医学界新聞

 

【インタビュー】

川尻宏昭氏(佐久総合病院総合診療科)に聞く


■外来研修で研修医に強く求めたいのは,一生懸命診ること。
 このことが,患者さんやスタッフにとってのメリットになる。

病棟や救急では知りえない一般外来の役割

――初期研修において,なぜ外来研修が必要となるのでしょうか。

川尻 研修では,“その場”でしかできないことがあります。内科でなければできない研修,外科でなければできない研修があるように,外来を経験しなければわからないことがあります。これは病棟でシミュレーションして何とかなる問題ではないのですね。

――救急外来での研修は,どの臨床研修病院も行っています。同じ外来ですが,求められる能力にどんな違いがあるのでしょうか。

川尻 救急外来で考えなければならないことを端的にいえば,“その患者さんが救急疾患かどうか”です。まずは救急疾患を疑い,診察を進めるなかでルールアウトしていく。もちろん,総合外来にも救急疾患の患者さんはいて,「そこは絶対に見落としてはいけない」と研修医に何度も注意します。でも総合外来はそれで終わりではない。救急疾患ではないとわかったら,その次の段階では,患者さんの問題をフォローアップしないといけません。

 それと,プライマリケアの場では,「はっきりとした病気じゃない」とか「何か心配があってくる」という患者さんもいて,その際の対応も学ぶ必要があります。

――例えば「なんとなく,お腹が痛い」という患者さんに痛み止めを処方して帰す。救急外来の対応としてはそれでよくても,一般外来は不十分だと。

川尻 外来に対して何らかの希望を持って受診するわけですから,そこで患者さんのかかえる悩みを解決しないといけないですね。こうした,病院や診療所の外来が持つ役割は,救急外来だけでは知りえない部分です。

病棟は医療者主導でも,外来は患者主導

――外来研修で,指導の際に気をつけていること,研修医がつまずきやすいポイントは何でしょうか。

川尻 今日もありましたが,緊急度の判定が研修医にとっては難しいので,対応が遅れてしまうことがあります(註1)。緊急度の見分けは病棟でも求められますが,外来は特に顕著で患者さんにもデメリットとなるので,指導医として注意してみています。

 あとは,患者さんとのコミュニケーションです。医学的には間違ったことをしていなくても,「研修医」という名札がついていることで患者さんが不安を覚え,それでお互いに気まずい思いをすることもあります。

――フォローする指導医は大変ですね。

川尻 いやぁ,ストレスです(笑)。ただ,メリットもたくさんあるんです。

 まず研修医にとってのメリットは,明らかですね。外来を経験することで,病院における外来の役割や,患者さんがどんな期待を持って外来を受診するのかがわかる。入院は医療者主導の場かもしれませんが,外来は患者さんが主導権を握っています。さらに在宅は,もう患者さんの土俵ですね。そういうところでは,医師に対してかなり厳しい要求がありますから,将来どの科でやっていくうえでも有益です。

患者やスタッフにとっての外来研修のメリット

川尻 そして,患者さんにとってのメリットがあるかどうかですが,これも実は“ある”と思います。たしかに,先ほどお話した緊急度の判定が難しいようなケースは,研修医が20分かかることを,指導医なら数分で指示が出せるわけです。それは経験や知識の蓄積があってできることで,研修医には難しいです。

 だけど,今日研修医が診た「体がひと月前からだるい」というケース(註2)。ああいう患者さんの場合,ベテランの医師だときちんと診ないことがあります。外来が混み合っていると,話もそこそこで切り上げて,検査して「問題ないですよ」と帰してしまう。医学的には問題ないとしても,それでは患者さんの満足度は低くなり,病院に対する印象も悪くなります。

 研修医は経験が浅いぶん先入観を持たないし,これは研修医に強く求めたい部分なのですが,“一生懸命診る”。だから「こんなにしっかり診てもらったのは初めてです」と感謝される。医師とのコミュニケーションを求めて受診する患者さんはいて,そういう患者さんを研修医が一生懸命診ると,満足度が高まります。しっかり対応できないベテラン医師よりずっといいわけです。

――そういう心理・社会的な面に配慮が必要な患者さんは多いですよね。

川尻 本当にたくさんいて,特に総合外来はそうです。救急はルールアウトが大事なので経験のある医師のほうがいいのですが,総合外来は若い医師が一生懸命診るほうが患者さんにとっていろんな面でメリットが出ます。

 技術的な面でもメリットがあって,これも研修医の一生懸命な姿勢がもたらすメリットといえます。経験のある医師は,診断のプロセスでしばしば“早道思考”になります。すぐに頭に浮かぶ疾患はチェックするけど,稀な疾患は引っかからず,診断がつかない。そういうときに研修医が診て「こういう疾患の可能性は考えられませんか」と教科書の片隅に書いてあるような疾患を挙げる。そんなに多くはないですが,そこから診断に結びつくことがたしかにあります。

 もうひとつは,チーム医療に研修医が入って一生懸命さを見せることで,スタッフの間でも“見られている”という緊張感が生まれます。これは病棟も同じですが,こうした教育的な効果はあると思います。

