍することができよう。優れた新人ナースは,提供されるサービスの質的差異を認識し,自分を成長させていく道は何かを認知しているということである。教員や指導者が発する「あなたの看護観は何なの」という愚問を超えている。 実習の改革に向けた試行  本学の「看護教育における実習のあり方検討会」では,看護基礎教育における学習を現実の臨床実践へとスムーズに移行するため,新たなモデル開発にとり組んでいる。このたび4年次の総合実習で,「看護教育」を専攻した学生たちに新しい実習プログラムを試行した。このプログラムは,先行研究をレビューし,臨床の看護管理者や新人ナースからのインタビューデータにもとづいて構築したものである。

 実習プログラムは以下のようなやり方で15日間行われる。
Day-1 ナースへのシャドウイング:日勤帯の看護師の動きを追いかけ,病棟の動きを把握する。
Day-2 患者を1人受け持つ。シフト内で行うケアを担当し,方法論としての看護過程を駆使する。
→勤務交替時の報告を受け,次のシフトに申し送りをする。記録を書く。
→入院時ケア・術前ケア・検査処置(介助)を行う。(受け持ち患者以外でも見学する)
→入院時ケア・術前ケア・検査処置(介助)を行う。(受け持ち患者以外で可能なものは実施する。実習修了までに経験項目を増やす)
Day-4 患者2人を受け持つ。各患者のSequence of Eventsを把握する。受け持ち終了時にサマリーを書く。
Day-7 患者3人を受け持つ
Day-11 遅番を経験する
Day-12 夜勤を経験する
Day-13 夜勤明けで終了
Day-14・15 機能別シフトワークを経験する

 そして,体験した4人の学生の反応である。
A:インストラクターが病棟業務に精通していて,学生も入りやすかった。
B:今回がいちばん楽,実習で学んでいる感じがあった。インストラクターはサポートが上手だった。
C:つらい記憶から,楽しい実習という転換があった。任せられていたので,自分の責任で実習し自立してやれるようサポートしてもらえた。できるところが増えていくのが自信になった。スタッフが受け入れてくれるのがわかってうれしかった。シフト内の受け持ち患者の責任を負うということ,優先順位のつけ方は重症度だけではなく,時間で進めなければならない事項もあることがわかった。
D:しんどかった,5日間日勤をやっているのと同じだった。

 担当教員と当該病棟のナースマネジャーは,学生たちのめざましい臨床実践能力の向上を高く評価していた。学生たちは,生き生きとナースコールにも応えていたという。今度は夜勤から始めたほうがケアのスタートがわかるのではないか,という意見も出た。

 看護基礎教育における方法論の改革は,現実を吟味し,変革を覚悟することから始まる。

次回につづく