医学界新聞

 

【投稿】

オーダーメイドの研修医教育
「国際医学教育ワークショップin長崎」に参加して

山本 浩(長崎大学医学部6年)


 2006年3月に,「国際医学教育ワークショップ in長崎」に参加しましたので,ご報告したいと思います。長崎大学臨床研修・教育センターとへき地病院再生支援・教育機構の共催で,トロント大学の家庭地域医学科教授のバティー先生と助教授のハルトウィック先生を迎えて,研修の指導医・研修医,そして学生にも呼びかけて行われました。トロント大学で実際に行われている,研修医やクリニカル・クラークシップの学生を指導する医師向けの指導技法に関するワークショップを体験できました。

 今回のワークショップで最も驚いたことは,指導医が研修医の知識やスキル習得の発展段階を合理的に診断し,そのレベルにあった指導を行うということでした。確かに医学部の学生の立場から考えてもグループで学習する機会はありますが,個人で学習する時間の方が多いために,学生により医学知識にバラツキがあるのは当然です。さらに,研修医はいろいろな大学から集まるので,さまざまな研修医がいて,その知識のレベルや範囲は異なっていて当然なのでしょう。そこに焦点を当て研修医の知識の質を5つに分け(知識不足型,知識分散型など),それに応じた指導医の対処方法を考えることは研修医に対してのオーダーメイド的な教育法であると感じました。ワークショップのロールプレイではそれぞれこの5つの知識型のシナリオがあり,研修医役・指導医役・観察者の3人で1つのグループに分かれて行いました。どうやって知識の型を診断して,どういう対処方法を見いだすかという課題が与えられました。

ワークショップで学んだこと

 約6時間にわたるワークショップでしたが,医学部5,6年生から,研修医,指導医,または関連病院の部長や院長など20歳台前半から60歳台後半まで多彩な顔ぶれの参加があり,各グループはバラエティーに富み,楽しく,時には激しく議論しました。最もよかったのは,学生でありながら,指導する立場に立ち,自分たちのことや自分の教育環境を考えたことでした。そして,自分たちに最も必要なものはコミュニケーションの能力ではないかと思いました。このワークショップで身につける教育技法は,研修医と指導医とのコミュニケーションを円滑にするものではないかと思いました。また,教育者と学習者とがチームとしてお互いに学び合うためには,初めにお互いの気持ちを理解し,その次にお互いの目的を明確にすることが大切であることを知りました。その結果,両者の良好な信頼関係が医学教育の向上につながるだけでなく,結果的にチームで学ぶ体制が整うことは臨床でのチーム医療の発展にまで活きる可能性が十分にあるのではないかと感じました。

 私は現在,臨床実習を受けている最中で研修医の先生方に指導を受けることが多いのですが,この学生と研修医の間に置いてもこの教育技法は活かせるのではないかと考えています。つまり,研修医の先生が学生の知識の質をいくつかのタイプに分けることで,学生の知識の質に合わせた対処法(指導)を行うことができるようになります。その結果,学生は臨床実習で回っている科の中でどのような知識が不足しているのかを理解でき,発表においてどのようにまとめたらよいのかを反省することができます。このような関係作りはお互いの臨床実習や臨床研修をより充実したものにできるかもしれません。

 トロント大学では,研修医が学生に教え,将来の指導者となるため,指導医ワークショップに参加して,臨床教育技法を磨くことはごく普通に行われているそうです。このように学生・研修医・指導医が一丸となって医学教育を充実させることはお互いの向上にもつながり,自ずと医療のレベルも上がるのかもしれません。また,研修のカリュキュラムは多彩で,家庭地域学科だけでも70名の研修医に,70パターンのローテートカリキュラムをオーダーメイド的に作るようです。トロント大学がカナダのマッチングでいちばん人気がある理由のひとつはここにあるのかもしれません。

カナダの医療と医学教育

 今回は,ハルトウィック先生のへき地医療における医学教育の講演および討論もありました。

 カナダの人口は3000万人と日本の約4分の1ですが,面積が日本の約26倍であり,そのぶん,へき地が多い国と言えます。そのため,国としては,守備範囲の広いプライマリケア医である家庭医の育成が必要であり,実際に臨床医の45%前後が家庭医ということでした。トロント大学医学部(4年制)では3年生からへき地医療体験とトレーニングを取り入れており,さらに研修医のへき地医療研修も行っています。へき地における家庭医の医療の守備範囲も広く,一般内科以外に救急(単純骨折の治療も行います)・緩和ケア・婦人科検診・分娩・小外科処置・一般小児科といった分野が含まれます。

 ハルトウィック先生は,トロントから300キロ離れた人口2000人のハリバートンで,へき地医療を30年続けているそうです。トロント大学家庭地域医療学科は,ハリバートンのようなへき地医学教育拠点を7つ持っており,研修医はマンツーマンで2-6か月のへき地研修を行います。

 長崎も,へき地の多い県であり,離島での学生実習や研修医トレーニングがあり,へき地医学教育の先進県であると思いますが,カナダとの比較などを通して,各診療科の壁がプライマリケア研修の壁でもあるのではないかと実感しました。そして,同じ北米でも米国とまったく異なる医療保険制度で,日本に似た国民皆保険制度を持つカナダにおける医学教育やへき地医療教育は,学ぶ点も多いのではないかと素直に思いました。

 最後に今回のワークショップのセッティングや通訳を行っていただきました,トロント大学留学中の浜田久之先生と,この会を主催して多くの学生や研修医を誘っていただいた,長崎大学臨床教育・研修センターの上平憲先生,永田康浩先生,へき地病院再生支援・教育機構の調漸先生に感謝申し上げます。


山本浩さん
長崎大6年。明治大農学部卒,同大学院農学研究科博士前期課程修了。東医歯大大学院医歯学総合研究科博士課程3年次中退後,長崎大医学部医学科3年次へ編入学。部活は硬式庭球部に所属し,勉強との両立に励んでいる。農学部での農業経験を活かして日本のへき地・農村地域における健康管理などの地域医療の発展に貢献したいと考える他,癌の遺伝子学的なメカニズムの研究にも関心を持っている。
E-mail:y_attan@hotmail.com