医学界新聞

 

消化器病領域の学術成果が一堂に

第13回日本消化器関連学会週間開催


 さる10月5-8日,第13回日本消化器関連学会週間(DDW-Japan 2005)が,中澤三郎議長(日本消化器関連学会機構)のもと,神戸市のポートピアホテルその他において開催された。日本消化器関連学会週間は日本消化器病学会,日本消化器内視鏡学会,日本肝臓学会,日本消化器集団検診学会,日本消化吸収学会の5学会合同で開催され,今回も消化器病領域におけるさまざまな課題について,最新の知見が発表されるとともに,活発な議論が交わされた。


C型慢性肝炎患者の高齢化

 高齢化社会を迎え,C型慢性肝炎患者における高齢者の割合も高くなっている。現在C型慢性肝炎の治療ではインターフェロン(IFN)とリバビリンの併用療法が効果をあげているが,リバビリンは高齢者には慎重投与とされており,副作用に注意しながらの治療となる。シンポジウム「高齢者C型慢性肝疾患のより良い治療と管理に向けて」(司会=阪大・林紀夫氏,鹿児島大・坪内博仁氏)では,こうした課題について議論が行われた。

 鷹取元氏(金沢大病院)は,高齢であることを理由にIFN治療が行われない傾向があることについて,「副作用に対する十分な注意が必要ではあるが,治療成績については若年者と変わらない」と指摘。高齢であってもIFN治療は検討されるべき,との考えを述べた。また,リバビリン併用療法については本多隆氏(名大病院)が,高齢者では副作用による中止率が高いものの,IFN単独よりも効果があることを報告し,同様の見解を示した。

リバビリン投与量の指標

 平松直樹氏(阪大)は,高齢者では特に貧血による中止が多いことをあげ,治療開始後2週間でのヘモグロビン低下が,リバビリン減量の視標であるとした。また,リバビリン中止例では著効率は低下するものの,減量例では低下が認められなかったことから,適切な治療選択を行うことで,予後改善効果が期待できると述べた。

 狩野吉康氏(札幌厚生病院)はリバビリン血中濃度が2,500ng/mlを超えると減量・中止が高率になることから,全身クリアランス(薬物が体内から消失する速度:単位時間あたりに体内から消去される量の薬物を含んだ血液の容積で表す)ベースでの投与量の設定が有用であると述べ,煩雑な公式を簡略化して作成した表を発表。例えば年齢65歳の場合,体重60kgまでは400mg,60kgを超えるようであれば600mgとなる。

 氏は「高齢者でのリバビリン併用療法においては,減量・中止を最小限にとどめる必要がある」と強調した。

■化学療法でどこまでがんは治療できるか

 パネルディスカッション「消化器癌の化学療法の有用性と限界」(司会=札幌医大・今井浩三氏,久留米大・佐田通夫氏)では,食道,大腸,膵臓がんにおける,各施設における取り組みが報告された。

 瀧内比呂也氏(阪医大)は基調講演で「ランダム化比較試験でのみ『化学療法の有用性とその限界』を明らかにすることができる」と述べ,これまでの臨床試験の多くが単一の専門的なセンターでの成績であり,バイアスがかかっている可能性があると指摘した。

 氏は理想的な臨床試験として,日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)が行った5-FU単剤をコントロールとした試験(JCOG9205)を紹介,「JCOGのような質の高いスタディグループが他にもたくさんできれば」と今後の課題をあげた。

新たな治療法の可能性

 稲葉博之氏(聖マリアンナ医大)は「現在,切除可能な食道がんの標準的治療は手術および術後化学療法であるが,手術の侵襲を考え根治的放射線化学療法が治療選択肢の1つとなっている」と述べたうえで,S-1(経口5-FU系抗がん剤)/ネダプラチン/放射線療法の臨床試験(S-1は食道がんでの保険適応は承認されていない)について発表。治療成績向上の可能性が期待でき,S-1が経口薬であることからも患者のQOL向上に貢献できると強調した。

 入江孝延氏(阪大)は大腸がんに対する5-FUとCOX-2阻害剤併用療法について口演。COX-2はがんの増殖,転移に関与する酵素であるため,COX-2阻害剤にはがん発生予防効果があり,抗がん剤との併用で抗腫瘍効果の向上が期待できる。

 氏はマウスの進行大腸がんモデルにおいて,COX-2阻害剤単剤では抗腫瘍効果は認められなかったものの,併用することで5-FU単剤よりも治療効果が得られたと発表。腫瘍組織中のVEGF産生が有意に低下し,血管密度も減少したことから,進行がんに対するCOX-2阻害剤併用療法の可能性を示唆した。

治療困難な進行性膵がん

 有住俊彦氏(東大)はまず,「膵がんの早期診断は困難であり,多くの症例で診断時にはすでに進行がんになっている。非切除進行膵がんの予後は非常に厳しい」と現状について述べた。

 2001年4月にゲムシタビンの膵がん適応が認可され,氏の施設ではゲムシタビン単独療法を行っている。その結果,放射線化学療法とほぼ同等の成績が得られており,重篤な副作用もないため,膵がん治療ではゲムシタビンが第一選択と考えられるという。

 岡村圭也氏(札幌厚生病院)もゲムシタビンについて,副作用が出た場合でも減量など適切な用量設定を行うことによって長期投与は可能とし,今後は遺伝子による感受性,薬物動態の予測によりテーラーメイド治療の実現をめざしたいと述べた。

 鹿志村純也氏(水戸済生会総合病院)の施設では,ゲムシタビンでの治療に加え,十分なインフォームド・コンセントが得られた場合TS-1(S-1治験薬名)による治療も行っている。

 氏はTS-1についてゲムシタビンよりも副作用による中止が少なく,生命予後改善についても良好(奏効率は47%)であったことを報告。しかし,高度進行膵がんでは無効例が多く,いまだ不十分な状況であるとした。

 板野哲氏(久留米大)は外科的切除などで根治が得られない肝がん症例に対して,皮下埋め込み式リザーバーにより肝動注化学療法(low dose FP:LFP療法)を行っている。そして今回FEM療法(5-FU,エピルビシン,MMC)と比較し,生存率においてLFP療法が優れていたことから,進行した肝がんにおいては,LFP療法が第一選択との考えを示した。

 最後に司会の佐田氏は「化学療法について現場で悩みを持つ医師は多い。教育の場でがん治療について教え,科の垣根を越えた体制を確立したい」と課題を述べてしめくくった。