医学界新聞

 

変遷する医療関連問題を議論

第67回日本臨床外科学会開催


 さる11月9-11日,平井勝也会長(慈恵医大)のもと,第67回日本臨床外科学会が新高輪プリンスホテル(東京都港区)にて開催された。大会テーマは「『病気を診ずして病人を診よ』-心の回帰」。多数の演題が採択され,特別シンポジウムでは医療現場で直面している医療関連死・混合診療・新初期臨床研修制度の話題を取り上げ,活発な議論が交わされた。


 メディアで医療事故が大きく取り扱われる中,99年の都立広尾病院事件において医師法21条の医療関連死届出の遅延による違法判決の司法判断が出された。こうした中,特別シンポジウム「医療関連死を考える」(司会=慶大・池田康夫氏,兵庫医大・松田暉氏)では,医療過誤に関連した届出について,厚労省の医療関連死届出モデル事業の討論が行われた。

 山口徹氏(虎の門病院)は,解剖医が少ないこと,実施体制が不十分な点を指摘。さらに「法医学会ガイドライン,外科4学会が共同声明として出した届出るべき異状死について各学会,病院での受け止め方に大きなばらつきがある」と,病院に任されている部分が大きい状況を強調。また,「医療提供者側が自らの力で透明・公平性を保ち,正しい評価ができるかが国民から問われている」と,信頼される医療を実現するためにもモデル事業への理解と協力を求めた。

 続いて吉田謙一氏(東大)が登壇。現状の問題として「法医による医療評価の専門性」と,「解剖情報の非開示による事故再発防止の難しさ」を語り,解決の一案として,厚労省の医療関連死に関するモデル事業へ期待していると述べた。さらに事故再発防止に関して「個人情報保護法に留意しつつ,事故情報検索システムを構築し役立てるべき」と強調した。

 黒田誠氏(藤田保衛大)は,病理解剖率について欧州では30%を超える国がある中,日本は4%を下回っている現状を指摘。その原因として,病理医のマンパワーの不足をあげた。厚労省モデル事業についても,「解剖医・臨床立会医・臨床評価医・コーディネーターのマンパワーをいかに確保していくか。そして全国的・永続的な第三者機関の創立と費用をいかに確保するか」と今後の課題を提示した。

 古川俊治氏(慶大)は「国民から信頼される医療を構築するために,予期せぬ結果に至った診療行為に疑問がある場合,第三者による公正な検証を行い透明性を確保することが必要ではないか」と述べ,さらに「明らかな過失による医療事故などを収集・分析し,再発防止に役立てるためにも,日本医療機能評価機構への報告制度に期待している」と述べた。

 長尾二郎氏(東邦大)は医療事故再発防止対策として,氏の病院で実施している院内PC端末からアクセス可能なインシデント・アクシデント報告システムを紹介。すべてのアクシデントを報告することだけではなく,「入院期間が延長している患者への介入,院内死亡例の解析,頻回の院内巡回などタイミングを逸しないことが重要」と述べた。

 新倉修氏(青山学院大)は,医療関連死の定義について捉え方によりさまざまな範囲があることを示し,刑事過失と民事過失について論じた。刑事過失の件数が少ない点については「故意責任が基本となっていること。そして合理的な疑いを超えて証明しなければならない」などの点をあげた。またチーム医療体制が敷かれている現状を踏まえ,信頼されるチーム医療の前提条件として「医療従事者相互において業務分担が確立し,それぞれが業務を遂行するうえで危険な結果を回避するに足りることが必要」と,組織的な取り組みの必要性を説いた。

■混合診療問題-立場によって異なる意見

 シンポジウム「混合診療における諸問題」(司会=北里大・比企能樹氏,癌研有明病院・山口俊晴氏)では,臨床医のみでなく経済学の立場からも演者が加わり,意見を交わした。

 後藤励氏(甲南大)は「人により混合診療への立場が大きく異なる」と述べ,混合診療の解説を交えて口演。「医療には安全性・有効性に関するEBMだけでなく,費用効果に基づいた評価が必要」と,中立的な第三者機関による評価の必要性を説いた。また,医療へのアクセスの確保と健康状態に応じたニーズに基づいた医療が行われるべきであると強調した。

 混合診療導入賛成の立場から福井秀夫氏(政策研究大学院大)が登壇。「未認可薬剤使用により保険適用部分まで全額自己負担になることが保険制度の問題」とした。混合診療解禁で疑問視されている安全性の問題については,「独立して追及するべきものであり,診療報酬体系によって変わるものではない」と指摘した。

 小西敏郎氏(NTT東日本関東病院)は,氏の病院で行っている自由診療を希望する患者への対応について説明。自由診療の問題点として「価格が一定ではなく,常によい結果が得られるわけではない」ことをあげた。その点を踏まえ,混合診療導入におけるポイントとして「医療費の高騰を防ぐ。EBMのない医療は認めない。不当な収益を発生させない。患者が自由選択するために情報を公開し,効果と副作用・合併症を厳しく監視する環境を整えることが必要」と述べた。

 松田暉氏(兵庫医大)は先進医療推進の立場から登壇。医療費が高いか,安いか,安全かという視点でしか見ていないことを問題視した。そして「一度決定されたことを固定するのではなく,期限を設定して再評価することが重要」と強調し,「再評価によっては,1回の医療費が高くとも何度も再入院を繰り返す必要がなければ,結果的に医療費が抑えられ,さらに患者のQOLも向上するケースがある」と指摘した。

 松原謙二氏(日本医師会)は「経済と生命の世界を市場競争原理の中で混同してはいけない。社会保障という補完システムの存在が重要」と述べ,「民間保険ができ混合診療を自由に解禁した場合,現在の保険診療の縮小が起きるのではないか」と危惧した。

 二木立氏(日本福祉大)は医療経済学・政策学の視点から登壇。「混合診療を部分解禁しても自由診療部分の大幅な増加は望めず,一部の民間ブランド病院を除けば病院収益の大幅な増加も望めない」と強調。混合診療を認めることにより,「将来的に制限診療復活に繋がりかねない面を有する」と言及。そして医療制度構造改革試案を複眼的に評価していく必要性を説き口演を終えた。