医学界新聞

 

災害に対する備えの行動化

第7回日本災害看護学会開催


 第7回日本災害看護学会が,8月29-30日,「災害に対する備えの行動化-災害看護からの提言-」をメインテーマに,淡路夢舞台国際会議場(淡路市)にて開催された。兵庫県立大学大学院看護学研究科・地域ケア開発研究所による21世紀COEプログラム,「ユビキタス社会における災害看護拠点の形成」の拠点リーダーである山本あい子氏(兵庫県立大)が大会長を務め,事前申し込みで定員を超過する注目の学会となった。


災害看護学の必要性から 明確化へ

 会長講演は,山本あい子氏による「災害に対する備えの行動化-災害看護からの提言-」。災害看護というと,災害時の初期対応から中・長期対応,心のケア等がクローズアップされがちだが,「備え・減災」としての災害看護のあり方に焦点を絞った講演であった。

 山本氏はまず,昨年末のスマトラ沖地震・津波災害時のタイ国ナースの話を取り上げ,災害地での医療・看護活動の体験から多くのことを現地の看護職は学んでいるが,阪神淡路大震災でのわれわれの経験がほとんど伝達されていなかったことを痛感したという。

 そして,災害への「備え」について,体験から明らかになった必要性に基づき,多くの事項が明確になってきていることを指摘。具体例として,(1)システム・マニュアルづくりとその活用,(2)コミュニケーションルートの確立,特にコミュニケーション弱者への情報伝達,(3)ケア提供者に対するケアの方法,(4)教育プログラム構築,(5)研究の推進,について述べ,体制や支援ネットワークの構築,看護ケア内容の抽出などを紹介した。

 また教育・訓練の構築が求められるが,基礎教育における災害看護教育の現状は,38%の学校・学科で「実施している」が,そのうちで独立科目として設けているのは13%という調査報告も紹介された。しかし,実際の教育として演習まで含めると6単位は必要であり,現状の基礎教育カリキュラムでどのように実施するかが課題としてあげられた。

備えの現状

 会長講演に続いて行われたシンポジウムのテーマは「災害に対する備えの現状と課題」(座長=青森県立保健大・新道幸恵氏,高知女子大・森下安子氏)。まず,洞爺湖協会病院の岩村光子氏は,5年前の有珠山噴火により病院自体が移転を余儀なくされたことを契機に,「有珠山と“共存”する町」の病院のあり方を述べた。病院の新築にあたっては,災害(有珠山噴火)時の避難・医療拠点として機能すべく,被災者収容対応の外来の設備・構造,水の備蓄施設等,さまざまな工夫が施されていることを紹介した。

 東海地震,東南海・南海地震が切迫している静岡県において災害基本法の指定公共機関に指定されている静岡県看護協会からは防災対策委員会・石川弥生氏が,災害への意識づけ・啓発活動と人材育成・確保の方策について述べた。

 マニュアルとしての「防災計画書」について,こまめに見直し,改訂し,それを知らしめることで防災意識の低下を防いでいるとのことであった。また,災害支援ボランティアナースの研修を開催し,認定・登録も行っている。さらに関連行政機関との連携・ネットワークを課題としてあげた。

 この他,中越地震の救護活動について,長岡市健康課・下田知恵氏は,他自治体等からの医療関係者の支援チームの受け入れ体制とその終了時期を課題としてあげた。国立病院機構災害医療センターの三浦京子氏は,基幹施設の機能として,災害拠点病院に対する災害医療の臨床研究,医療従事者の教育にいっそう力を入れる必要性を述べた。

JR福知山線事故における 救護活動

 まだ記憶に新しい,JR福知山線脱線事故における救護活動について,ワークショップにて兵庫医大病院・宇都宮明美氏,関西労災病院・桟裕子氏から,患者受け入れ・初期対応など,専門看護師の活動を中心に報告がなされた。兵庫医大では,事故発生の第1報,被災者の受け入れ要請に対し,通常の診療業務を行いながら全要請患者を受け入れるという病院トップの判断のもと,113名の患者の搬送があった。宇都宮氏は,クリティカルケアCNSとして,事故の規模,被災者の状況が不明なまま次々に搬送されてくる患者のトリアージや処置室への振り分け,リエゾン活動などを,時間の経過に沿って内容を綿密に振り返った。

 桟氏も,同様に救急看護認定看護師による初期対応,リエゾン精神専門看護師による心のケア初期対応と継続支援について紹介した。災害拠点病院としての日ごろからの訓練の有効性をあげるとともに,専門看護師の機能が注目された報告となった。