医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 書評・新刊案内


看護医学電子辞書

《評 者》川島 みどり(日赤看護大教授・成人看護学)

看護医学電子辞書との2か月

 私にとって,辞書のない生活は考えることができない。ふだんの会話の中でも一寸曖昧なことがあると,できるだけ早く正しい意味を明らかにしようとする努力をしてきた。

 ごく日常的に用いている言葉でさえ,辞書や事典を引くと,その言葉の多義性やルーツを知ることができ,ずいぶん得をした気持ちにさえなる。そこで,目下使用中のパソコンにも複数の百科事典を始め数十種類の辞書を搭載しているのだが,書斎や研究室で座って仕事のできる時間帯はごくわずかな現在,活用する機会は残念ながら限られてしまっている。

 執筆や講演などに関する資料など,ほとんどが移動中に読むことになるので,ふと生じた疑問を明らかにしようと,携帯用の小さな電子辞書もこれまで1度ならず求めた。しかし,単なる用語の説明だけであったり,医学用語に関する辞書は入っていても,看護独自の探索ができず不自由を感じていた。

 そんな時出会ったのが,この「看護医学電子辞書」である。専門的なことはよくわからないが,収録から販売までを出版社が行うというOEMという方式であるという。看護師や看護学生を対象にして,医学書院から販売された。『看護大事典』を始め,医学書院の書籍が6冊,語学系書籍7冊が搭載されている。とりあえず使ってみようと,とくに説明も受けずに,手当たり次第にメニューから色々な使い方を試してみたが,なるほど,知りたいことがただちに明らかになり,しかも色々な使い方ができておもしろそうである。

 そこで,雑誌等の広告頁に掲載されているこの辞書の,「電子辞書ならではの便利な機能」に上げられている項目に沿って,キーボードを動かしてみながら,それらの機能をあれこれ使ってみた。気に入ったのはスーパージャンプ機能である。収録されている辞書を横断的に検索できる他,出てきた難しい単語をその場ですぐに他の辞書から探ることができる。これは,活用次第で色々な学習ができるので,学生や新人看護師らの役に立つのではないだろうか。1つの索引からいくらでも知識の拡大が図れるというものである。

 活字の大きさが調節できるのも,老眼にとっては嬉しい限りで,この頃は,とくに目的がなくとも,車中で読書代わりに分野別小辞典をひもときながら,新しい知識を得る喜びを実感したり,薄れかけた記憶をリフレッシュさせている。

 こうして,今では,会議中にも原稿執筆中にも,この辞書は,私の必需のグッズになっている。帰宅してからメモしておきたいと思うような内容は,辞書にある機能を使って単語帳にその場で登録しておく。すぐに取り出せるので便利である。だが,いまだ本格的に使いこなしているわけではない。未使用の機能をこれからどのように使うかが課題である。さしずめ次のステップは,20メガバイトもある空き容量への追記であり,その内容の選択に迷いながら楽しんでいる。

 根拠に基づいた実践を行うためにも,わからないことは,できるだけ早く確かめる習慣を身につけるためにも,このハンディな軽い辞書はきっと役に立つだろう。

電子辞書 価格49,140円(税5%込)医学書院


『患者安全のシステムを創る
-米国JCAHO推奨のノウハウ』

相馬 孝博 監訳

《評 者》井部 俊子(聖路加看護大学長)

病院管理者をはじめとする,
患者安全にかかわるすべての医療スタッフに

 本書は,米国における医療安全の確保においてJCAHO(Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations;医療施設認定合同審査会)がどのようにとり組んできたかを説明し,医師が医療安全システムの重要な構成要素であるとして,2002年に認定プロセスに特に医師を引き込むための計画書を2002年に発表したことを報告し,続いて6つの警鐘事象を取り上げ,医師の役割の重要性を説明している。

 本書の中で,現在,JCAHO認定の必要要件の約50%は医療の安全に関するものであり,病院を認定するプロセスの中心は,病院のリスクを削減する取り組みであると述べている。2002年10月に発表した「展望の共有-新しい道」という計画書は,認定プロセス改善事業から抽出されたものであり,医師を病院認定プロセスに引き込み,安全で質の高い医療提供のために医師を援助することによって,認定に対する医師の関心を高める戦略を進め,医師との面接を行っていることを紹介している。

 本書は,医療の安全確保において医師,看護師,薬剤師,技師などの協働やチームワークが重要としたうえで,「医師の役割」に焦点をあてている。具体的にチームリーダーとして医師が直接かかわるシステム不全や事故の予防戦略について6つの警鐘事象を詳述している。それらは,(1)術中・術後のエラーと合併症,(2)部位のまちがい,患者のまちがい,手技のまちがいによる手術,(3)誤薬,(4)治療の遅れ,(5)抑制による重篤な傷害や死亡,(6)自殺である。

 1995年からJCAHOは合計1650件の警鐘事象を検討しているが,その第1位は「自殺」(17.1%)であり,以下,「術中・術後合併症」(12.2%),誤薬(11.5%),部位まちがいの手術(11.2%)が上位を占めている。そして,治療の遅れ(5.3%),転倒・転落(5.0%)が次に続く。発生場所は,一般病院が62.6%を占め精神病院が13.6%であった。

 各警鐘事象について根本原因が同定されており,共通要因は,オリエンテーションと研修,コミュニケーション,施設で決められた手順の遵守,職員の配置と能力,アセスメント,能力査定と資格認定,監督管理などである。6つの警鐘事象ごとに「事例」が記述されていて臨場感をもたらしている。

 原題である“The Physician's Promise:Protecting Patients from Harm”が示しているように,本書は患者を危害から守る「医師の約束」の表明であり,医師の関心を喚起しているが,病院管理者をはじめとする多くの関係者にとって示唆に富むものである。さらに,わが国の日本医療機能評価機構(JCQHC)とのベンチマーキングの実現可能性を含んでおり,刺激的である。

B5・頁224 定価3,990円(税5%込)医学書院