医学界新聞

 

【特集】
海外留学のススメ


 医学生,研修医の皆さん,あけましておめでとうございます。新しい年がスタートし,「今年こそは」と目標に向かって走り出した方も多いのではないでしょうか。一度きりの学生・研修医時代,ぜひ今しかできないことにチャレンジしてください。

 そこで今回の医学生・研修医版のテーマは,「海外留学のススメ」。今まで「留学に興味はあるけれど……」と迷っていたあなたへ,留学プログラムをご紹介するとともに,実際に海外へ第一歩を踏み出した人たちの声をお届けします。留学する国や場所は人それぞれですが,今いる場所を離れて初めて,見えてくるものがあるかもしれません。今年は世界に目を向けて,ひとまわり大きい自分をめざしてみませんか。

 体験レポートの項目は(1)-(3)はそれぞれ,(1)留学のきっかけ,(2)現地での体験,(3)留学後の感想です。なお,各体験レポートの末尾には,その留学プログラムの次回実施情報を掲載しておりますので,興味を持たれた方は各プログラムのホームページ,または事務局までお問い合わせください。


財団法人 医学教育振興財団

喜多洋輔(麻生飯塚病院・研修医)


(1)入学前から,将来は日本のみならず海外でも医療に従事することにあこがれていた。チェ・ゲバラを主人公にした「モーターサイクルダイアリーズ」という映画がある。医学生だったゲバラが世界の真実を自身の目で見る目的で,友人と南米縦断バイク旅行に出かけた事実をもとにしており共感した。
 私も世界各国の医療や医学教育の現場を見ることで,日本の医学医療のよい点,悪い点を俯瞰することができるのではないかと思っていた。まわったのは主にアジア,中東,アフリカの国々だったが,やはりこの目で欧米も見てみたいと思った。

 医学教育振興財団の英国短期留学プログラムについては低学年の頃より何人かの方にお話を聞く機会があり,自分も行きたいと思っていた。比較的自由な医学生という立場を利用し,自分を海外で試してみたかった。

 応募してみる段階になると,大学の臨床実習との整合性の問題で,大学側に単位を認定してもらうために根気強く交渉しなくてはならなかったり,IELTSという英語能力検定を受ける必要があったりと,いろいろ困難はあった。しかし,なんとか英国での実習生として採用していただけることが決まった。

 医学教育振興財団の短期留学では,英国各地の複数の大学を実習先として選択するシステムになっている。過去の報告書などを読み,充実していそうなニューキャッスルを希望した。

(2)4週間の滞在で内科,外科,GP(General Practitioner),小児科(感染症&免疫・アレルギー)と1週間ずつの実習を経験した。研修医や若手の医師たちと一緒にラウンドして,病歴や所見などをとってディスカッション(に参加する努力を)した。
 実習ではさまざまなことを学んだが,内科を回っている時にプレゼンテーションの重要性について,ある先生に強調された。働き始めた今,その重要性を再認識している。マクロな面では,英国医療のGPやNHS(英国の国民健康保険)のシステムも興味深く体験できた。医療現場(NHS)のスタッフに多くの外国人が流入していることは知っていたが,実際に見て驚いた。ある日,ふと外来の合間にお茶をしていたら,英国(スコットランド)人のコンサルタント,スペイン人の研修医,パキスタン人,インド人の外科医,そして私たち日本の医学生と,かなり国際色豊かだったのを覚えている。

(3)私は4週間の間,毎日何かを探し,吸収して過ごした。英語の壁は大きく,結局乗り越えることはできなかったが,しがみつくことはできた。日本とは違う医療システムに感心することもあり,疑問を持つこともあり,また改めて日本のよさを知り,さまざまな比較ができたことはすばらしい体験だった。
 そして私がこの留学でいちばん学んだことは,医療というよりは,文化の壮大さだ。英国にはさまざまなナショナリティーがひしめきあっている。英国に住んでいるけれど,各々が独自の文化に誇りと愛を持って生きている。無理に欧米化せず,とり入れるところはとり入れて,という柔軟さがある。それ故の問題も多々あるだろうが私自身はこの自由な世界であるからこそ日本人である喜びと誇りを得ることができた,と思う。自身の国を愛し,そして他国を学ぶ。他者を理解しようとする柔軟な感情がとても大切なのだ。医師になる前に国外の医療を体験できてよかった。自分にとって理想の医師が何であるのか,自分は何ができるのか見つけだすきっかけになったと思う。現在,麻生飯塚病院で同僚として研修している東大出身の岡本君も,同じプログラムで同時期にロンドンに滞在した。2人でプログラムで得た経験をよく話す。そのやりとりは日常の業務の疲労を乗り越える力を強く与えてくれている。

●2006年度実施情報

期間:2007年3月予定(4週間)
場所:ニューキャッスルアポンタイン大学,ロンドン大学セント・ジョージ病院医学校,サウサンプトン大学,他
対象:医学部5年生
定員:受け入れ先大学各4名
締切:2006年10月中旬
連絡先:〒113-0034 東京都文京区湯島1-9-15 茶州ビル7階 財団法人 医学教育振興財団
 TEL(03)3815-3895/FAX(03)3815-3896
 URL=http://www.jmef.or.jp


