医学界新聞

 

必修化後第一期生修了,「評価」が次の焦点

第24回臨床研修研究会の話題より


 第24回臨床研修研究会が4月8日,ポートピアホール(神戸市)において開催された。神戸市立中央市民病院(菊池晴彦院長)が当番病院を務めた今回は,「必修化後第一期生修了にあたって」をテーマに,「研修医と指導医の評価」「研修プログラムの評価」の2題のシンポジウムが企画された。


EPOCによる達成度の解析

 シンポジウム「研修医と指導医の評価」(座長=聖路加国際病院・福井次矢氏,奈良女子大・久保田優氏)の冒頭,座長の福井氏が現時点での「評価」をめぐる問題点を提示。到達目標と研修プログラムに整合性が取れないことや,到達目標達成の記録の煩雑さを指摘し,「評価」の改善と効率化を本シンポジウムの目的に掲げた。

 研修評価システムとして広く知られているのは,国立大学医学部附属病院長会議で開発されたEPOC(Evaluation system of Postgraduate Clinical trainig)だ。インターネットを介して研修医の自己評価と指導医の評価を入力するシステムで,(1)協力病院・施設からもリアルタイムアクセス可能,(2)専用サーバーやソフトが不要,(3)セキュリティ・保存が保証される,などの利点がある。利用者は全研修医の3分の2にのぼる。EPOC運営委員長の田中雄二郎氏(東医歯大病院)は,同システムによる研修評価の全国集計を報告した。研修医の自己評価による経験目標の達成度を解析した結果,中毒や熱傷などの達成度が低かったことから,「1-2次救急研修の充実が求められる」と課題を提示した。また,当初懸念されていた「大学プログラムでは一般疾患の経験が足りなくなる」という事実は認められず,「大学病院も地域中核病院として1-2次医療対象患者を多数受け入れているのが要因の1つでは」と分析した。

 こうした統計解析が容易なEPOCであるが,ツールとしての使いやすさに関しては,指導医・研修医の不満の声がある。田中氏は最後に,EPOC改良の概要をまとめ,指導医フリーコメント欄を追加するなどの柔軟な評価法を検討していることも明らかにした。

評価は難しく,簡単でもある

 続いて,馬場清(倉敷中央病院),西野洋(亀田総合病院)の両氏が,指導医の立場から研修評価を述べた。馬場氏は「相互評価会」の取り組みを紹介。2-3か月毎に指導医側は研修医を,研修医側はローテート科の研修内容について評価し,同時に面談を行って問題点の共有を図っているとした。

 「評価は難しくもあり,簡単でもある」と切り出したのは西野氏。評価というと,2年間の研修や各ローテーション終了時を連想するが,これらはあくまでも“必要最低限のきまり”。研修医自身の成長を思えば,「日々刻々,言葉や態度でフィードバックしていくことが大事では」と問題提起した。

 レジデントの立場からは,次橋幸男氏(天理よろづ相談所病院)と北井豪氏(神戸市立中央市民病院)が登壇した。次橋氏は,研修医全員が指導医を評価する仕組みを紹介。結果は病院長にも報告されるという。一例として,ある指導医に対するユーモラスかつ辛口な研修医評価を提示。最後は「全スタッフの中でもっとも研修医のために努力している」とまとめられており,病院の風通しの良さを感じさせた。

 北井氏は,「忙しい研修中に入力の占める割合が多すぎる」「指導医が確認するのが大変」などの理由で,EPOCの使用を中止した経緯を報告した。現状は病院独自の評価システムを用いているが,「評価をすることで研修医のランク付けとなる可能性もある」として,研修医のモチベーションを損なわせない評価の必要性を強調した。

 討論は形成的評価,フィードバックのあり方に話題が及び,会場からは「ratingだけでなく文章で書き記すことが大事」「ポートフォリオが有効ではないか」との声もあがった。

■動き出した「研修プログラムの評価」

 シンポジウム「研修プログラムの評価」(座長=横浜市病院経営局病院事業管理者・岩崎榮氏,神戸市立中央市民病院・盛岡茂文氏)では,厚労省と大学病院,市中病院,研修医,各々の視点から新制度の2年間が検証された。

 宇都宮啓氏(厚労省医師臨床研修推進室)は,本年度予算で医師臨床研修費補助金の教育指導費が前年比7億円増加(135億→142億)したことを報告。さらに診療報酬改定では,単独型・管理型における臨床研修病院入院診療加算の点数が増加し,協力型にまで加算対象を拡大したと説明した。また,当初の懸念とは異なり,研修医が都市から地方に流れる傾向が見られることをデータで提示。アンケート結果から,研修医は教育体制の充実を病院選びのポイントとしていることを指摘した。

 三重大病院は2005年度のマッチ者3人と,苦戦を強いられている大学病院である。安井浩樹氏(三重大)は,「負け組の視点」というユニークなサブタイトルで口演。笑いも交えて語る口演は逆に,「マッチ者数が少なければ,それで“負け組”なのか」という疑問を感じさせるものとなった。三重大はクリニカルクラークシップにより,地域病院で医学生が過ごす期間が長い。さらには,県内の臨床研修病院,医師会,県などが中心となり,NPO法人MMC卒後臨床研修センターを04年に設立している。県内の市中病院では研修医が増加傾向にあり,“地域で医師を育てる”素地ができつつあることを報告した。

 宮城良充氏(沖縄県立中部病院)は,新旧制度の修了者を比較対象した「研修医到達度自己評価」を報告した。定員が増えた関係で経験できる症例が一時的に減ったものの,全体として質は保たれていると分析。特にこれまで到達度評価の低かった項目は数値が上がり,「知識・技術中心から,バランスのよい研修になった」と評価した。

第三者機関設立に向けて

 「日本の臨床研修に欠けているのは,“検査前確率と考察”と“屋根瓦方式の教育体制”」としたのは,松村理司氏(洛和会音羽病院)。身体所見の確認が現場でなされず,珍しい病気や新しい検査が話題となる現状に苦言を呈した。また,近年の臨床現場では,指導医研修医間のEE対立(指導医のExperienceと,若手医師のEvidence)がみられるとし,屋根瓦方式により,不毛な対決を解消したいとした。

 研修医の立場からは,千原典夫(虎の門病院),丸山直樹(聖隷浜松病院)の両氏が登壇した。千原氏は院内の2年目研修医に対するアンケート結果を報告。産婦人科や小児科,精神科などのローテートに関し,「他科での診療の際に役立った」など一定の意義を見出した研修医の声を紹介した。丸山氏は,研修医アンケートの結果から自院のプログラムを考察し,麻酔科を1年次必修とするなど独自のプログラム案を示してみせた。

 最後は司会の岩崎氏から,昨年末に発足した「新医師臨床研修評価に関する研究会」(理事長=自治医大・高久史麿氏)の概要が紹介された。同研究会は,研修プログラムを中心とした臨床研修機能評価の推進を目的としたもの。将来的には日本医療機能評価機構のような第三者機関を設立し,訪問調査によって記録・資料の確認,研修医・指導医へのインタビューを行うことなどを想定している。米国ではすでに卒後研修を管理評価する第三者機関,ACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education)が設置されている。今後は日本でも,研修プログラムの評価に向けた動きが活発化しそうだ。

「新医師臨床研修評価に関する研究会」
 URL=http://www.jcge.jp/