医学界新聞

 

【徹底討論】
  ナ  ー  ス
看護師が抱える悩みのカタチ

出席者
武藤清栄氏(東京メンタルヘルスアカデミー所長・司会進行)
岡崎知子さん(市中病院看護師長・仮名)
荒川静子さん(総合病院看護主任・仮名)
上村愛美さん(総合病院看護師,リスクマネジャー・仮名)


 職場での人間関係,仕事へのやりがい,生活との両立……。看護師の悩みは独特で,なかなか周囲の理解を得にくいもの。本紙では現場の師長,主任,リスクマネジャーに匿名でご登場いただき,自身や周囲の看護師が抱える悩みを語っていただいた。医療機関・医療者のメンタルヘルス相談を数多くこなしてきた武藤清栄氏が司会進行を務めつつ,看護師独特の「悩みのカタチ」を浮き彫りにします。


■ナースは病棟の要,ゆえの人間関係の難しさ

職場の空気を悪くしてしまう人

武藤 今日は師長,主任,リスクマネジャーというお立場から,それぞれ「現場の悩み」を聞かせていただきたいと思います。まずは,師長の立場から,岡崎さんの近頃の悩みごとを聞かせていただけますでしょうか。

岡崎 今悩んでいるのは,ある非常勤の人のことです。30代でお子さんが2人いる方なんですが,愚痴が多いんです。私や主任がいるところではそうでもないのですが,スタッフ同士になると仕事上の愚痴をこぼして,皆の意欲を低下させてしまいます。仕事ができない人ではないのですが,その人が皆をかき回しているんですよ。

荒川 そういう人,いますよね。会議や,大人数がいるところでは発言しないのに,休憩室なんかで文句ばかり言うんですよね。

武藤 上村さんは,リスクマネジャーということですが,こうした職場の人間関係の問題にもタッチされるのですか?

上村 直接的にはそれほど多くありませんが,事故の原因としてコミュニケーション不足が多いことは感じます。職場間や上司・部下の間で,言った言わないの水掛け論になるような状況では,事故が起きがちですね。

武藤 今のお話にあった,文句の多いスタッフの例については,どのように思われますか?

上村 その人はパートで,子どももいるから,文句といってもおそらく「こうしましょう」という建設的な意見ではないんですよね。責任を負うつもりはないし,余計な仕事は増やしたくないと思っているんじゃないでしょうか。だから師長には言わない。

岡崎 「これだけ文句が多いんだから」ということで,役職を持たせようかと発想したこともあるんです。でも,この人を主任にするのは賭けですよね。

荒川 その人と,そういう踏み込んだ話し合いをしたことはあるんですか?

岡崎 パートということもあって,今のところできていません。何より,辞めてしまうのが怖い。慢性的な人員不足ですから。

武藤 話し合いが持てるのであれば,それがいちばんいいでしょうね。岡崎さんに対して,自分の意見を素直に伝えられるようになったら,スタッフ相手の愚痴も少なくなるかもしれません。これは医療職に限ったことではありませんが,管理という仕事はつまるところ「聴くこと」だと私は思います。ただ,聴くほうにはそれなりにストレスがかかるので,実際にはなかなか難しいのですが。

問題のある人の活かし方

武藤 今の例とは少し違うかもしれませんが,師長や主任といった役職ではないけれども,古くから働いていて知識・経験はもちろん,パワーがあってほかの人に影響を与えてしまう人って,どこの職場でも必ずいらっしゃるでしょう? そういう人と,師長や主任といった役職のある人のコミュニケーションは一般的に難しいと言われていますがいかがですか?

上村 以前,年輩で,すごく影響力があって,病院の生き字引のように何でも知っている人がいる外来で主任を務めたことがありました。その時は徹底して,その人を頼るようにしましたね。私自身,外来は1年ぐらいしか経験がなかったから,できるだけ相手を立てるようにしたんです。「あなたがいないと何もできない」とか言って(笑)。

武藤 それで,連携がうまくいったわけですね。

上村 前任の主任と折り合いが悪かったこともあって,威圧的なイメージがあったんですが,基本的に悪い人じゃなかったので,うまくいったと思います。外来の雰囲気ががらっと変わって,その人まで物腰が柔らかくなりました(笑)。

武藤 上村さんは,どうしてそういうふうにできたんですか?

