医学界新聞

 

【連載】

はじめての救急研修
One Minute Teaching!

箕輪 良行
桝井 良裕田中 拓
(聖マリアンナ医科大学・救急医学)

[Case3]   発熱+頭痛=髄膜刺激徴候を
チェック!


前回よりつづく

この連載は…救急ローテーション中の研修医・河田君(25歳)の質問に救急科指導医・栗井先生(35歳)が答える「One Minute Teaching」を通じて,救急外来,ERで重症疾患を見落とさないためのポイントを学びます。


Key word
発熱,頭痛,髄膜炎,項部硬直
意識状態の変化,Jolt accentuation

Case
 さばききれないカルテを抱えた土曜日の深夜,河田君のところに発熱を主訴とした患者が訪れた。

 66歳男性,2日前から熱っぽく,頭痛があり,市販の風邪薬を飲んでいた。この日も薬とともに栄養ドリンクを飲み就寝したが,一向に熱が下がらないため受診。

 病歴聴取,身体診察の結果,2日前から38度を超える発熱が続いていたが,仕事のため受診しなかった。受診時の体温は38.5度。頭部全体の痛みを訴える。咽頭痛なし,咳なし。嘔吐・下痢なし,腹痛なしだが,食欲は低下している。四肢に軽度の関節痛を認めた。最近の旅行歴なし,動物との接触歴なし,取り立てて普段と変わった環境への暴露もない。

 患者を診察室に残して出てきた河田君は「ただの風邪だと思うんですけどねぇ」と不平を言いながら,指導医の栗井に相談した。

■Guidance

河田 熱は確かにありますし頭痛も強いとおっしゃっていますが,そんなに重篤には見えません。インフルエンザも季節はずれだし,風邪でよいと思うのですが……。

栗井 発熱はよく遭遇する訴えだよね。確かにほかに何の症状もなければ風邪だと言いたくなるけど,救急の現場で大切なのは緊急度・重症度から見落としてはいけない疾患を除外すること。まずは病歴から感染症なのか,それ以外での発熱なのかの目安をつける。感染源が明らかな発熱は治療方針も明確だけれど,むしろ感染源がはっきりしない場合が要注意だね(Check Point1)。身体所見は?

河田 血圧140/70,脈拍120,体温38.5度,咽頭発赤はなく白苔もついていませんでした。頸部のリンパ節も腫れていません。呼吸音も両側で清明,心雑音もなし。腹部も平坦で柔らかく,圧痛も認めませんでした。背部CVAの叩打痛も認めておりません。副鼻腔の圧痛もなく,四肢,体幹に発赤や腫脹を呈している部位もありません。

栗井 副鼻腔の圧痛や,四肢体幹の発赤まで観察したのはすばらしいね。では,頭痛についてはどう考えたの?

河田 発熱に伴う頭痛かな,と……。

栗井 頭痛を伴う発熱では髄膜炎・脳炎は必ず念頭におくべきだね(Check Point2)。もう一度頭痛について尋ねてから,髄膜刺激徴候を見てみよう。

Disposition
 頭痛について尋ねると,頭全体に感じる持続的な非拍動性の頭痛であった。意識状態も清明であり,脳神経,四肢の運動,知覚に異常はなく,深部腱反射も左右差なく,病的反射も認めなかった。

 次に座位でいる患者に頭部を前屈してもらうと後頸部の痛みを訴え,下顎は胸部につかなかった(Neck flexion test:陽性)。また臥位にして頭部を持ち上げると首に力が入ったようになり,前屈できなかった(項部硬直:陽性)。また左右に首を振ってもらうと激しい頭痛の増強を訴えた(jolt accentuation:陽性)。さらに股関節,膝関節を90度に屈曲した状態から膝関節をゆっくり伸展させていくと頭痛が増強した(Kernig徴候:陽性)(Check Point3)。

 このため採血を提出し,頭部CTにて出血,占拠性病変がないことを確認し,腰椎穿刺を行ったところ,髄液はやや混濁しており,多核白血球増加,蛋白増加,糖低下を認め,細菌性髄膜炎の診断のもと,肺炎球菌,髄膜炎菌を念頭にアンピシリン,セフォタキシムによる治療が開始された。

Chek Point 1

「発熱」はありふれているけれど……

 あまりにもありふれた症状である発熱。咽頭の発赤,咳,嘔吐・下痢,尿路感染に伴う背部CVAの叩打痛など明らかに感染源を示唆する所見があればそこを中心に診断,治療を考えるが,感染源が不明な場合の発熱の鑑別は多岐にわたる。なかでも特に緊急対応を要する疾患は,感染症であれば,敗血症,髄膜炎,胆道感染症,急性肝炎,細菌性心内膜炎,膿瘍性疾患,特殊な感染症(結核,寄生虫など)などを考慮する。また非感染症として肺塞栓,薬剤(悪性症候群),特に高齢者では悪性疾患も考慮する必要がある。

Chek Point 2

病歴だけでは感度が低い。

 髄膜炎に伴う症状はいずれも非特異的で,必発と思われがちな頭痛ですら感度は30-40%台という報告が多い。嘔気・嘔吐も30%程度。発熱は多くの報告で90%以上の感度を示しており,髄膜炎を除外する時は目安となる。

Chek Point 3

では身体所見は?

 項部硬直は70%程度の感度を示しているが,特に高齢者では髄膜炎ではなくとも項部硬直を呈することが多く,注意を要する。また意識状態の変化は67%の感度を認め,基礎疾患のない低リスク患者における細菌性髄膜炎の除外に利用できる。発熱,項部硬直,意識障害は髄膜炎の古典的三徴。95%に少なくとも2つの症状がある。Kernig徴候,Brudzinski徴候は感度は低いが特異度が高いので,陽性であれば髄膜炎を強く疑って腰椎穿刺を行うべきである。もっとも有用な身体所見jolt accentuation。これは1秒間に2-3回首を左右に振ることによって頭痛が悪化することを陽性とする。感度97%,特異度60%と報告されており,陰性であれば髄膜炎の除外に役立つ。

Attention!
●感染源の不明な発熱を簡単に風邪と決めつけるのは危険!
●発熱,項部硬直,意識障害は古典的三徴。髄膜炎の95%に少なくとも2つの症状がある。いずれもなければ髄膜炎は否定的。

次回につづく