医学界新聞

 

助産師の自律を導くチームのチカラ

第20回日本助産学会開催


 さる3月4-5日,東京ビッグサイトにて,第20回日本助産学会が福井トシ子会長(杏林大病院看護部長)のもと,約1100名の参加者を集めて開催された。今大会のテーマは「チームで育つ助産のチカラ」。シンポジウムやワークショップでは「医療紛争への対応」「院内助産院システムの立ち上げ」「卒後臨床研修制度の確立」「周産期の看取り」など,いま助産の現場が直面している臨床的課題が取り上げられ,それぞれ「チーム」「協働」を鍵とする解決策が提案された。


信頼の風土が産み出す「自律」

 会長講演で福井氏は,新たな看護管理システム「セルフマネージングチーム制(SMT)」を創出した意図,導入4年目を迎えた現在の状況を紹介した。SMTは,病棟スタッフを新人・ベテランを含むチームに分け,そのチーム内で問題解決・目標管理をするというもの。師長・主任などの中間管理者は,チームが実践した結果への責任は引き受けつつも,基本的にはファシリテーターとして機能する。

 福井氏はSMT導入の狙いを,病棟スタッフが「意思決定ができる自律したチーム」へ成長することと語った。従来のプリセプター制度では,病棟内のピラミッド構造が強化され,上長に判断を委ねる病棟ムードが生まれやすい。それに対してSMTでは,階層構造がフラットになり,チームに問題解決が委ねられるため,「新人も含めて皆が自分で考えるようになる」「学習する組織となる」「個々人の強みを最大限に活かそうとする」といったメリットがある。実際に杏林大病院では,チームの主体的な活動が助産外来や2交代制が導入されるなどの具体的な成果に結びついているという。

 福井氏は,「不信感や恐怖感にもとづく防衛的風土が,チームや個人の成長を妨げる」と指摘し,SMTの導入を「それぞれがオープンな状態になり,自分も他者も信頼できるようになる。そのような“信頼の風土”を築くプロセスであった」と振り返った。

医療事故・紛争を回避するための対話とは

 シンポジウム「周産期のリスク共有コミュニケーション」(座長=佐山静江氏・獨協医大病院,中西淑美氏・阪大)では,多彩な目線から医療事故・リスク対応ついての提言がなされた。

 原田悦子氏(法政大)は,助産師・看護師の勤務中の会話データを分析した結果から,看護職同士で業務の実施状況や指示を確認する会話の「複数の話題が入り乱れ,情報が不確かなままつなぎ合わされたり,ひとり歩きする」といった特徴を指摘。「このようなコミュニケーションエラーについては,情報伝達の全体像を見渡すより,特定の状況にあるスタッフ個人がその時どんな情報を受け取るかに着目して,対策を考えるべきだ」と提言した。

 勝村久司氏(「陣痛促進剤による被害を考える会」世話人)は,長女を失った経験から,陣痛促進剤による被害では,母親が自分を責めてしまうこと,レセプトの開示なくしてインフォームドコンセントは進まないことなどを指摘し,患者の選ぶ権利・知る権利を保障する必要性を訴えた。

 稲葉一人氏(科学技術文明研究所・法学)は,医療事故を防ぐリスクマネジメントだけでなく,医療紛争が訴訟にまでもつれることを患者との対話によって防ぐ「コンフリクトマネジメント」が重要であると提言。そのポイントとして,病院と被害者とを調停するメディエーターの存在をあげ,厚労省での養成状況や,院内でのメディエーター養成について述べた。

 最後に助産師師長の立場で登壇した山本智美氏(聖母病院)は,自身の妊産褥婦との対話での失敗事例を紹介。相手と向き合わない,相手の苦悩を受け止めずに誤解を解こうとする対話がトラブルに至る過程を解説するとともに,対話のなかのズレを認識し,修正していくことの重要性を指摘した。