上村 どうだったかなぁ。たぶん本能(笑)。この人とうまくやらないと無理だろう,と。でも,その時は師長にも相談しましたよ。「駄目だったら,師長に言えばいいや」とも思っていました。師長がドンと構えていてくれたから,私ものびのびやらせてもらえたんだと思っています。

医師とのかかわり

武藤 病院では医師をはじめとする他職種との連携においても,コミュニケーションの問題があると思いますがいかがでしょうか。

荒川 主任会議であがる先生の名前って,だいたい決まっていますよね(笑)。看護師の意見を聞かなかったり,すぐにキレてしまう先生ですね。

武藤 そういう医師には,どう対応されるんですか?

上村 「この先生に言ってくれ」と相談を受けた時には,とりあえずタイミングを見て「ちょっといいですか」と話しに行きますが,あんまりうまくいきませんね(笑)。医師は他人から注意されることに慣れていないのかもしれないです。「看護師に言われたくない」というのもあるのかもしれない。

岡崎 プライドがあるからね。

荒川 私たちに言われたくないだけで,本人もたいていは,うまくいっていないってわかっているんですよね。でも,医師がそう思っていても,スタッフには伝わってないから,悪いイメージだけが残ってしまうんですよ。そうすると,言わなきゃいけないこともお互い言えなくなって,悪循環になってしまいます。

 そういう時は,スタッフがいる前で,少し冗談っぽく「もう! 先生は…」みたいな感じで言うこともあります。先生のプライドはともかく(笑),スタッフを納得させるためですね。

■理想の看護管理者の在り方とは?

「放任師長」の問題

武藤 さて,こうした病院独特の人間関係を調整する役割が看護管理者であると思います。荒川さんはずっと主任を務めてこられたわけですが,主任独特の悩みというのはありますか?

荒川 私は主任として今まで3人の師長と一緒にやってきたんですが,2人目の師長の時に,きつい思いをしました。師長間の引き継ぎがうまくいかなかったこともあって,主任である私が,本来師長がやるべき業務を多く引き受けることになってしまったんです。

 私も,最初は「これは主任の仕事じゃない」と思ったりしたんですが,そのうちに感覚がおかしくなってきて,それをやることが当たり前のようになってしまい,ものすごくストレスをためてしまうようになりました。

武藤 そのことについて,師長に直接文句は言わなかったのですか?

荒川 その師長は客観的にはすごく穏和で,いい人なんですが,言わなきゃいけないことを言わない人でした。だから要望を伝えても,「そうね,そうね」「わかるわ」みたいな感じで実質を伴わなかったんです。

 本当にいろんな仕事を任されるようになってしまったんですが,私が「もう駄目だ」と思ったのは,新人教育を任されてしまった時でした。新人の1人が辞めたいと言い出した時ですら,その対応が私に来てしまって,パンクしてしまいました。

 結局,3人目の師長に変わった時に新しい師長から「あなたのやっていることは師長の仕事で,あなたの仕事じゃありませんよ」と言われて,初めて目が覚めたという感じでした。言われないとわからないくらいに,自分の役割を見失っていたんですね。主任としての本来の役割を取り戻すまでに1年近くかかりました。その時が精神的にすごくきつかったです。

「任せて待てる」

武藤 主任からみた,理想の師長像というのはありますか。

荒川 揺れてもいいから,自分の意見を持っていること。あとは,いかに「任せて待てる」かでしょうか。本当は師長自ら動いたほうが早いのだけれど,部下が動くのを待つ,その度量がある人がいいなあと思います。それぞれの役割の人に仕事を割り振って任せるということですね。

武藤 なるほど,「待てる」ということが大切なんですね。上村さんの理想の師長像は?

上村 同じですね。普段は責任者として全体を見ているだけで手は出さない。けれど,何か困ったことがあった時にはすぐに出てきて,「私はこっちをやるから,そっちをやって」と現場を調整してくれるというのがいいですね。待てる,というのもその通りで,スタッフを信頼して任せるのには,力と度量が必要だと思います。

荒川 待つといっても何もしないということではなく,見ていてくれているというのがポイントなんです。先ほどお話しした師長は任せっきりでしたが,あれはただの無責任です(笑)。

武藤 岡崎さんは師長としていかがでしょうか?

岡崎 患者さんの状態はもちろん,スタッフが何をしているかも把握していますが,私もやはり手は出しません。任せないと病棟が動かないですからね。また,手を出すとしても,必ず「ここはどうなってるの?」と本人に確認させることが大切です。1人ひとりが責任感を持って対処できるようにならなくてはいけませんからね。

筋の通った勤務表を

武藤 師長の仕事の1つに勤務表を作ることがありますが,あれは職場の人間関係の縮図のような側面があって大変じゃないですか?

