医学界新聞

 

Dream Bookshelf

夢の本棚 10冊目

渡辺尚子


前回よりつづく

■考えるシート

著:山田ズーニー
講談社
2005年
A5判,189ページ
1365円(税5%込)

 久しぶりに院外研修会に出張させてもらった。病棟を離れるのも気分転換になるが,それ以上に他の病院の人と会ったことがとても刺激になった。自分と同じ思いの仲間がいると感じて,とても心強く,元気をもらえた気がする。でも,これから病院に研修報告のレポートを提出しなくてはいけない! と思うと気が重い……そんな思いで,眠りについた。

 「また来たね,あなたの書斎に……」。これは……そうだ,先生の声・ 私が看護師になって初めて受け持ち,そして初めて人生の最後に立ち会った人……。声の主は,先生だったんですね! そう思っている間に,大きな書棚から1冊の本が私の手元に落ちてきた。書名は『考えるシート』。表紙には,鉛筆で落書きのような文字や絵が描かれている。例えば「“お願い”を考えるシート」や過去から未来に向かった矢印の中の“現在”に自分がいるような絵。本を開くとページの色が実にカラフル。ピンク,グリーンそしてパープル。目次を見ると,その色別に章立てがあり,それぞれ「ステージ」という言葉で表現されている。

 ピンクのページは「人とつながる」ステージA,グリーンは「自分とつながる」ステージB,そしてパープルのページは「他者・外・社会とつながる」ステージC。ふと目をやるとステージCの中に「レポートを書く」という小項目がある! 「レポートの書き方」とか「小論文の書き方」といった本は何冊も読んできたけれど,書くことの難しさは変わらなかった。でもレポート提出はもう目の前! 期限を守らなかったら,また師長さんに怒られてしまう。この本はワークブックのようになっていてなんか楽しそうだと,とにかく「レポートを書く」から読み始めた。

 レポートと小論文の違い。なんとなく自分の中であいまいだったけれど,読み始めてすぐわかった。数ページめくると「レポートが書けるシート」のページがあり,自分で記載する“読者参加型”のページになっている。

 早速鉛筆を持ち,いつもの椅子に座って書いてみた。「今回私が取り上げた“問い”は……」。そうやって質問に対して空欄を埋めていくだけで,なんとレポートの“軸”ができてしまった! 「レポートを書く」以外だとどうなっているんだろうと,ステージA「人とつながる」に戻ってみる。そうそう,こういう人いるいる。でも待って。もしかして私もこんなところないかしら?……そうか,人にお願いをするときも,こんなふうに順を追って考えていくと伝わるんだわ。なるほど,人を励ます時,そういう風にすれば,私の気持ちがきちんと伝わるのね。

 あっという間にステージBに。自己紹介や,「自分の悩みをはっきりさせる」など,シートを埋めると,自分の考えがすっきりとまとまってくる。どのステージも「つながる」ということが基本になっている。自分の本当の気持ちが伝わり,相手につながり,自分につながるということ。「そうそう,私が言いたかったことはそういうことです!」「そうなの,それを伝えたかったの!」そんな満足感が得られそうな気がしていると,目が覚めた。

 研修会で学び,感じ,そして得たことを,病院の仲間たちにしっかり伝わるようなレポートが書けそうだ。早速カーテンを開け,机に向かった。

次回につづく


渡辺尚子
新しい気持ちで新年度がスタートした。「希望に満ち満ちた」4月,「まだ希望がある」と思えた5月,そして「希望が・・・・あるわよね,きっと」と思いながらの6月を迎えそう。今の心の支えは,新しい人たちと仕事ができる,その“刺激”。