医学界新聞

 

チームで育てる新人ナース

がんばれノート
国立がんセンター東病院7A病棟

[第16回(最終回)]3月はゴールじゃない!!
主な登場人物 ●大久保千智(新人ナース)
●末松あずさ(3年目ナース。大久保のプリセプター)


前回よりつづく

 右も左もわからない新人が悩みや不安を書き込み,プリセプターや先輩ナースたちがそれに答える「がんばれノート」。国立がんセンター東病院7A病棟では,数年前から,新人1人ひとりにそんなノートを配布し,ナースステーションに常備しています。

 いよいよ3月を迎えました。1年間の集大成です。そしてプリセプターにとっても大きな1年間のしめくくりを迎えます。1年目として,プリセプターとして,それぞれがこの1年間を振り返り,思いをノートに綴ります。このノートも終わりです。でもこれはゴールではなく新しいスタートなのです。


今回の登場人物
大久保千智,末松あずさ,四方田恵(5年目,末松のプリセプター)。

3/21 ●末松
 この1年間どうでしたか? 私は3年目になり,大久保さんに出会い,プリセプターという役をおおせつかっていろいろあったけど,実りの多い1年になったと思います。大久保さんと出会えたこと,本当に感謝しています。どうもありがとう。私も初めは大久保さんへの関わり方,自分のあり方に悩み,葛藤していたので,厳しく接していたことしか記憶にありません……ごめんね。

 ともかく,1年目に学んだことが,表れてくるのは2年目以降だと思います。1年目はみんなの目が向いている分,否応なしに成長を促され,ほぼ同じような足並みで1年間を終えます。だから,この1年で何を学び,何を感じたかの結果は来年,みんなの目が少し離れた2年目から表れてくると思うんです。

 地道にでも努力していればそれは必ず力となって支えてくれるだろうし,「まぁいいや~」と手を抜いていれば,独り立ちした時に自分の知識や技術を裏打ちするものがないことに気づくでしょう。そういった意味で,私は2年目の大久保さんたちから目を離せないと思っているし,楽しみだなぁとも思っています。2年目教育として引き続き(うんざりだと思いますが)フォローしていくことになります。これからは自分たちで課題をみつけ,自分たちで学習してもらうこと,あとは自分の「看護」を見出してもらえるようにしていきたいなぁ,と思っています。

 「頑張っているのによい仕事ができない」って悩む気持ち,理解できます。私も自己評価は厳しくしてしまうほう(Mなので)なので,理想と現実にジレンマを感じたり,何につけても肩を落とし,「本当この仕事むいてねぇなぁ」なんてしょっちゅうです。自己満足ではいけないけれど,自分のよいところを認めるって自分を知るうえでも大切なことだと思います。また近いうち,来年の目標を考えましょうね。

 少し早いけど1年間お疲れ様。信頼して患者様を任せられる,こういう時には大久保さんだったらやってくれるかもしれない,と思えるチームの一員に育ってくれたこと,とても感謝しています。

 私にとってプリセプターである四方田さんはかけがえのない存在であり,今でも近づこうにも近づけない大きな大きな存在です。今の私がいるのは四方田さんのおかげだし,私を造っているのはワインでもなく(これは川島なお美)チョコでもなく四方田さんの言葉や動きの1つ1つです。そんな存在になるには生半可な努力ではムリだけれど,大久保さんに「こいつがプリセプターだったなんてはずかしくて人様に言えやしない」と思われないよう頑張ります。来年もよろしく。

3/28 ●大久保
 このノートもあと3日で終わってしまうんだと思うとなんだか1人ぼっちになってしまうようなさみしい気がします。1年を振り返ると本当にあっという間で,でも1つひとつの処置,検査の介助,勉強など,患者様を思い出すととても長かったと思います。

 1年経つのに何がどれくらい成長したのか,本当に1年前の自分と違うのか,判断できませんでした。それを先輩に話したら,「三方活栓の使い方を知っただけでも成長だよ」と返してもらった時,とても嬉しかったです。小さい成長が来年度はもう少し大きい成長へ,そしてまたもう少し大きく……と続いていけばいいんだな,と。1年目の3月はゴールじゃないんだということに気づきました。

 今でもドキドキする場面はたくさんあります。情けなくなることもありますが,逆に言えば,怖いとか責任感とかもあまり感じていなかった最初の頃を思い出すと,それだけでもこの1年,やってきてよかったと思います。

 先輩ナースの皆さんはもちろん,迷惑をかけてしまっても質問すると教えてくれるDrや心の支えのクラークさん,助手さんなど,本当にたくさんの方たちがこの1年間一緒にいて支えてくれたんだなと心から感謝しています。もちろん患者様たちにも感謝です。

