医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評特集


AO法骨折治療 Hand and Wrist
[英語版DVD-ROM(Win版)付]

田中 正 監訳
金谷 文則 訳者代表

《評 者》岩本 幸英(九大教授・整形外科学)

多数のPearlsとPitfallsを収載
効率的に手術のコツを習得

 この度,手および手関節の骨折治療に関する手術手技と,最新のAO固定法を紹介した『AO法骨折治療 Hand and Wrist』が出版された。金谷文則先生,別府諸兄先生,吉田健治先生の翻訳,田中正先生の監訳によるものであり,わが国の代表的なHand Surgeonが,本書の内容を広く伝えようとしている意気込みが伝わってくる。自分が研修医の頃,教科書を読んでAO法の原理を理解し,胸を高鳴らせて骨折の手術に臨んだことを思い出しながら本書に目を通してみた。

 本書の特徴は,豊富なカラー写真や図を用い,手指骨,手根骨,橈骨遠位端の個々の骨折について,術前計画,手術進入法,AOインプラントを用いた固定法,後療法を簡潔かつ明瞭に記載している点にある。そのため,今から手の外科を学ぶ若い整形外科医にとって,治療のポイントを要領よく頭に入れることができる。また,まさに“待ったなし”の骨折治療の現場で,正しい治療法を短時間のうちに確認する上でも有用である。

 また,各々の骨折に対し,スムーズに手術を行うためのヒント(Pearls)と,陥りやすい落とし穴(Pitfalls)が記載されている点は,本書の最も大きな長所である。これらは今までの教科書にはほとんど記載されておらず,数多くの症例を経験するうちに徐々に習得することが多かったが,本書のPearlsとPitfallsを精読すれば,効率的かつ短時間のうちに手術のコツを身につけることができるであろう。

 本書に付属しているDVD-ROMは,骨折の固定手技だけでなく,手術進入法も確認できるように工夫されている。これは術前計画の立案に有用なばかりでなく,教育にも大きな威力を発揮すると思われる。近年,日本整形外科学会の専門医試験にもビデオ問題が導入され,臨床の現場で役に立つスタンダードな診察,治療手技を身につけているか否かが試されるようになった。指導医にとって,典型的な症例に対するスタンダードな治療を研修医に見せることは必ずしも容易ではないが,このDVD-ROMを用いればいつでも好きな時に紹介できるであろう。

 故・天児民和九州大学名誉教授は手の外傷に対する治療を重要視され,日本手の外科学会の創設に際し,「我々臨床外科医にとっては,手の損傷を可及的に機能障害の少なき状態に回復せしめる技術を修得することが重要なる任務と責務であると思う」と述べられた。手の外傷の治療の重要性は今昔を問わない。手の外傷の治療法の発達は日進月歩であり,整形外科医であれば誰でも手の外傷に関する最新の情報を入手し,実践に備える必要がある。手の外傷に関する最新の情報をわかりやすく解説してある本書を,手の外科を専門としない先生に対しても,必読の書として自信をもって推薦したい。

A4・頁360 定価25,200円(税5%込)医学書院


米国精神医学会治療ガイドライン コンペンディアム

佐藤 光源,樋口 輝彦,井上 新平 監訳

《評 者》高橋 清久(国立精神・神経センター名誉総長)

精神医療・福祉水準の向上へ実用的ガイドライン

 精神医療に携わるものにとって大変参考になる心強い翻訳書が出版された。本書には米国精神医学会(APA)が作成した11の治療ガイドラインが収められている。精神医学的評価法から始まり,せん妄,アルツハイマー病と老年期の認知症,HIV/AIDS患者の精神医学的ケア,統合失調症,大うつ病性障害,双極性障害,パニック障害,摂食障害,境界性パーソナリティ障害,自殺行動の評価と精神医学的ケアで終わっている。これらのガイドラインはすでにAmerican Journal of Psychiatryに掲載されたものであるが,こうしてまとまった翻訳本が出たことは,わが国の精神医療水準の向上に大きな寄与をするであろう。

 ガイドラインの作成過程についての解説によれば,入手可能な文献について厳密で科学的な審査を行い,十分推敲された草稿を広範に審査し,最終的にAPA総会と理事会の承認を得るという厳しい吟味をしている。さらに,できるだけバイアスがかからないように努めたことや,いかなる営利団体からも財政援助を受けていないという点を強調している。このようなガイドラインに関するAPAの厳しい姿勢が示されている。

 ガイドラインは実践上の指針を示したものであり,医学的ケアの基準を示したり,基準として役立てたりするものではないことは本書でも強調されているが,できるだけエビデンスに基づいた情報がふんだんに盛り込まれており,実際の臨床の場で治療方針を決定したり,治療を評価する際には大いに参考になるものと思われる。かつては,米国では使用されていても,わが国ではいまだ認可されていない薬剤が多く,この種の米国製のガイドラインが日本では十分には役立たないといったこともあったが,抗精神病薬にみるように本書に記載されている大多数の薬剤が日本でも使用が可能になっており,その点からも本書が実用的になっている。