岡崎 大変ですが,私の場合,基本的には人手が足りないことからくるストレスだけですね。人の相性とか日勤,当直のバランスのことで頭を悩ますことはありますが,人数さえいれば,かなり楽になるだろうと思います。

武藤 絶対数として少ないから,なんとかやりくりするということですね。荒川さんは,主任の立場として,勤務表について思うところはありますか?

荒川 主任はできあがった勤務表をチェックするんですが,その時に思うのは,スタッフの希望に対して,「駄目なものは駄目」と態度がはっきりしている師長よりも,希望をすべて聞き入れようとする師長のほうがスタッフの評判が悪いということです。

武藤 どういうことでしょう?

荒川 例えば第一希望から第三希望まで聞いた時,「第一希望は絶対に通しますが,第二,第三はもしかしたら通らないかもしれませんよ」という姿勢をしっかり持っていると,みんなとりあえず「第一希望が通ればいいか」と思うんです。結果的には第三くらいまで通ることも多いから,「ラッキー」と思ってくれます。

 一方で,すべての希望を受けてしまう師長の場合,希望は反映されても結果的に必要な会議が設定できなかったり,人のバランスが無茶苦茶になってしまうことが多いんです。師長としては,「希望を通してあげたのに」と言いたいのかもしれませんが,現場のスタッフが求めているのは,もっと筋の通った勤務表を作ってほしいということなんです。

 少なくとも,1人ひとりの希望を通した結果,少ない人数で無理して働いたり,大事な会議の時間を削ったりということは誰も望んでいません。むしろ,「出席する会議のある日は休みの希望を出さないように」というぐらい,はっきりした姿勢を持っている師長さんのほうがスタッフからの不満は出ないと思います。

■「思い通りにならないこと」を乗り切る

看護師に向いていない……?

武藤 私は医療現場以外にも,これまでいろいろな事業所を見てきましたが,「この人はこの仕事に向いていないんじゃないか」と感じる人がどこの職場にも必ずいます。皆さんは「こういうタイプの人は看護師を辞めたほうがいいんじゃないか」と思うことはありますか?

荒川 看護師としての能力というより,人としてコミュニケーションが取れない人は困りますね。そういう人は,スタッフ間のコミュニケーションということだけではなく,患者さんの変化に対する洞察力にも欠けるように思います。また,自己評価も低くて自信も持てないし,ほめて伸ばす,ということもできない。年々,そういう人が増えている気はします。

岡崎 自己評価がうまくできないんですよね。頭はいいし,知識もあるから,「私はできる」と思っている。でもちょっとしたことで自信を失ってしまったりするんです。

上村 周囲は,ほめてみよう,厳しくしてみよう,人を替えて働きかけてみようといろいろなアプローチをしてみるけどどうしても駄目,っていうことはありますよね。

武藤 自己評価が慢性的に低いということで,もしかすると一種のうつ状態という方もいらっしゃるのかもしれませんね。私が面談する中で感じるのは,職場のうつにも2パターンあるということです。1つは職場で何かトラブルがあって,そのことが原因で沈み込んでいる人。これは2-3か月で元気になっていきます。もう1つは,昔いじめられた,受け入れてもらえなかったといった傷つき体験が,職場でのストレスで顔を出してきたというパターンで,これはなかなか抜け出せないケースが多いです。 うつのスタッフを支えるには

上村 そういう状態に陥った人にどう声をかければいいのか,ということにいつも悩むんです。私たちはそういうトレーニングは受けていませんから。

武藤 もし師長や主任,あるいは上村さんのようなリスクマネジャーの立場の方が,本気でそういう人を育成しようとするなら,相当の覚悟が必要でしょう。実際には時間や余裕という面から,おそらく難しいのではないかと思います。

 こういう問題は,師長・主任の本来業務から離れた性質を持っていると思います。だから,病院によってはメンターといわれる人がラインから外れて,そうした人のサポートをして,辞めていくのを防いだり,組織の中でやっていけるような仕事をされているところもありますね。

上村 相談されても,結局「そっか。じゃあまた,今度ご飯を食べに行こうよ」ぐらいしか言えなかったりして(笑)。でも,それで「聞いてもらってよかったです」と言ってもらえれば,よかったのかな,とも思うのですが。

荒川 相談する人って,言うだけでいいのか,解決を求めているのか,どっちなんでしょうね?