 たくさんの温かい人と接しながら,生命のこと,人間のこと,喜怒哀楽をいくつも感じ,考えることができた1年だったと思います。何より末松さんの指導の1つひとつには本当に感謝です。いろいろなことのきっかけを作ってくれて,自分の時間を削ってまで指導してくれて,私のせいで辛い思いをしたこともたくさんあったはずです。1年間プリセプターでいてくれたことは一生忘れないと思います。末松さんのような先輩がプリセプターでよかったなーって,この1年間で何百回も思いました。これから2年目,3年目とどんどん経験を重ねても,私にとってのプリセプターは末松さんです。

 これからも7Aの1人として一生懸命頑張っていきたいと思います。温かく,厳しく,成長を見守ってください。少し早いですが,1年間本当にありがとうございました。

3/31 ●四方田
 知っていたと思いますが,初記入です。

 実はこのノートスタイルの原型を作ったのは私たちの代なのです(自慢)。なのに1年間記入もせず放ったらかしでごめんなさい。1年経つのは早いものですね。もう次の1年生が来ちゃいます。スクスクとここまで育ってくれて嬉しいかぎりなのですよ。たのもしいと思っています。先のことはわからないけど,可能な限りその成長を見守りたいものです。

 大久保さんはしっかりしていて頭がよい。頭脳とかのことではなく,コミュニケーション能力やセンスといったもののことね。1年生とは思えない,冷静さを内に持っていると感じます。ただ,できのいい子ほど心配なもので,まだあれやこれやと確認したり,つっこんでみたいと思っていますので,2年生になっても容赦はしません。あしからず。

 大久保さんのいいところであり悪いところは頑ななところ。それは,女性として,看護師として,必要なものです。人に言われたままにしか動けない人は不要です。でも,頑なになりすぎてはやっぱりダメ。少しひくことも必要で,患者様との関係にも影響されると思います。他はAll OK! 2年目になる前にぜひ伝えたかったことなので書きました。

 大久保さん! 7Aに来てくれてありがとう! そして大久保さんを立派に育てた末松さんに感謝。誰よりも大切に大久保さんのことを思い,誰よりも1番大久保さんのことを考えた時間の長い末松さんのこと大切にしてね。明日からは一緒に次の1年生を育てていきましょうね。

末松 この1年間を通じて1番感じたことは,プリセプター・プリセプティの関係を通じて本当に成長させられるのは,プリセプター自身だということでした。大久保さんを通して自分をみつめ,自分の感性・価値観・技術・知識,あらゆるものを見直しました。そして人と人が関わっていくことについて深く考えました。この1年を通じて本当に自分自身の幅が広がったと思います。私をプリセプターとして慕ってくれた大久保さん,私を育ててくれた全スタッフに言葉では言い尽くせない感謝の気持ちでいっぱいです。

大久保 人と関わる仕事がしたいと思い,選んだ看護師という仕事。看護師1年目を7A病棟で過ごせたことを心から感謝しています。ナースとして,人間として,素敵な先輩に囲まれ,考えていた以上に人の温かさを学ぶことができました。私は今年,7Aでプリセプターになり,末松さんのこと,先輩ナースのことがますます好きになりました。ひとりの新人ナースが,日勤業務ができるようになり,夜勤を任されるようになり,仕事が楽しいと思えるようになるのにはたくさんの周囲の熱いサポートと愛情が必要だとわかりました。7Aで私は本当に温かく育ててもらいました。感謝してもしきれないこの気持ちを,次は私が7Aに恩返ししたいと思います。もちろんこれからも末松さんや先輩のアドバイスをもらいながらですが。

 最後に,連載をいつも応援してくれた鈴木先生,川崎さん,四方田さん,末松さん,そして7Aのスタッフの皆様に感謝いたします。

国立がんセンター東病院のプリセプター制度の詳細は,弊社刊行の『はじめてのプリセプター 新人とともに学ぶ12か月』(川島みどり,陣田泰子編集)において紹介されています。はじめてプリセプターとなる2-3年目看護師はもちろん,この春新人を迎える看護管理者の皆さんにもお勧めの一冊です。

(弊紙編集室)


病棟紹介
国立がんセンター東病院7A病棟は,病床数50床,上腹部外科・肝胆膵内科・内視鏡内科の領域を担当している。病床利用率は常に100%に近く,平日は毎日2-3件の手術,抗がん剤治療・放射線治療,腹部血管造影・生検・エタノール注入などが入る。終末期の患者に対する疼痛コントロールなど,新人にとっては右を見ても左を見ても,学生時代にかかわることがない治療・処置ばかりの現場である。