 本書の特徴として通常の薬物療法や精神療法に加えて,心理社会的な対応が社会資源についての解説とともに記載されていることが挙げられよう。例えば統合失調症における包括的地域生活支援プログラム,家族介入,援助つき雇用,認知行動療法,患者教育,ケースマネジメント,自助グループ等々である。社会資源が十分に整備されていないわが国では本書に記載されているような社会資源を取り入れることは困難であるが,包括的アプローチに次第に関心が持たれ始めているわが国の精神医療・福祉の実践に大いに参考になる内容である。折から,わが国では障害者自立支援法が成立し,平成18年10月から施行される。それによって社会資源が充実,整備される可能性が高まってきており,本書は障害者の支援者である福祉関係の専門職にも役立つ書物であろう。

 各疾患について,その定義,疫学,自然史,研究の方向なども記載されており,現在まで何がわかっており,何がわかっていないかについても明瞭に記載され,教科書としての機能も立派に果たしている。

 わが国の精神医療・福祉の水準の向上のためにも,本書が各種の専門職に広く読まれることを期待する。

B5・頁984 定価15,750円(税5%込)医学書院


臨床老年医学入門
すべてのヘルスケア・プロフェッショナルのために

日野原 重明 監修
道場 信孝 著

《評 者》祖父江 逸郎(名大,愛知医大名誉教授/国立長寿医療センター病院名誉院長)

重要課題を総括
高齢医学・医療の指針に

 この度,日野原重明監修,道場信孝著『臨床老年医学入門-すべてのヘルスケア・プロフェッショナルのために』が,医学書院から上梓された。著者の道場先生は,日野原先生と一緒に「新老人の会」を推進し,新しい感覚でわが国の高齢者問題に精力的に取り組んでおられ,実地臨床の経験も豊富な第一人者で,最適任である。

 わが国では,急速に高齢化が進み,今や超高齢社会を迎え,医療の中で高齢者医療の占める割合は高く,すべての医療従事者にとっても最も身近なテーマになりつつある。したがって,日常の臨床各科においても高齢医学・医療についての全般的な理解と高齢者を対象とした基本的,包括的な対応が要求されている。こうした情況の中で,臨床にすぐさま活用可能な高齢医学・医療についての充実した内容で,しかもハンディな入門手引書が切望されていたが,まさに本書はその要望に十分応えるもので,その意義はきわめて大きい。

 本書には,以下のような特色がある。(1)高齢者をより全般的な視点からとらえ,脆弱高齢者の概念と特性を浮き彫りにしている。(2)包括的ケア,QOLなどを含め,高齢者医療を実践する上で必要な基本的,具体的事項を明確にしている。ことにケースマネジャーの役割,外来医療での専門ナースの活用を重視していることは異色。(3)EBMに基づいた最新の医学,医療情報をしっかり取り入れている。(4)記述は平易で格調高く,エッセンシャルをコンデンスし,具体症例,図表なども多く理解しやすい。

 生理的老化と,遺伝,生活習慣,社会・自然環境など諸条件により生ずる病的老化との組み合わせで,高齢者特有の病態が作られ,それに対応する保健医療福祉の統合的考え方により,高齢医学・医療の特徴が生まれる。実践の現場では,さまざまな問題が山積みされている。本書はそうした臨床の実際にきわめて有用な指針となる。

 本書の内容構成は2部に分けられている。第1部は総論で,臨床医学全般,新しい老人像,当面する高齢者の健康諸問題,緩和ケア,高齢者の健康評価,脆弱性,高齢者医療の実際,特殊性など9章にわたり要領よくまとめられている。第2部は各論で,高齢者のケア,薬物療法など臨床での注意すべき点を概括し,認知症,うつ,心血管症患,呼吸器疾患,悪性腫瘍,変形関節症,骨粗鬆症をはじめ,転倒,褥瘡,疼痛,栄養など高齢者にとって最も核心的な臨床的問題を2つの章に分けて詳述している。付録の問診票,MMSEも臨床での活用度が高い。以上からもわかるように,高齢医学・医療での重要な課題はすべて網羅し,しかも最新情報でコンパクトにまとめられている。

 本書の全体的なユニークさは,高齢社会の保健医療福祉を担うすべてのヘルスケア・プロフェッショナルにきわめて有用なことはもちろん,高齢医学,医療を専門とする臨床家にとっても新鮮さがあり参考となるところも少なくない。ぜひ一読されることを切望する。

B5・頁248 定価3,360円(税5%込)医学書院


外科医のための局所解剖学序説

佐々木 克典 著

《評 者》坂井 建雄(順大教授・解剖学)

