医学界新聞

 

「“いのち”に向きあう看護」をテーマに

第25回日本看護科学学会開催


 さる2005年11月18-19日,第25回日本看護科学学会が,新道幸惠会長(青森県立保健大学長)のもと,青森市文化会館・ホテル青森にて開催された。メインテーマは「“いのち”に向きあう看護-ヒューマンケアにおける看護科学の挑戦」。今日の看護に影響を与えている社会の諸問題に着目し,今後,看護がいかに社会的使命を果たしていくか,幅広く議論された。


“いのち”への視座

 会長講演「看護における“いのち”への視座-“命を育む母”への看護のまなざし」の冒頭で新道氏は「世界各地において人の命があまりに軽んじられる出来事が多発している」ことに憂慮の念を示しながら問題提起をしたうえで,F.ナイチンゲールの“いのち”への視座や,ライフワークとしてきた母性形成をめぐる研究成果から「命を育む母」への看護の視座,「母」を育む看護という視点を整理。さまざまな“命”の様相に向き合って実績を上げてきた看護には,“いのち”の尊さを社会にアピールする責務があり,その社会的使命を果たすことがこれからの時代に求められる活動であることを,参加者にあたたかなまなざしを向けながら語りかけた。

 招聘講演では,生命の創造に関わる看護の新しい分野として遺伝看護が取り上げられ,米国のNational Human Genome Research Instituteに所属する看護研究者のDale H. Lea氏が,米国から国際的に広がる遺伝看護の研究と実践の展開を示しながら,看護が遺伝研究全般において関与する領域を広げてきたプロセスと方略を具体的に紹介。今後の医療においては,すべてのナースが遺伝学の知識を持つ必要があることを指摘した。

社会的問題と看護

 今回の学会では,遺伝看護にとどまらず,今日の看護に影響を与えているさまざまな動きに注目し,その現象をどのように捉え,今後も看護が社会的使命を果たしながらよりよい方向へ進むためにはどのようなことが必要であるかが真摯に議論された点も特徴的であったといえる。社会に大きな影響を与える大規模な天災や事故が国内外で続く中,「災害と人々の健康と看護」を取り上げた教育講演(山本あい子氏・兵庫県立大),「産官学連携研究と地域貢献」や「いのちを支える先駆的看護実践」をテーマにしたシンポジウムでは,先駆的な実践をそれぞれ報告しながら今後の方向性が議論された。

 2005年4月から全面施行となった個人情報保護法をめぐっては,シンポジウムだけでなく交流集会においても,「学生が書いた実習記録を実習終了後はどのように扱うか」といった具体的な事例に対してさまざまな見解が示されるなど活発な議論がなされ,「プライバシーについて考え直すよい機会ではないか」との意見が目立った。

感銘深かった市民フォーラム

 「いのちを看まもる」というテーマのもとに3時間にわたって開催された市民フォーラムでは,第1部が「いのちに向きあう看護」として,臨床看護に長年携わってきた川島みどり氏(日赤看護大)と「あたたかい病院づくり」に奔走しつつ倒れた遠藤周作氏(作家)の未亡人である遠藤順子氏が対談。2人の実体験を踏まえてのやりとりには,涙を浮かべながら共感する参加者も多く,聴衆に深い感銘を与えた。

 第2部のパネルディスカッション「いのちを看まもる看護」では,辻本好子氏(NPO法人ささえあい医療人権センターCOML),中村惠子氏(青森県立保健大),押川真喜子氏(聖路加国際病院)の3演者が,それぞれ患者代表,救急現場に携わった看護職,訪問看護の実践者という立場から登壇。今日の医療におけるさまざまな問題点を,実体験として披露した。

 最後に会場から追加発言した川島氏は,電子カルテ・入院期間の短縮化・医療安全へのプレッシャーの3つが,今日の看護師のおかれた状況をいかに過酷なものにしているかを指摘したうえで,「看護現場の同時多発テロ」という言葉で表現し,「いのちを看まもる」看護の実現を困難とさせている臨床の現状を訴えた。

新人看護師の離職を議論

 学術集会の全プログラム終了後は,「ストップ・ザ・離職-看護系学会が貢献できること」と題する日本看護系学会協議会主催のシンポジウムが,ホテル青森にて引き続き行われた。嶋森好子(日本看護管理学会),中村惠子(日本救急看護学会),舟島なをみ(日本看護教育学学会),野末聖香(日本看護科学学会)の各氏がそれぞれの学会を代表して,日本看護系学会協議会理事の小山眞理子(神奈川県立保健福祉大)・山口桂子(愛知県立看護大)両氏の司会のもと,今日の看護界で最も喫緊の課題ともいえる新人看護師の早期離職の問題が議論された。

 なお,第26回の同学会は,2006年12月2-3日に,阿曽洋子会長(阪大)のもと,神戸国際展示場・会議場にて開催される。(新道会長の写真は東奥日報社提供)