ピッツバーグ・ジャパンプログラム

斎藤里菜(琉球大学医学部6年生)


(1)私がこのプログラム(1週間のワークショップ)にぜひ参加したいと思ったのは,一昨年から私の大学でも臨床実習に取り入れられたクリニカルクラークシップを本場アメリカで見てみたかったからだ。私の大学では,制度は始まったものの,指導する先生も学生もどう対応してよいのか戸惑っているように思えた。そこでこの制度がすでに定着し機能しているアメリカの実情を確かめたいと思い,1歳の娘をベビーシッターに預け参加を決めた。

(2)現地ではアメリカ卒前,卒後臨床教育の現状をさまざまな角度から体験した。プログラム初日は医学部3年生で一児の母,アシュリーさん宅にホームステイし,アメリカ医学生の日常を体験した。この日は外科実習の初日で,彼女は膵頭十二指腸切除術後Whipple法での再建という手術に参加,私は一部始終を彼女の後ろから観察した。
 初めの数時間は研修医が彼女に器具を持たせて手取り足取り手技を説明していたが,途中で指導医が加わった。指導医が黙々と手術を行っていた時,彼女が「先生,今何をやっているんですか?」と質問した。私も聞きたいことであったが,こんな基本的な質問をして彼女が怒られないか心配した。ところが指導医は手を休めず,手術の内容やその方法を選んだ理由をとても丁寧に説明してくれた。

 驚いたことに,彼に限らずこの病院で会ったどの先生方も,学生の質問に必ず快く答えていた。時間がない時は何時までに教科書のこの部分を予習して私に会いにくればその時に話し合いましょう,という具合だった。

 また,学生が手伝わせてもらえる手技の多さにも驚いた。彼女はまだ外科の教科書も買っていないと言っていたが,実習初日から研修医と手術を行い,学生の彼女が皮膚切開,皮下組織の切開,胆嚢摘出の一部分,内視鏡の操作を行っていた。この日の手術は10時間近くにおよび,帰宅したのは午後10時だった。翌日も朝6時集合なので疲れきっていた私は家に着くなり食事もそこそこに寝てしまったが,実習中に多くの手技を教わり刺激を受けた彼女は,遅くまで教科書に目を通していた。

(3)実習を通して最も印象に残ったのは,クリニカルクラークシップがうまく機能するうえで不可欠の,学生と先生が常に気持ちよくやりとりできる環境だった。そして,その環境を支えているのは学生と先生が双方を厳しく評価する制度だと感じた。これが,指導される側にもする側にもやる気を出させる重要なきっかけになっている。
 一方,私の大学にここまで厳格な評価制度はなく,実習にどれだけ熱心に取り組むかは個人次第だ。このため学生と先生双方でやる気が必ずしもマッチせず,コミュニケーションを難しくしているように思う。この状況を改善するためには,評価制度の確立など制度面での改革も必要だが,まず一学生としては日々自分の積極性をアピールすることが重要だと感じる。

 今まで自分は学生嫌いの怖い先生に遭遇すると萎縮してしまい,他の科でもその経験をひきずり質問できずにいた。帰国後,積極的に質問をするよう心がけた結果,丁寧に答えてくれる先生は予想以上に多かった。今回の実習を通して,自分から積極的に学ぶ姿勢の重要さを再認識したことも,収穫のひとつだった。

●2006年度実施情報

期間:2006年3月19-24日
場所:ピッツバーグ大学医学部
対象:医学部4-6年生,研修医
定員:10名前後
締切:定員になり次第締切
連絡先:ピッツバーグ大学医学部助教授赤津晴子
 URL=http://www.dept-med.pitt.edu/Pitt-Japan/Pittsburgh-Japan.html


米国財団法人 野口医学研究所

梁瀬まや(鹿児島大学医学部6年生)


(1)野口医学研究所の研修プログラムのことは,参加された方々の手記を読んで知った。同研究所の医学生や医師の米国派遣に持つ歴史,渡米した先生方の熱いメッセージに強く惹かれ,応募した。トーマスジェファーソン大学での研修が決まった時は本当に嬉しかった。これまで多くの日本人医師が研修され,ステップアップされていること等が魅力だった。

(2)本プログラムは体系的に,実にさまざまな角度から米国医療を捉えていた。わずか2週間だったが,密度濃く米国医療に触れることができた。
 具体的には,講義,回診,ケースカンファレンス,OSCE,シミュレーション等から成り,その内容は米国医療経済といった総論的なものから,リサーチの手法や臨床医学の実践的なものまで,多岐にわたっていた。また,学生との懇親会や,現地でご活躍の津田武先生,佐藤隆美先生らのお話を伺う機会も得,バラエティに富む日々を過ごすことができた。

 中でも,外傷シミュレーション授業は圧巻だった。機材の備わった部屋で学生は運び込まれたばかりの外傷患者に診察や処置をし,検査オーダー,他科へのコンサルトを行う。結果は随時,電話や,部屋に書類が届く形で返ってくる。