解剖学を外科学の視点から学べる書

 医学の始まりの頃から,解剖学と外科学は密接な関係がある。1543年に『ファブリカ』を著したヴェサリウスが就いたのは,パドヴァ大学の解剖学と外科学の教授職であった。18世紀のイギリスの名外科医のチェセルデンが1713年に出版した解剖学の教科書は,大いに人気を博し,数々の版を重ねた。わが国では,1997年に発足した臨床解剖研究会が,解剖学者と外科学者との活発な研究発表の場となっている。とはいえ,解剖学と外科学との間に,何とも言えぬ垣根のようなものを感じることもないではない。

 本書『外科医のための局所解剖学序説』の著者は,小児外科で研修をすまされ,その後,解剖学の教育と研究にわが身を張って取り組まれている佐々木克典先生である。もともとは臨床雑誌「臨床外科」に1996年から3年間にわたって連載されたコラムに,大幅に手を入れてまとめられたものである。外科医としての経験を持ち,長年にわたり医学生の解剖学教育に携わってこられた著者による,解剖学と外科学の見えない垣根を打ち砕いてくれた,まさに佐々木先生でなければ書けない1冊である。

 伝統的な解剖学者の立場から見ると,同じように人体を解剖しても,外科医の視点からはこのようなところが重視されるのかと,教えられるところが大いにある。臓器の間の位置関係,臓器をとりまく結合組織性の膜,臓器に達するためのルートなど,人から話に聞いたり,臨床解剖学の教科書で読んだりしたことはある。頭ではわかっても,単なる理屈という段階で止まっていたものが,外科と解剖学の両方に通暁する著者の言葉で語られ,工夫を凝らされた独自のイラストで示されると,生き生きと,説得力をもって迫ってくる。イラストは,著者の下図をもとに専門家が描いたもので,他書のまねではないこれらイラストを見るだけでも,本書のオリジナリティーが大いに印象づけられる。

 本書の内容は,頸部,胸部,腹部,骨盤部,鼠径部・下肢,上肢,頭部・顔面に分かれて,外科の対象となる人体のあらゆる部分が網羅され,それぞれ体表解剖から始まって,いくつかの項目をバランスよく取り上げていく。特に私が楽しんだのは,随所に挟まれた「タイムクリップ」と題する29のコラムである。その場にふさわしい歴史上の解剖学者と外科医を取り上げて,現在は確立した知見をいままさに発見しつつあったその時代へと引き戻してくれる。また巻末の充実した参考文献も非常にありがたい。

 解剖学者には,私のように伝統を継承する生粋の者もいれば,佐々木先生のようにいわば異文化を持ち込む方もおられる。解剖学は,さまざまな異文化を取り込み,内容を豊かにしながら発展を続けている。外科学や解剖学を学んでいる若い人たちだけでなく,古い解剖学を学んだ年配の方々にも手に取っていただいて,解剖学の骨太さを知っていただきたい1冊である。

A4・頁288 定価12,600円(税5%込)医学書院


神経内科シークレット 第2版

服部 孝道 監訳

《評 者》水谷 智彦(日大教授・神経内科学)

丁寧な記述でわかりやすい神経内科を包括的に学ぶ

 本書は,神経内科の諸領域について,その神経症候の理解に必要な基礎的な事項からさまざまな疾患の診断・検査・治療・予後までを広範囲に取り上げている。一問一答形式になっているのでわかりやすく,時間があるときに読め,また,コンパクトにまとめられているので,知識の整理にとても便利である。

 基本的なことでしかも臨床に役立つ例を挙げると,上肢・下肢の末梢神経の分布およびそれによって支配されている骨格筋の図が示されているので,これはcompression neuropathyの診断にとても有用であり,また,単ニューロパチー,多発単ニューロパチーの診断にも役に立つ。次に,up to dateである例を挙げると,遺伝性脊髄小脳変性症はSCA1からSCA17まで網羅されているし,免疫グロブリン静注療法の副作用までも述べられている。また,各項目にはup to dateの文献がちりばめられており,各項目を深く知りたい読者への便宜が図られているのは,特筆すべき点である。

 4年前に出された日本語第1版(米国での第3版の翻訳)と比べると,(1)Top100シークレットとして最初に100項目の知識のまとめがある,(2)キーポイントとして各章の途中にまとめがある,(3)第1版より表や図が多い,(4)二色刷なのでわかりやすい,(5)必要に応じ,ウエブサイトが示されている,などの点が改善されている。欲を言えば,神経放射線や,脳波以外の神経生理の部分を充実してほしいと思うが,これはスペースの関係で難しいかもしれない。ただ,MRI画像が不鮮明なものもあるので,これは次回に改訂してほしいと思うし,また,拡散強調画像も入れてほしい。

 以上をまとめると,本書は神経内科の基礎的な面から臨床的な面まで包括的に丁寧に記述されており,また,わかりやすいので,学生や神経内科へのローテーターのみでなく,神経内科専門医を受ける人にとっても役に立つ良書として推薦できる。さらに,up to dateの文献が示されているので,神経内科専門医にも利用価値が高い本であると感じている次第である。知識を整理するのに最適な本であると言える。

B5変・頁520 定価7,350円(税5%込)MEDSi