医学界新聞

 

変革期の「安全と質」を検証

第8回日本医療マネジメント学会開催


 第8回日本医療マネジメント学会が6月16-17日,高橋俊毅会長(国立病院機構横浜医療センター)のもと,横浜市のパシフィコ横浜にて開催された。今回のメインテーマは「医療の安全と質――医療・介護提供体制の改革をめぐって」。ここ数年,医療の“安全”対策は“質”の保証・向上へと重点を移してきた感がある。今学会では,今年度の診療報酬改定も踏まえて,あらためて“安全”と“質”のあり方が問われた。


 シンポジウム「あらためて医療安全に求められるもの――成功事例に学ぶ」(座長=東京医療保健大・坂本すが氏)では,医療安全対策の今後が議論された。

 田原克志氏(厚労省)は,今年度診療報酬改定で新設された「医療安全対策加算」(入院初日50点)など,近年の医療安全推進策を説明したほか,2005年度に開始した「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」の実施状況を報告した(現在22例を受け付け,そのうち1例で評価結果が報告されている)。

成功事例に学ぶ医療安全

 山元友子氏(NTT東日本関東病院)は,医療安全の成功事例を紹介した。多重並行的な看護業務の中断に伴うリスク対策としては,業務中断時の「私がやっています」カードの活用。カードの持ち主のみがその業務を実施できるため,業務中断に気づく契機となる。また,持針器の受け渡しによる針刺し事故を防止するためのルール変更(手渡しの中止)も有効であると語った。

 和田ちひろ氏(NPOヘルスケア・リレーションズ)は,患者参加型の事故防止の成果事例や,近年広がりを見せている患者情報室の現状を報告した。また,医療安全への患者参加の可能性を示す一方,「医療者の責任転嫁ではないか」など,患者から疑問の声があることにも言及した。

 米井昭智氏(倉敷中央病院)は,ハイリスク医療に絞った効果的な活動例として,中心静脈カテーテル挿入における管理体制の強化(インストラクターの指定),適応の厳密化などの安全策を挙げた。また,事故分析やロールプレイなどを1泊2日で行う医師ワークショップの取り組みを報告。病院長と事務長は毎回必ず参加するこの研修は,医師間コミュニケーションの円滑化にも有効であると述べた。

 「医療安全は後戻りの危機にある」と警告を発したのは,上原鳴夫氏(東北大大学院)。現場の努力だけでは限界があるとして,システムによる質と安全の確保,医療質保証におけるプロフェッションの役割の強化を訴えた。また,今年11月に第1回学術集会を行う「医療の質・安全学会」(高久史麿理事長)においては学際的研究に取り組むとして,医療安全の新たな展望を語った。

■NSTは“質の保証と向上”の時代へ

 今年度の診療報酬改定では,入院基本料の加算として「栄養管理実施加算(1日につき12点)」が新設された。この施設基準としては,常勤管理栄養士の配置のほか,多職種での栄養管理計画作成,定期的な記録と評価・見直しが求められる。これらは,現在のNST(Nutrition Support Team)が実施している活動内容に沿うものであり,昨年「病院機能評価」でNSTの評価項目が盛り込まれたことに続く,普及の起爆剤といえる。シンポジウム「診療報酬改定とNST活動」(座長=北里大東病院・野口球子氏,神奈川県立保健福祉大・鈴木博氏)では,栄養管理実施加算の新設を踏まえ,今後のNST活動のあり方が議論された。

 大規模病院では,1つの兼任NSTチームが全科病床をカバーするのは難しい。この問題を解決するために土岐彰氏(昭和大)が提唱したのは,各病棟・部門ごとにNSTを運営する「ブロック方式」だ。この利点としては,「いつも見ているスタッフ」という患者サイドの安心感や,短期間で多数管理できる効率の良さがある。一方,ブロック間で管理レベルに格差が生じる懸念もあるが,この解決策として「NST管理用PCソフト」の活用による管理の統一化の試みを紹介した。

 野上哲史氏(熊本第一病院)は,NSTに加え,感染管理と褥瘡管理,嚥下の4つのチームの協働体制が重要であると強調。毎週開催の合同ラウンドなどで,体制強化を図っていると述べた。NSTの成果としては,栄養評価の標準化や中心静脈栄養件数・血流感染の減少を提示。褥瘡の減少により「看護の業務内容も変わった」と述べた。

栄養管理は基本的な医療行為

 日本静脈経腸栄養学会(以下,JSPEN)の前保険委員である大熊利忠氏(出水総合医療センター名誉院長)は,JSPENにおける診療報酬新設申請の概要や経過を語った。JSPENでは,2004-05年の間にNST活動アンケート調査を2回実施。NST稼動施設数や活動効果,NST管理が必要な患者数などを算出して行政に働きかけたことを明らかにした。今回の「栄養管理実施加算」に関しては,全体がマイナス改定のなかでも新設されたことに一定の評価をしつつも,「施設基準があいまいで,本来のNST業務が忘れられ,書類上の管理になってしまう危険性もある」と懸念を示した。

 2004年には,関連学会や職能団体が参画し,第三者機関「日本栄養療法推進協議会」(日野原重明理事長)が発足。NST施設認定やNST専門療法士認定,情報提供や研修などの活動を行う予定だ。最後に登壇した東口髙志氏(藤田保衛大)は,同協議会理事の立場から,第三者機関設立の意義と役割を説明した。現在,同協議会でNST稼動施設の暫定認定を始めているが,約750の申請が来ていることを明らかにした。

 今回の栄養管理実施加算に関しては,点数評価改正点の解説に「当該栄養管理の実施体制に関する成果を含めて評価し,改善すべき課題を設定し,継続的な品質改善に努めること」という一文が挿入されていることを指摘。第三者機関による評価を受け,質の保証に努める責務を強調した。さらには,今後の点数改正申請に取り組むに際しても,エビデンスの集積が重要であると述べた。

 診療報酬の点数に関しては医療現場から落胆の声もあがっているが,ディスカッションでは,栄養管理が入院基本料として加算されたことを演者らが評価。栄養管理が“基本的な医療行為”と認められた証であり,この意義を共有し,NST活動を発展させていくべきとの指摘がなされた。

 かつては診療報酬で評価されたものの,実際のチーム医療は形骸化し,書類上の申請のみに留まる事例が散見された。「栄養療法はすべての治療法の根幹」との認識が広がりつつあるいま,NST活動のさらなる発展に期待したい。