医学界新聞

 

【連載】

はじめての救急研修
One Minute Teaching!

箕輪 良行
桝井 良裕田中 拓
(聖マリアンナ医科大学・救急医学)

[Case2]   動脈硬化のリスクファクターは確認したよね


前回よりつづく

この連載は…救急ローテーション中の研修医・河田君(25歳)の質問に救急科指導医・栗井先生(35歳)が答える「One Minute Teaching」を通じて,救急外来,ERで重症疾患を見落とさないためのポイントを学びます。


Key word
回転性めまい,末梢性,中枢性,動脈硬化

Case
 朝のERでのんびり構えていた研修医,河田君。救急車のコールが鳴った。

 65歳の女性。自宅で朝起きた時から,ぐるぐる回るめまい感があり,2時間ほど様子を見ていたが,吐いたために夫が救急車を呼んだ。9時半に来院した時の血圧は170/98,脈70,呼吸22で体温36.2度,意識JCSで1であった。

 河田君が診察したところ,身体診察で注視眼振が右向き,指鼻試験で左がやや拙劣であった。耳鳴り,難聴はなく,眼球運動は正常で,それ以外の運動,知覚神経に異常を認めない。患者は「以前にもちょくちょくあったのよ」と話していたので河田君は安心し,よくある内耳性めまいと考えて指導医の栗井先生に報告した。

■Guidance

河田 繰り返している病歴と頻度から,前庭神経炎,迷路炎,メニエール病などの内耳疾患を考えました。今回は典型的な回転性めまいで,嘔吐も伴っているので,特にメニエール病か前庭神経炎じゃないかと思うのですが。

栗井 なるほど。その2つは確かにめまいの原因でもトップ10には入るだろう。めまいはうちの救急外来患者では0.4%,他の街じゃ救急車搬送の2.6%という報告もあるよね。まず,めまいの診断では回転性,動揺性,失神性という3分類で迫るのが最初のステップ(check point1)だけど,その点はどうだった?

河田 病歴と身体診察からは起床時からの明らかな回転性めまいでした。バイタルに異常なく,蝸牛神経症状もないので,頭位変換性めまいも疑ったんですが,長く続くので今言った疾患のほうが事前確率が高いと思います。

 さっそく,低分子デキストラン,アデホス,ビタミンB12,プリンぺランの投与という方向でいいですか。

栗井 確認だけど,回転性めまいの正統的アプローチ(check point2)はもちろんクリアしているよね。

河田 Weber検査とRhinneはばっちり済んでます。あとは耳鼻科コンサルトの前に頭部CTを撮ります。

栗井 来院時血圧が少し高いのと,少し左の指鼻試験で拙劣だったのが気になるね。念のため動脈硬化のリスクファクターも確かめておいたほうがいいな(check point3)。

Chek Point 1

「めまい」の病歴
 座位をとれないほどつらく,仰臥位で来た患者では,まず吐き気,嘔吐が著明で自発眼振があれば前庭神経炎を疑い,高齢者で自発眼振がなければ小脳出血などの脳血管障害を疑う。中でもめまい感を訴える患者を診察する時にはまず「ぐるぐる回る」回転性なのか,「ふわふわ浮いている」動揺感なのか,「気が遠くなる」失神感なのかを探る。回転性であると確認できたら,身体の左右いずれかを下にして寝ると症状が悪化するかを聞くとよい。一般に回転性めまいの場合,病側を下にするとめまい感は悪くなる。

Chek Point 2

末梢性か中枢性か
 回転性めまいへの正統的アプローチの原則は末梢性か中枢性かを鑑別すること。末梢性は患者の訴える症状が派手で,症状が分単位から週単位で続き,耳鳴り,難聴を伴うが,中枢神経症状はない。眼振は病側から健側に向かう一方向性で回旋成分があることが多い。前庭神経炎,良性頭位変換性めまい,メニエール病,薬物副作用(アミノ配糖体など),外傷を鑑別する。中枢性では症状が慢性的で,耳鳴り,難聴はない。中枢神経症状がみられ,眼振は一方向と限らず,水平成分のみであることが多く,脳血管疾患(脳幹,小脳梗塞など),聴神経腫瘍などの脳腫瘍,脱随疾患,椎骨脳底動脈循環不全も考える。

Chek Point 3

動脈硬化リスクファクターの確認!
 小脳梗塞症例では,めまいと嘔吐を主訴とすることが多いが,小脳失調の神経所見を欠く症例が約25%という報告がある。小脳失調所見がないと小脳梗塞と初期診断することは困難が伴う。小脳失調所見がない小脳梗塞では,有意に動脈硬化のリスクファクターを有していて,かつ初診時の血圧が高いという報告がある。末梢性のめまいでなく必ずしも中枢性とも言えないめまい症例の場合,リスクファクターがあり来院時に血圧が明かに高いものはCTを行うのが安全である。

Disposition
 患者に尋ねたところ,高血圧,高脂血症の既往があった。頭部CTは著変なく,点滴投与したあと吐き気が消失したので帰宅した。しかしその晩,食事もとれず,めまい感が消失しないため,再び家族が自動車で連れてきた。昼間に引きつづき当直に入っていた河田君が診察。症状が持続することに疑問を感じ,今度はMRIを施行,右小脳半球に梗塞巣を発見した。

 本Caseとは違って,典型的な小脳梗塞では突然のめまい,失調症状で発症し,吐き気や嘔吐,頭痛は必ずしも伴わない。介助なしで座位でいることができずに,仰臥位で診察となることが多い。回転性めまいが体位変換によって繰り返し誘発される。

Attention!
●めまいの病歴から大きく3分類するのが最初のステップ
●回転性めまいの正統アプローチは,末梢性と中枢性の鑑別を丁寧にすすめること。ボーダーラインではリスクファクターのような追加情報も大切にする

次回につづく