 刻々と変わる状況の中で鑑別を狭め,さらなる救命措置をとる。終了後は隣室の監督教官からフィードバックが厳密な基準と的確さをもって瞬時になされた。外傷患者の扱い方,死に直面する患者への対応の仕方等,さまざまな実践医療の方法論が,実用的に体系化されているのに驚いた。

(3)医師としてのプロ意識を徹底的に討論するセミナー,患者への感情移入にエビデンスを要求する講義等,私は実践面の質を保つための充実した米国臨床医学教育に圧倒された。
 日本でも充実した医学教育を受けることはできる。しかし,膨大な臨床講義を受けた後,文字通り「臨床」に飛び込むしかない私たちが得るフィードバックの度合いは,出会う指導医の個人的意向等,運や偶然に左右されることも多い。これは大学病院が臨床・研究と並び,「教育」を掲げて存在しているとはいえ,すべての医師が教育に情熱を持っているわけではないことを考えれば,仕方ないのだろう。

 同じことは米国でも言えるのかもしれない。だからこそ,ここまで実践面の教育が体系化されているのだろうかと思った。わずかな印象だが,こうした医学生の扱いの差(「見学者扱い」と「即戦力養成」)が,医学生の姿勢を変え,米国と日本の医療を根本的に違うものにしているのかもしれないと感じた。

 現在日本では,実践面をほとんど学ばぬまま卒業し,医師となって「いきなり本番」というのが現状だ。米国同様の充実したTeaching Systemをすぐ構築するのは難しいかもしれない。しかし,いつか日本も,実践医学を,最低限の方法論と技術を共有し,体系立てて学ぶに至れば,すばらしいだろうと思う。

●2007年度実施情報

期間:2007年8月-2009年6月(この期間中に日程調整し決定)
場所:トーマスジェファーソン大学,ハワイ大学,他
対象:医学部6年生,研修医
定員:約30名
締切:2006年11月頃
連絡先:〒105-0001 東京都港区虎ノ門2-7-7 虎ノ門中田ビル3階 米国財団法人 野口医学研究所 日本事務局
 TEL(03)3501-0130/FAX(03)3580-2490
 E-mail:ryugaku@noguchi-net.com
 URL=http://www.noguchi-net.com/


IFMSA‐Japan(国際医学生連盟)

松田典子(神戸大学医学部5年生)


(1)英語の勉強のため,英語圏に短期留学をしたいと常々思っていたが,語学だけでは面白くない,せっかくなら病院見学などできたらおもしろいだろうと考えていた。そんな時,偶然IFMSAの留学制度を利用してマルタに行かれた先輩の話を聞いたのだった。IFMSAのことも,マルタという島国(英語とマルタ語が公用語)のこともその時初めて知ったのだが,その先輩の留学体験があまりにも魅力的で,これだ!と思った。それがきっかけである。
 また,日本の医療はすぐに検査をしたがる傾向にあると聞いていたので,外国ではもっと検査に頼らない診察をしているのだろう,検査技術のあまり発達していなさそうな国の医学を見てみたいと思っていたことからも,マルタはぴったりのように思えた。

(2)私が実習したのはマルタのSt.Luke hospitalの腎臓内科であったが,一般内科も含んでいた。実習は朝8時からチームの回診について行き,時おり先生がする質問に答え,身体所見を取る日々だった。
 外来でも診療を見学しつつ,先生から説明や質問があり,聴診する機会もあった。先生からの質問は「こんな状況の時はどんな検査が必要?」など臨床に即したものが多かったように思う。また,現地の最終学年の学生も一緒に回っていたのだが,積極的に所見のある患者を探して,私たちに所見の取り方を教えてくれた。先生も学生もできの悪い私に対して,本当に根気よく説明してくれたと思う。実習は午前中に終わり,午後はIFMSAで同じようにマルタに来ていた他の国の留学生と一緒に過ごしていた。

 マルタの医療は,機械の数も少なくすぐにMRIが撮れるということもないようだったが,先生方は論文などを熱心に読んでいるようで,知識などの面では最新だったと思う。

(3)実習自体も日本と違うことや,BSLとしても学ぶことが多く,勉強になった。特に,他の学生の実習に対する積極性は見習うべき,と感じた。しかしそれ以上に,同じように医学を学んでいる他の国からの学生と知り合えたことが大きい。普通の会話から,お互いの国の医学部の様子,実習中の出来事,時には移植に関する考え方の違いなどを話し合うこともあり,本当によい経験になった。
 マルタで出会った人々によって,私自身の視野が広がったと感じ,考え方もよい意味で感化されたように思う。ここで作った友情を,これからも大切にしたい。そして,IFMSAを通して貴重な経験ができたことを心から感謝したいと思う。

●2007年度実施情報

期間:原則4週間
場所:スウェーデン,ドイツ,タイ,ブラジル,他(臨床交換留学約80か国,基礎交換留学約50か国)
対象:IFMSA-Japan加盟大学の学生で,かつ個人加盟している学生
定員:加盟大学間の交換留学のため,留学生受け入れ人数による
締切:2006年6月
連絡先:国際医学生連盟
 E-mail:exchange@yahoogroups.jp
 URL=http://ifmsa-j.umin.ac.jp/