医学界新聞

 

チームで育てる新人ナース

がんばれノート
国立がんセンター東病院7A病棟

[第14回]成長した?
主な登場人物 ●大久保千智(新人ナース)
●末松あずさ(3年目ナース。大久保のプリセプター)


前回よりつづく

 右も左もわからない新人が悩みや不安を書き込み,プリセプターや先輩ナースたちがそれに答える「がんばれノート」。国立がんセンター東病院7A病棟では,数年前から,新人1人ひとりにそんなノートを配布し,ナースステーションに常備しています。

 1月。年が明け,大久保さんの1年目も残り3か月となりました。プリセプターとしては,残りの3か月を,これから2年目を迎えることを視野に入れ,関わっていきたいと考えています。そこで現段階での疑問や不安を確認する作業が必要です。1年目の彼女たちも同様に自分たちの成長に不安を抱いています。1年目は日々学ぶことがいっぱいで,自分たちの成長にまで目を向ける余裕がありません。重要なことは彼女たちがこれまでの成長を実感できることです。プリセプターを含めたスタッフが1年目の成長を言葉で表現することで彼女たちを支えていきます。


今回の登場人物
大久保千智,末松あずさ,寺田千幸(2年目),川崎久恵(7年目)。

1/2 ●寺田
 明けましておめでとうございます。あと3か月で2年目となりますね。去年の私は,自分が2年目になることが想像できなくて,何か聞かれても絶対答えられないのでは? と不安と焦りの気持ちでした。月日がたち2年目となり,大久保さんが7Aに来てくれて,うれしく思っています。大久保さんからいい刺激を受け,たくさんのことを教わりました。ありがとうございます。また今年もよろしくお願いします。

1/25 ●末松
 1か月ぶりになります。別の病院で働いている友人が,病棟でプリセプターフォローアップの話し合いをした時に,がんばれノートを提案したらしく,その病棟でも来年からがんばれノートが導入されることになったそうです。こいつ(ノート),すごいね!!

 あと2か月で1年目も終わります。昔のノートを読み返し,大久保さんと自分の初心を思い返しました。

 成長したね。きっと「成長したね」って言われても,実感できないでしょう? 具体的には,必要な情報もとれているし,他の先輩のアセスメントも自分の中で消化して大久保さんの言葉でアセスメントできるようになりました。もっとバリエーションを増やしていかなくちゃいけないけど,やるべきことはちゃんとやっている。そして患者さんの人となりを理解し,そこを大切にしているなぁと感じます。

 厳しく指導してきたと思うけど,それにへこたれつつもついてきてくれて,着実に成長しているなぁと思います。でも私にとって大久保さんの成長はとても「順調すぎ」て不安でした。

 4月あたりに口すっぱく「疑問を持つように!!」って言っていましたが,今も疑問を持って,仕事に取り組んでいますか? 今ふっと,「そういえば最近質問されてないなぁー…?」と思ったんだけど疑問はちゃんと誰かに聞いたり,自分で調べたりして解決できていますか? 大久保さんの中で表面化していないことや,もしかしたら自信がない,っていうのを言えないこともあるのかな。私が至らないばかりにそういう大久保さんのサインを見逃しているのかな……って考えます。お互いにとって達成感のある1年にしようね。

2/2 ●大久保
 「もうすぐ2年目,下が入ってくるね」と言われてもあまり実感がありません。末松さんが「成長した」と書いてくれていますが,正直に,成長している気もあまりしません。確かに4月に比べれば少しは慣れたんだろうな,という感じはします。でも,2年目になることには,不安がいっぱいです。

 私が7Aに来た時から寺田さんは優しくて,頼りがいがあって,ナースとしてすごく素敵だなーとずっと思っていました。そんな寺田さんのような2年目にはとてもなれそうにないな,と思います。苦手な検査の介助や夜勤は今でもドキドキするし,アセスメントも不十分だし,こんな2年目を見て1年生はどうかな? と考えてしまいます。寺田さんのように,とまではいかないまでも,自分が今思っていること,大切にしていることを忘れず,少しずつ成長していけたらと思います。