武藤 両方あると思いますね。つまり,もちろん解決は求めているのですが,本人も「どうにもならない」ということは薄々わかっているんです。ですから,そうした矛盾した状況に対して「どうにもならないことだよね。よくやりくりしてるね」と承認が得られることで「わかってもらえた」と救われる部分はあると思います。

 ですから,まずは理解してあげることがすごく重要だと思います。その上で,テクニックとしては「そうやってしんどい時に,どうやって乗り切ってきたの?」「どうしたらいいと考えたことあった?」といった,その人の中に解決のヒントや答えがあるような質問の仕方があります。リスクマネジャーや,管理者の方は,覚えておくといいかもしれません。

 いずれにしても,過去のストレスを乗り越えて来た人というのは心理職にしても,看護職にしても,すごく向いているとは思います。ただ,現在進行形で問題を抱えている部下をサポートするのは,ラインの仕事を抱えている管理者の皆さんにとっては難しいと思います。

ストレス対処の方法

武藤 今お話ししたように,私はストレスというのは「思い通りにならないこと」と考えています。先日刊行された『師長・主任のこんな時どうする!?』も,そういう「思い通りにならないこと」にどう対処していくかについて,ヒントとなればと思っていろんなカウンセリング的手法を書いたのですが,最後に,皆さん自身がいちばんしんどかった時,どうやって自分自身を支えてきたかということを教えてください。

岡崎 私は,病院から一歩外に出たら,看護師ではなく1人の人間だと思うことにしています。病院の外では病院のことは一切考えない。何があっても帰りには「今日は何の料理をしようかな」と考えるんです(笑)。

武藤 嫌なことがあっても,持ち越さないということですか?

岡崎 仕事の嫌なことって……どうだろう? 自分では嫌だと思ってないのかもしれないです。そうじゃなければ,何十年も看護師をやってないですよ。何か,相当大きなミスでもあれば違うと思いますが,最初にお話ししたスタッフのことにしたって,普段聞こえてくる陰口にしたって,「師長なんて,そんなもんだよ」と思っていますし,一歩外に出たら,私は看護師である前に1人の人間ですからね。

武藤 すごい! そう思える,ということはすばらしいことですよ。荒川さんはいかがですか。

荒川 主任になってからは,家に帰ってから「あの言い方はどうだったかな」といったことで悩むようにはなりました。ただ,基本的にその場で解決したいタイプなんですよ。周りとしては迷惑だと思うんですが,何かあると,周囲の人に「あれでよかった?」って聞いてしまいます。当の本人にも「私,ああいう言い方したけど,大丈夫?」みたいに聞いてしまうんです。それですっきり解決とはいかないですが,とりあえず処理してしまうんです。

武藤 それができるというのは,普段からコミュニケーションが取れているということですよね。上村さんはどうですか。

上村 今は,人に言って発散させているところがあるかな。信頼できる先輩とか,ぜんぜん職種の違う人とかです。解決策を求めず,とにかく言ってしまえばすっきりしますから。

荒川 わかる。「ちょっと聞いてよ!」と飲みに誘っておきながら,そのことはぜんぜん喋らないんですよね(笑)。

武藤 厚生労働省の調査だと,職場・仕事がストレスだと感じている人が,10人中6人いると言います。一方で,10人中4人はそんなふうに感じていない。その人たちは趣味だったり,サポートしてくれる人,あるいは話を聞いてくれる上司がいるんじゃないかということが言われています。

 今日は看護師の悩みをテーマに,いろんなお話をうかがうことができましたが,ストレス対処の基本は変わらないと思います。うまくストレスに対処する術をそれぞれ見つけていただき,それができない時には私どもにご相談いただければと思います(笑)。本日はありがとうございました。


武藤清栄氏
東京メンタルヘルス・アカデミー所長。臨床心理士。日本精神保健社会学会副会長。国立公衆衛生院衛生教育学科卒。心とからだの相談センター主任カウンセラー,サンシャイン医学教育研究所カウンセラー(医学生のカウンセリング),医療法人梨香会秋元病院精神科心理療法担当を経て現職。著書に,『師長・主任のこんな時どうする!?』(医学書院),『職場のメンタルヘルスQ&A』(日本法令)ほか多数。