医学界新聞

 

Dream Bookshelf

夢の本棚 8冊目

渡辺尚子


前回よりつづく

ウィー・アー・クレイジー!?

著著:佐々英俊,
高松紘子
寿郎社
2004年
B6判・260ページ
1,600円(税5%込)

 病棟で患者さんに呼び止められた。「ねえ,この法律どう思います・」。彼女は新聞を広げて記事を見せてくれた――「障害者自立支援法」。そういえば最近テレビや新聞で大きく取り上げられている……が,「私には関係ない」と思ってあまり気にしていなかった。患者さんってすごいわ。入院中なのに,社会にしっかり目を向けていて! それにしても障害者自立支援法って何? 「障害者」って誰のことだろう?

 その夜,そんなことも忘れて眠りについた。「また来たね,あなたの書斎に……」。いつもの声がすると思ったら,すぐに一冊の本が私の目に飛び込んできた。黒を基調にした背表紙にピンクの表紙。表紙とともにインパクトがあるのが,そのタイトル『ウィー・アー・クレイジー!?』。副題は「統合失調症患者が語る胸のうち」。統合失調症?! そういえば数年前,精神分裂病から呼称を変えるっていう話があったな,と思いながら本を開いた。

 「はじめに」を読むとすぐ,統合失調症の診断がついた佐々英俊さん本人が病気について語り,それを高松さんという人が「聞き書き」した本らしいことがわかる。「はじめまして,佐々英俊と申します」と始まる文章になぜか惹かれる。

 第1章「発病」では,診断がつく前の病気の症状と自分の気持ちとの葛藤や,入院した当時の精神科病院がソフト面・ハード面ともに辛いものだった様子がとてもよく伝わってくる。入院患者さん同士の師弟関係やそれぞれの個性がうまく表現されており,時に笑ってしまうところもある。何よりほっとしたのは「今の精神病院は明るくなった」と,環境,そして看護師の対応も含めて精神病院が良くなったという言葉だ。

 あっという間に終わりの章が近づく……。「幻聴」「妄想」といった言葉が「専門用語」としてではなく,具体的に「この状況が“幻聴”という声になって聞こえてしまうのね」「妄想って,こんなふうに感じるのね」と,本当に納得できて感動を覚える。一方で人生を考えさせられる,とても切ない部分もある。精神科病院入院中に親切にしてくれた患者仲間の正邦さん。お互いに退院した後に町で会い,正邦さんが200円のあり金をはたいて買ってくれた1本のバナナ。2人で食べ歩きながら「元気でね」といって別れたバス停。そして2年後,正邦さんの自殺を知る佐々さん……。

 彼はこう言う。「俺は通夜どころか葬式,一周忌にも出られず,今でも正邦がどこに眠っているのかさえわからない。(中略)享年34。40になった気持ちを知らずに死んだ。(中略)今俺は40。時がたつのは早い。正邦を追い越してしまった」。入院中の仲間や退院後仲良くなったデイケアや作業所での仲間の中にも亡くなった人がいる。その死は,どこで教えてもらったわけでなく,たまたま同じところに通っていた教会の張り紙などで「偶然」知るのだ。「精神病者はどこか忘れ去られた人なんだ。誰に看取られることもなく亡くなっていく。病院はそういうことを一切教えてくれない。そういう情報を流してはいけないのかもしれないが,俺だって友達の通夜や葬式には参加したい。(中略)いったい誰が彼らを看取ったんだろう。墓はどこにあるのか,いまだにわからない」。

 『統合失調症』というなかなか身近に感じられない病気が,実際に体験した語り手によって描かれている本。不謹慎かもしれないが小説を読むように面白く,時に切なく,そして社会のあり方や看護師として何をしたらよいのかを考えさせられながら目が覚めた。

 「もっと社会に目を向けなくちゃ! 今日はお休み。まずはたまった新聞を読んでみよう」そう思っておもいっきりカーテンを開け,朝日を浴びた。

次回につづく


渡辺尚子
先日久しぶりに,以前の勤め先で一緒に働いていた人と会った。お互いに共通の仲間の情報交換をし,みんな国内外それぞれの分野で活躍していることを知ってなんか感動……している今日この頃である。