医学界新聞

 

(内科臨床誌『medicina』1-2月号 シリーズ「しりあす・とーく」鼎談より)

初期研修から後期研修へ
 ――医師研修の「はざま」を語る


吉津みさき氏
河北総合病院
臨床研修アドバイザー
陳 若富氏=司会
国立病院機構大阪医療センター循環器科医長,同機構近畿ブロック事務所医療課長
岩田健太郎氏
亀田総合病院
総合診療感染症科部長


 研修医向けの内科臨床誌『medicina』1月号では,初期・後期両方の研修に深くかかわる3人の内科医が,初期と後期の「はざま」に垣間見える日本の医師研修の問題点とその解決法を語っている。

 本号では,この座談会で議論された内容を,話題ごとに一部抜粋して紹介する。座談会の全文は『medicina』第43巻1-2号(2006年1月および2月発行)を参照されたい。


 新しい臨床研修制度が始まり,その修了生が来年から後期研修に出るということで,いま,後期研修が非常に注目を集めています。本日は,先進的な取り組みをされている研修施設の気鋭の先生方にお集まりいただき,過渡期にある日本における医師研修の問題点を考えてみたいと思います。

【TOPICS】
マッチングの是非

岩田 いま,アメリカで議論されているのは,<中略>最終学年の4年生は就職活動のためにほとんどの時間を費やすことになってしまい,学生の本分である学業は何もしていない。就職活動というか,マーケティング活動ばかりをすることになってしまっているわけです。

 病院実習に行って,1週間か2週間,自分のいいところを見せて,売り込むということに,1年間のほとんどを費やして,あとはUSMLE(米国医師国家試験)をパスする。だから,試験勉強とマーケティングだけの1年間になってしまっていて,それは非常によくないというので,米国内では批判的に見られてきているのです。

 日本は,<中略>アメリカでobsolete(時代遅れ)になったものにやっと飛びついた。<中略>10年経ったらおそらく同じ問題が出てきて,「やめときゃよかったんじゃないか」と言い出す人が,きっと出てくると思います。

【TOPICS】
初期研修の問題点

岩田 いちばん根本的な問題は,初期研修に対する,指導医,行政,研修医の期待するところのものが,合致していない点だと思います。初期研修医に何を求めているのかがはっきりしていない。そしてともすれば初期研修が修了するまでの2年間で何らかの成果を求めすぎることです。

 医師というのは,一生勉強し,一生成長し続けていくべきもの――少なくとも理想的には―─なので,その30─40年のキャリアプランの中のたった2年間にすぎないわけです。ですから,その2年間でできなかったことがあったとしても,それはあたり前のことです。<中略>なぜ,足りないことに罪悪感を感じさせるような雰囲気があるのか,すごくおかしいと思います。

吉津 おっしゃるとおりだと思います。初期の2年間は,医師としての色づけをするというか,根本をつくるところだと思います。ただし,後期臨床研修では,ある程度基礎的な学力のついている人を取りたいと思っている病院がほとんどのような気がするんですね。そうすると,1年生,2年生の研修医が焦るのは,当然だという気もします。

【TOPICS】
初期研修と後期研修の「すき間」

岩田 初期研修と後期研修の間にある“すき間”はすごく感じます。私も,後期研修プログラムを立ち上げて,いま,感染症のフェローの採用をしています。<中略>初期研修が終わった段階でインタビューに来た人で,採用されそうな人はゼロです。やはり,その段階では感染症のフェローとして雇うには足りないと思います。<中略>

 初期研修修了段階では経験が足りないということでしょうか?

岩田 何か欠落している。<中略>これからプロフェッショナルとしてのトレーニングをする後期研修と,作法を磨くための初期研修のすき間というのは,何かで埋めないとまずいのではないかと,漠然と感じます。

吉津 おそらく後期で望まれているものと,初期研修の到達度のあいだに,どうしてもいくつか“すき間”といわれるものができてしまうのでしょう。それを補う意味で,われわれのところでは臨床強化研修を設けています。この研修は内科に特化して1年間ぐらいの研修を行うものなのですが,そのすき間を埋める研修にしていければと思っています。

【TOPICS】
研修の質と指導医

 日本の医師研修における研修の質という点から何か問題点があれば,お話しいただきたいと思います。

岩田 教わる側がだんだん優秀になっているのに,教える側がそれについていってないと思います。

 やはり,指導医というところに尽きますよね。

岩田 指導医の力量があまりに不十分だということ。それが,根本的な問題だと思います。トレーニングを全く受けていない人が,さあ教えろといわれても,教えられるものではないです。やはり,指導医として失格だったり,人間的にも尊敬できなかったりする人が教えても,ロールモデルとしての機能を果たせませんから,それは,時間をかけて直していくしかないでしょうね。沖縄県立中部病院では,指導は仕事の一部であるということが病院の隅々まで伝わっています。「研修医が診ると,仕事が遅くなって困る」というような苦情が看護師から出る雰囲気すらありません。これがあたり前の姿なのだというところまでいくには,やはり時間が必要です。そして,これについては,特効薬はないと思います。

【TOPICS】
指導医の養成

岩田 ほんとうは指導医になるにも,ファカルティ・ディベロップメント(教育者の育成)ということで,何年間かのトレーニングが必要だと思います。<中略>

吉津 ただ,(指導医研修会を受けることによって)意識がすこしでも変わるだけで,指導医の先生方は工夫しながらやっていってくださっていると思っています。単発の講習会だけでなく,継続的なファカルティ・ディベロップメントができるような環境をつくる必要があるのでしょう。

 短期間の研修会で受けたことは現場では生かしにくいかもしれません。現場に帰ると,また現実に流されて,なかなか使いこなせない人が多いのだと思います。

岩田 運転免許の更新と一緒で,知識は得られるんですが,スキルとか,ビヘイヴィアというのは繰り返し,反復訓練していかないと身につきません。いきなり「ロールモデルになりましょう」と言ってもなれるわけではありません(笑)。<中略>だから,「指導医認定証」をもらってティーチャーになりましたということと,ティーチャーであるということとは,まったく別問題だとして考えるしかありません。やはり大切なのはオン・ザ・ジョブ・ラーニングで,職場でだんだん指導医になっていくということです。そうすると,最低誰か1人はロールモデルがいて,彼/彼女を目標にして,「あんなふうになりたい」という雰囲気,また,指導医であることは素晴らしいことなんだという雰囲気がつくられていきます。これがいちばん現実的な方法ではないでしょうか。

以上,『medicina』1月号掲載の鼎談前編より抜粋。同誌2月号掲載の後編では,後期研修の話題を展開する。


陳若富氏
1984年徳島大卒。済生会富田林病院内科で研修,国立大阪病院(現大阪医療センター)循環器科レジデントを経て現職。国立病院機構近畿ブロック事務所医療課長として全国最大規模となる国立病院機構の後期臨床研修制度の立ち上げに積極的に関与。NPO法人日中医療技術交流会理事長として,中国との医療交流を実施中。

岩田健太郎氏
1997年島根医大卒。沖縄県立中部病院,セントルークスルーズベルト病院,ベスイスラエル・メディカルセンター,北京インターナショナルSOSクリニックを経て2004年より亀田総合病院。著書に『抗菌薬の考え方,使い方』(中外医学社),『感染症外来の事件簿』(医学書院,近刊)など。

吉津みさき氏
1994年筑波大医学専門学群卒。河北総合病院にて2年間の初期臨床研修ののち,循環器内科に所属。2001年現職に就く。臨床研修委員会副委員長として研修教育全般にかかわり,よりよい研修体制の確立に力を注いでいる。