医学界新聞

 

変革期にゆれる産婦人科医療

第58回日本産科婦人科学会開催


 さる4月22-25日の4日間にわたり田中憲一会長(新潟大)のもと,パシフィコ横浜にて第58回日本産科婦人科学会が開催された。今回の大会では多くの教育講演,シンポジウムのほか,若手産婦人科医の育成を目的とした研修コースなど多数のプログラムが組まれた。本紙では,クリニカルカンファレンスから「産婦人科と医療制度を考える」「産婦人科と感染症を考える」の2題を取り上げる。


■産婦人科を取り巻くさまざまな変化

 クリニカルカンファレンス「産婦人科と医療制度を考える」(座長=久留米大・嘉村敏治氏,済生会中央病院・亀井清氏)において,はじめに澤倫太郎氏(日医大)が米国で標準化されている臨床手技コードCPT(Current Procedural Terminology)コード導入について口演。現在中心となっているDPC(Diagnosis Procedure Combination)方式では,疾患に必要なコストが低ければ低いほど利益が大きくなるため,「医療内容の圧縮や,アップコーディングされる傾向にある」と指摘。しかしCPTコードは,(1)日常診療上で高頻度の疾患に対してほぼ網羅され,使用した手術材料がカバー可能,(2)コードの新規収載・削除を厳正に行うことで,最新のスタンダードを提示できることから,CPTコードの導入はきわめて有用と強調した。

 続いて麦谷眞里氏(厚労省)は保険診療改定について登壇。今回行われた3.16%(約1兆円)の診療報酬マイナス改定を総括。その中から産婦人科の改定については,ハイリスク分娩・急性期入院料のプラス改定について言及した。

 佐々木繁氏(佐々木医院)はがん検診受診率向上について,子宮がん検診については「HPV検診の開始,細胞診の報告様式の見直し,隔年検診中間報告後の影響調査」を,乳がん検診については,「マンモグラフィ(MMG)読影に関する講習会支援,乳腺超音波読影講習会(仮称)の試行,併用検診(MMG・超音波)の検討・普及,自己検診指導の普及」を提言。そして受診率向上の方策として,(1)市民公開講座・講演会の開催,(2)外来受診患者にがん検診を勧める,(3)保健師による声かけと健康教育,(4)母子手帳交付時や乳幼児健診時にPR,(5)特に集団検診では全日程を掲載した印刷物を配布,(6)女性の羞恥心を考慮し施設(個別)検診の推奨などの具体例を示した。

急増する産婦人科女性医師の役割と環境整備

 「産婦人科医療における女性医師の役割」と題し,間壁さよ子氏(神田第二クリニック)が口演。産婦人科は女性医師の割合が急増しており,特に20-30代では顕著となっている。間壁氏は女性医師117名のアンケート結果から,「産婦人科のハードルを下げ受診しやすくしている。特に思春期外来・月経異常・更年期外来などで女性であることにメリットを感じている」と報告。一方で,女性医師の抱える最大の問題点として育児との両立を挙げ,今後も増加していくであろう女性医師のマンパワーを有効に活用するためにも「産婦人科がモデルとなり,女性医師が働きやすい環境整備が必要」と,休職をせずに家事・育児をこなすため周囲からのサポートを呼びかけ,壇を後にした。

■産婦人科領域における感染症対策

 クリニカルカンファレンス「産婦人科と感染症を考える」(座長=江東病院顧問・松田静治氏,独協医大・稲葉憲之氏)では,「院内感染の実態と予防」と題し,本山覚氏(千船病院)が登壇。院内感染は現時点において完全に防止することは困難であるが,「できうる限り防止する姿勢が重要」と強調。分娩における新生児病院感染予防には,母子間における正常菌叢プリンティングの間は医療従事者の介入は慎重に行うことなどを挙げた。

 赤枝恒雄氏(赤枝六本木診療所)は性器ヘルペス治療の進歩について,治療薬の進歩による早期治癒・再発防止などに言及。性器ヘルペスについて「患者さん自身がいつ感染したかわからないことがほとんどであり,かなりの人に潜在化している可能性が高い」と指摘。そして新規抗ウイルス薬について「異なるウイルスタンパクを標的とする薬剤を用いた多剤併用療法が可能となるのではないか」と期待を込めた。

 続いて久慈直昭氏(慶大)が生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)における精液を介する感染症の制御について口演。男性から女性への水平感染,さらに胎児への垂直感染が問題となることから,精液を介するウイルス感染予防が重要であることを指摘。そして,感染症伝播機構研究の進歩と臨床症例の蓄積を踏まえた新しいガイドラインを作成する必要性を述べた。

 花房秀次氏(荻窪病院)はHIV-discordant coupleに対するARTについて報告。現在,多剤併用療法により血中HIV RNA・精液中HIV RNAが抑制されていてもHIV DNAは残存し感染ウイルスを複製するため避妊が勧告されているが,「HIV除去精子を用いた体外受精により,母子の二次感染を防ぎ出産が可能」と新たに確立した方法を報告した。今後の課題として,ウイルス除去率を高めながら精子回収率も高める技術開発が必要。さらに地域病院と連携し,「患者さんの地元で受けられるネットワークの実現に向けて取り組んでいきたい」と締めくくった。

 HIVの垂直感染と予防について和田裕一氏(仙台医療センター)が口演。HIVの垂直感染時期について「妊娠中に15-25%。うち子宮内感染25-40%,分娩周辺期の感染60-75%と推定されており,出産後の授乳で感染率が10-20%増加する」と述べた。そして予防対策の基本として,(1)HIV感染妊婦のスクリーニング,(2)妊婦・新生児への抗レトロウイルス薬の投与,(3)予定帝王切開分娩,(4)止乳,を提示。その中でも感染妊婦のスクリーニングが重要であり,妊娠初期の実施が垂直感染の防止につながるとまとめた。