医学界新聞

 

患者さんとの,仲間との出会いに乾杯

日本理学療法学術大会ランチョンセミナーの話題から


 第41回日本理学療法学術大会の会期中の5月26日,ランチョンセミナー「出会いに乾杯――人との関わりを信じて」(協賛・医学書院)が開かれた。

 講師の稲川利光氏(NTT東日本関東病院)は,理学療法士として病院に勤務していたころに,遊びやゲームを取り入れたユニークな集団訓練を考案。その後,老人の地域ケア活動の輪を広げ,「辛く苦しい訓練ではなく,楽しく人と関わるリハビリを」と「E・T(Entertainment Therapy)」を提唱し,話題となった。その後,医師免許を取得し,リハビリテーション医療全般に関わっている。「めまぐるしい医療の変遷のなかだからこそ,忘れてはならないものがある」という氏は,2人の患者さんとの出会いを本セミナーで語った。

「なぜ関わるか?」を自らに問い続けよう

 最初に語ったのが,右手のない左片麻痺の患者さんとの関わり。在宅での自立を支援するため,手作りでズボンのチャック上げを製作したが,その患者さん自らのアイディアでフックの活用の幅を広げていき,“万能フック”と呼ぶまでになった経緯を説明した。この出会いを通して,「人との関わりを生活のなかで考える,リハビリテーションの仕事の意義を見出すことができた」と振り返った。

 もう1人は,交通事故で脳挫傷・四肢不全麻痺・高次脳機能障害となった若い女性。懸命なリハビリを続けるなか栄養状態が改善し,手が動くように。しかし,声も出るようになったある日,「何のために私は生きてるの?」と母親に問いかけることもあったという。しかし,流涎のために着けていたエプロンを外すことでお洒落に目覚め,クレヨンで絵を描くことで生きる意欲を取り戻し,後に個展を開くまでになった経過を語った。

 「患者さんから教わるなかで多職種の連携がよくなった」という氏は,「技術も大事だけど,想いを共有できる仲間が大事」と強調。「“どう関わるか?”ではなく,“なぜ関わるか?”を大切にすることで,セラピストとしての強みが増す」と,会場に詰め掛けた参加者らにメッセージを送った。