医学界新聞

 

看護の質を保証する看護診断へ

第12回日本看護診断学会開催


 さる6月24-25日,第12回日本看護診断学会が,大島弓子会長(愛知県立看護大)のもと,名古屋市の名古屋国際会議場にて開催された。今学会のテーマは「質保証時代の看護診断」。電子カルテの導入が進む中で,標準化された看護実践分類であるNANDA,NIC,NOCをいかに導入し,普及させていくか。NANDA International(NANDA-I)会長・ヘザー・ハードマン氏による招聘講演や,実際に電子カルテに看護診断を導入した施設の報告など,多彩なプログラムの学術大会となった。


アセスメント-看護診断は確実になされているか

 会長講演で大島氏は,「看護過程は,患者・家族にとっての問題をよりよく解決していくこと」を教育の基本においていること,「患者・家族のニーズに合った看護を提供するための第一ステップであるアセスメントを確実にすることが,その後に続く看護診断を正確に導き,適切な看護介入に続く」と述べ,正確なアセスメントが必要とされる理由について,調査・研究をもとに説明した。

 特に,新人看護師を対象に比較した調査でみると,アセスメント能力は,分析・統合・判断の次元で,漸次低下する傾向がある。看護基礎教育において看護技術力の低下が問題となっているが,アセスメント力の低下にもいっそう注意しなければならない,とした。また,全国の300床以上の病院を対象に,看護過程に関する実態と課題についての調査を行い,現在集計・分析中とのことである。

 大島氏は,「普遍的に大切なことは,看護の本質として,患者・家族の健康な生活に向けたよりよい看護を提供することを,看護学の基盤となるものとして十分に伝えること」と強調。患者・家族の視点でとらえる理論的基盤として「看護モデル」を用いて(大島氏の場合は,ロイ適応モデル),適切なアセスメント,的確な看護診断をし,アセスメントから導かれた介入により成果を得ることが対象に合った看護を提供する=質保証につながると述べた。

看護感受性データを明確に記述する

 ヘザー・ハードマン氏(NANDA-I会長)は招聘講演「患者ケアの質を高める標準看護用語」において,まず,「質(quality)」について,その指標となる看護のデータが不足していることを指摘。「質」とは,臨床におけるすべての“優秀性”を指すとしたが,米国で質保証というと,組織全体のパフォーマンスとして,その指標は医学的アウトカムばかりである。看護の“見えない役割”を明確にしていく責務が看護職にはあると述べ,質保証の指標となる看護感受性データnursing sensitive data(アセスメント・看護診断・介入・アウトカム)を電子カルテ上で明確にしておくべきと強調した。しかし,近年,米国の電子カルテには看護診断や看護のデータが載らない現状があるという。

 NANDA-Iの役割としては,看護診断の開発がまず第一で,標準看護用語は根拠に基づく実践には不可欠であること,現在の172の看護診断では看護学の実践の全体を表してはいないと述べた。課題克服のためには,世界中の組織と連携し新たな看護診断の提案を促すとともに,臨床での検証,文化的感受性への対応を検討していかなければならないとした。“オンライン提案”という方法も企画中であるが,看護学に関係する現象を定義し記述する臨床家・研究者がさらに必要であり,「看護の未来を決めるのは,みなさんです」と激励した。

用語の標準化とは

 NANDA看護診断が難しいとされる要因の1つに,訳語に対する違和感が依然としてある。パネルディスカッション「看護診断ラベル(NANDA)の表現の標準化に向けて」(座長=西南女学院大・小田正枝氏,青森県立保健大・新道幸惠氏)では,翻訳の難しさ・苦労やその意図,専門・臨床用語の概念について意見が交換された。

 そもそも無形の現象を概念化したものであるから抽象語が多く,看護診断特有の用法によるもの(例えばシンドローム,リスク状態)も少なくない。『NANDA看護診断 定義と分類』の訳者である中木高夫氏(日赤看護大)は,「言葉の背景を知ることが大切」とし,診断ラベルの中核である診断概念を,中範囲理論によって読み解いていく作業が看護診断の「翻訳」であると述べた。

 数間恵子氏(東大)は,「現在流布している訳語には,改善の余地がある」とし,「各診断について,定義,診断指標,関連要因を熟読し,訳に十分意を尽くせばNANDAの意図を伝えることは可能」と述べ,具体的にいくつかの診断名の訳語の私案を提示した。適切な訳語は,看護学の確立,教育とともにチーム医療,患者の自己決定支援にも必要であることに言及した。

 大江和彦氏(東大)は,「用語の標準化とは,意味の再現性の確保」であるが,「1つの言葉で複雑な概念を説明するのは難しい」ことを指摘。これまでの臨床用語はデータベースである。用語の標準化は,むしろ概念を表現する“オントロジー(概念記述)”という考え方をベースにしていくことが考えられると述べた。

質の高い看護ケアのために

 シンポジウム「質保証時代における看護診断の位置づけ」(座長=国際医療福祉大・藤村龍子氏,看護ラボラトリー・上鶴重美氏)では,看護界全体として看護診断をどう位置づけていくべきか,看護政策,看護管理,看護研究,国際的な視点からディスカッションがなされた。

 井部俊子氏(日看協会副会長/聖路加看護大)は,「今後,看護用語が,健康政策提言に活用されるためには,一般用語や行政用語として認知されていく必要がある」と述べた。

 看護管理者の立場から奥村潤子氏(名古屋第一赤十字病院)は,「看護診断を経営指標と考える時,アウトカム評価は必須である。看護診断による看護の質保証は,ここで検証される」と述べた。

 江川隆子氏(日本看護診断学会理事長/京大)は,「看護診断が臨床で使われる意味を考えなければならない。看護診断は臨床での検証を必要としている。また,各看護専門分野における看護診断の開発と診断指標の修正が大きな課題」であるとし,今後の学会の展望について提言した。

 ヘザー・ハードマン氏は,今日の医療が直面している問題(財源確保,ケア時間の減少など)のなかでいかに質の高い看護を提供できるかは,正確なアセスメント・看護診断,達成可能なアウトカムの特定にかかっている。そのためにも,標準看護用語が根拠に基づく実践には不可欠であることを再度強調した。

 なお,第13回学会は,2007年6月2-3日に大阪国際会議場にて開催予定である。