 ちなみに今,看護をするうえで一番大切にしていることは,末松さんがアドバイスしてくれた,「その人のその日をしっかり看る」ということです。初めて手術をする人,抗がん剤がはじまる人の1日目,2日目はもちろん,その人にとって同じ日・同じ時は今しかない,その時にナースができることって何だろう,と日々考えています。そう思うと,今ナースとしての自分が関わることの意味とか責任とかを考えさせられて,次第に,わからないこと,理解できなかったことも放っておけなくなりました。とは言ってもまだまだ疑問の目も不十分ですが,そう思い続けて1つ1つ解決していけたらいいな,と思っています。

 末松さんは本当に本当に,素晴らしいプリセプターさんです。こんなによいプリセプターがついているのに大して成長していないプリセプティで申し訳ないな,といつも思っています。「私ではなくて他のプリセプティの担当だったらもっと楽でやりやすかっただろうなー」と思ったりすることもあります。でも末松さんのことが大好きだし,尊敬しているし,末松さんがいると一番ほっとするのは多分私なので,これからもプリセプターでいてください。あと2か月,また悩んだり困ったりすることもありますが,たくさんの思い出のある1年目になるように頑張るので,よろしくお願いします。

2/2 ●川崎
 大久保さんが,自分の2年目の姿を寺田さんに見出しているところに,ホッとしました。7Aは幸い,1-7年目まで,欠けることなくいます。自分の目標を立てるのに,すぐ上の先輩の姿って,非常に参考になるよね。つまり,来年は1年目に大久保さんが,そういう目で見られます!!

 「自分のことで精一杯」でいいんです,それを見て学ぶのだから。大久保さんは,人のことスゴイ!!って言っているけど,大久保さんの看護で,よかったこと・胸を張れることって何ですか? いつものように「私には,何もないですよ~」と言わずに,この1年振り返って,“自分もかかわった看護”で,よかったと言えるものを思い出し,大切に残しておいてください。そういうことが自信になり,背中に表れてくるからサ。

寺田 私は1年目の頃,2年目になることが想像できず,不安でずっと1年目でいたいと思っていました。2年目になることを大久保さんがどう思っているのか,不安だったりしないか心配でした。2年目が1年目にとって完璧であることや指導者である必要はありません。一番身近な存在であることが何より重要だと思います。こちらも1年目の存在を通して,たくさん学んでいることを伝えたかったです。

大久保 自分が先輩になるのが怖かったです。末松さんをはじめ,ナースとして本当にすばらしい先輩に囲まれて1年間を過ごし,たくさんのことを指導していただきましたが,自分はどう考えても“まだまだ”です。特に,1年間で寺田さんから受けた影響は非常に大きく,4月から寺田さんのような役割を1年生に対して行える自信がまったくありませんでした。むしろ悪い影響を与えることはないだろうか…と。ノートのコメントを通し,この時期,誰もが同じことを思うこと,自分らしい2年生になればよいことを教えてもらい,とても気が楽になりました。

川崎 1年目の時,自分の一番近い将来の姿を2年目の先輩に見出し,毎日の仕事を積み重ねていました。だから2年目の時は,1年目の目を気にしていました。意味のない・根拠のない仕事をしない,またどうしてこうするのかわかるように言えることを意識した仕事をしました。ただ「大変だった」で1年を締めくくっては浅はかです。小さなことでいいから“看護”を語って確かな自信をつけてほしい,そして1年目に大久保さんの背中を見せてやれ!! そんな願いを込めました。

次回につづく


病棟紹介
国立がんセンター東病院7A病棟は,病床数50床,上腹部外科・肝胆膵内科・内視鏡内科の領域を担当している。病床利用率は常に100%に近く,平日は毎日2-3件の手術,抗がん剤治療・放射線治療,腹部血管造影・生検・エタノール注入などが入る。終末期の患者に対する疼痛コントロールなど,新人にとっては右を見ても左を見ても,学生時代にかかわることがない治療・処置ばかりの現場である。