医学界新聞

 

病院サービスの信頼と保証を検証

第43回日本病院管理学会の話題から


 第43回日本病院管理学会が10月27-28日,井部俊子会長(聖路加看護大)のもと,ホテルオークラ東京(東京都港区)において開催された。今回のメインテーマは「病院サービスの信頼と保証――病院管理学の貢献」。岩井克人氏(東大経済学部;本紙2650号で井部氏と対談)による特別講演など,さまざまなtranslational researchを通して,サービス業としての医療が捉え直された。本紙では,学術シンポジウム「病院サービスにおける信頼と保証」のもようを報告する。


 学術シンポジウム「病院サービスにおける信頼と保証」では,4人の演者のうち3人は他業界からの登壇となり,医療の枠を超えて,“サービスにおける信頼と保証”が議論された。

 最初に座長の筧淳夫氏(国立保健医療科学院)が今回の趣旨を説明した。氏は,医療者が情報を独占し,患者が全面的に医療者を信頼した時代が終わり,現代では患者の医療情報へのアクセスが容易となった変化を指摘。これを踏まえ,「信頼関係を確立するためのシステム作り」が不可欠であると強調した。

コスト削減よりも質の改善

 最初に登壇したのは,急成長を遂げたオフィス・サポート会社で,近年は医療分野にも進出した「アスクル」の代表取締役社長・岩田彰一郎氏。ITの活用による流通の効率化などを例に出しながら「気持ちだけでなく,構造を改革することが大事」と指摘。“顧客のために進化する”という基本姿勢を示した。

 航空評論家の中村浩美氏は,コンチネンタル航空の復活劇を紹介した。原油高で他社が苦戦する中,奇跡的とも言える黒字を達成し,米経済誌でも優良企業として紹介されることの多いコンチネンタル航空。しかし10年ほど前までは,苦情数や手荷物紛失率など多くの指標で最低ランクにあり,会社更生法を二度も申請したエアラインであった。

 当時の再建を任されたのがベースン会長兼CEO。復活の背後にあったのは,「エアライン本来の仕事を思い出す」という単純な基本原則の確立であった。つまり,コスト削減などの経営改善よりも,「清潔・安全・信頼性」を軸とした一流の商品づくりに力点を移したのだという。また,ベースンの基本方針を「徹底した現場主義」と表現。既存のマニュアルを廃し,現場と協同で指針を作成したことを例にあげ,「状況はWORSTでも従業員を信頼したことで,現場の士気があがった」と評した。

 松下宏之氏(シャングリラホテルズ)は,“非日常の空間を売る”ホテルサービスの実情を披露。ホテル業界においては,近年進出がさかんな外資系が,日本のサービスの質の高さに注目しているところであり,「ホテル利用の際にはサービスを意識してみては」と提案した。

人材は人財である

 最後は医療界から,宮城県病院事業管理者の久道茂氏が登壇した。病院事業管理者とは,病院の開設者である自治体の長に代わって,権限と責任を与えられるポスト。組織改変や予算原案作成など,従来の院長と比べてかなりの権限を与えられるため,“病院のCEO”とも言える存在。

 氏は2002年以降の病院事業管理者として実践を振り返りつつ,「人材は人財である」ことを強調した。例えば,全職員に病院の財務状況を知らせ,自治体病院の公的役割を再認識させた(情報開示による意識改革)。また,学会だけではなく日々の研修が重要であるとの考えで,研修は半ば業務命令に(あわせて研修中のスタッフの補填も行う)。トップが“自らの声で”(会報では駄目),病院の理念を伝えることも大事であると語った。最後に,「医療の質は,本質的には医療技術の高さと安全性で評価されるべき」と,病院サービスの“信頼と保証”に関する持論を語った。

 その後の討論は,他産業との比較を通して,改めて医療との共通点・差異が浮かび上がるものとなった。差異については,「医療はコストを値段に反映できない」「患者と医療者の関係は,顧客と企業の関係とは異なる特殊なもの(情報量が根本的に違う)」などがあがった。また,久道氏は「人員削減で経営効率があがることは医療ではあり得ない」と強調。中村氏も,経営効率を追求した結果,安全性が脅かされた航空会社を例に,組織の使命(航空会社ならば“安全”)を見失うことの危険性を語った。

 最後に,座長の筧氏は,「リーダーが組織の理念を持ち,それを伝えること」や「市場のニーズをつかみ,それに見合った人材を育成すること」「ホスピタリティよりも治療・ケアを追求していく」など,医療サービスが信頼を得るための要点をまとめ,シンポジウムを閉じた。