 研修医がいると大変なことばかりというわけでは決してない。患者に対しても,スタッフに対してもメリットがあるのです。大事なのは,これらメリットを表現できるかどうかと,研修医のデメリットを指導医がどうフォローできるかですね。

外来研修中止の危機に研修医が連夜の話し合い

――忙しいなかでも,指導医や看護師が,あるいは研修医同士で,熱心に教える姿が印象的でした。

川尻 (少し考えてから)実は,今年2月にみんなを集めて「外来研修をやめよう」と話しました。というのも,外来研修の効果を疑問視する意見が初期研修医の間から挙がり,看護師や指導医からも研修医の態度とか,いろんな不満が出ていたのです。

 本来“よい研修”をするためには,“よい医療”をするのが前提です。それがちょっと怪しくなってきたと感じたので,「一度やめて,病院における総合外来の機能,患者さんにとっての役割を再確認して,それができるようになったらもう一度外来研修の再開を検討しましょう」と話しました。

 そしたら,初期研修医の間でも「仕方ない」という人と,「続けてほしい」という人が出てきたんです。いろんな意見があったので,各セクションで問題点と改善策をまとめて検討することになり,初期研修1年目,2年目,後期研修医,スタッフドクター,看護師と,それぞれが2週間ぐらい話し合いました。

 すると,初期研修医から自主的に動いて,看護部と話し合いの場を作ったんです。「自分たち研修医にどういう問題点があるのか」と切り出して,看護部からは「時間を守らない」とか「コミュニケーションが取りづらい」とか率直な意見が出ました。連夜集まって,研修医が最終的に出した結論としては,「継続できるなら継続したい,自分たちも反省点があったので改善したい」と。

――ショック療法でしょうか。すごくよい雰囲気に感じました。

川尻 まだまだですが,ちょっとは緊張感を持ってくれたと思います。特に,当時1年目だった今の2年目研修医は,あの話し合いを経て変わった印象があります。

 佐久総合病院の研修プログラムは外来研修が大きな特徴の一つということもあって,研修医は「何かを与えてもらえる」と思っている節もあったんですね。そして実際やってみると期待と違う部分も当然出てくるわけで,「意味があるのか」となってしまう。

 しかし,これは臨床研修制度全体にいえることですが,この制度は研修医のためにやっているわけではありません。国民の健康を守るためにできた制度で,研修医は社会的使命を負って,個人の技術を磨かなければならない。そういうことを少しは感じてもらえたかなと思います。

 看護師さんも,患者さんと研修医の間で板ばさみになることで不満が募っていました。以前は研修医に注意したら反発を受けるから嫌だとか,そういう雰囲気もあったのですが,「そうじゃない,患者さんのために注意すべきことは注意する。患者さんのために一生懸命やっていることを研修医に見せることが大前提」と変わってきました。

研修医の成長過程を見る喜び

――指導医として,外来研修をやって充実感のあるのはどんなときですか。

川尻 日々の充実感はそれほどないです。もちろん,研修医がうまく診断できたり,患者さんが満足して帰ってくれたりすると嬉しいですが,本当に充実感を得るのは,研修医の成長を実感できたときです。佐久の外来研修は2年間通してやりますが,短期間にまとめる案もありました。

――外来研修を実施している多くの病院はそうですね。

川尻 それもひとつの手です。でも,「1年目研修医が2年間でこれだけできるようになる,というのを実感できるから,2年間通してほしい」という要望が,実は看護部からあがりました。

――見学していても,1年目と2年目の研修医は違いますね。

川尻 全然違います。最初は本当に拙くて,“患者さんの前で話すのも大変”という研修医でも,2年経つとある程度任せることができます。外来での成長だけではなく,他の科をローテートしている研修医が週1回の外来研修に来ると,「あの科を回るとやっぱり違うな」と感じることもあります。

――臨床研修は細切れのローテーションなので,研修医を丸ごと評価するのが難しいと聞きます。

川尻 特に大病院は各科別のローテーションで,横断的なものがありません。総合外来では2年間継続することで,研修医が成長していく姿がみえるのが嬉しいですね。

――ありがとうございました。

註1:「息苦しい」と訴える患者に対して,手順どおりに病歴聴取と身体所見から始めた。ここはまず酸素吸入の処置を優先し,必要な検査の指示を出しながら原因を考えるべきだという。
註2:「(他院で処方された血糖降下薬を服用し始めた)ひと月前から体が何となくだるい」という高齢女性。研修医による初診では,医学的にやるべきことはないと判断した。その後のディスカッションで,「なぜかかりつけ医がいるのに,この病院を受診したのか。処方された薬に不安があるのかもしれないし,病院で検査してほしいのかもしれない」と患者の心理面に配慮する必要性を川尻氏が指摘。2回目の診察では,異常所見のないことを伝えたうえで,患者からさらに話を聞きだし,患者自身がかかりつけ医にもう一度相談してみるという結論となった。


川尻宏昭氏
佐久総合病院総合診療科。1994年徳島大医学部卒。同年,佐久総合病院初期研修医。2年間のスーパーローテーションおよび2年間の内科研修の後,病院附属の診療所(有床)にて2年間勤務。2001年10月より半年間,名大総合診療部にて院外研修。現在,総合診療科医長,研修医教育委員会副委員長として,診療と研修医教育に携わっている。