医学界新聞

 

個人情報保護と診療録活用の両立へ

第31回日本診療録管理学会開催


 さる9月15-16日,秋田市・秋田キャッスルホテルにおいて,林雅人大会長(平鹿総合病院)のもと,第31回日本診療録管理学会が開催された。テーマに「21世紀の診療情報管理を考える-個人情報保護法施行を見据えて」と題し,個人情報の保護と医療の質を高めるための有効活用へ向けた討論が行われた。総会では,第1回診療情報管理士指導者認定式が執り行われ,18名が認定された。今後の診療情報管理士の技能・資質の更なる発展の先導者として,期待される。


整理された診療録を

 大会長講演「卒後臨床研修と診療録管理」で林氏は「診療録は患者の診療に関する医師・看護師の記録という意味合いが強かったが,情報の共有化と有効利用を考えると,診療録の意味が大きく変わってくる」と冒頭に述べた。

 診療録について氏は「さまざまな職種がかかわったチーム医療のすべてが凝縮されたものと言えるわかりやすく正確な記載が重要」と強調。そして「診療録記載の習慣は研修医時代に培われ,経験を積んでいくごとに簡潔に書かれるようになる。特に研修医にとって,診療録は記録を残すためだけのものではなく,頭の中を整理し書く訓練が必要であり,研修医時代にしっかりとトレーニングをしなければいけない」と診療録記載の重要性を説いた。

診療情報の共有
地域医療ネットワーク構築へ

 大井利夫氏(上都賀総合病院)を座長にシンポジウム「地域医療と診療情報」が開催された。大井氏は「地域ごとに特徴的な診療情報の活用を発表いただくことによって,皆様の胸の中にさまざまな考え方が生じ,取り組むべき方向性を見出していただくことを期待したい」とシンポジウムのねらいを語った。

 最初に登壇した夏川周介氏(佐久総合病院)は,「地域がん登録における地域医療と診療情報のかかわり」と題し口演。「これからは多種多様な医療職種,機関が機能的に連携した地域医療ネットワークシステム構築が重要。そのためにも診療情報管理担当者には情報交換の場を提供,地位向上を図り,地域医療ネットワークの発展・充実に大きな役割を担っていただきたい」と,診療情報管理士の充実・強化に取り組みが必要と説いた。

 続いて月岡恵氏(新潟市民病院)は,地域医療の考え方について地域密着型と政策医療型の2つに分けられると述べ,「地域密着型は,病院・診療所が地域と一体となって医療・保健・福祉等を行うものに対し,政策医療型(都市型)は,地域医療計画に沿った医療,医療福祉における機能分担と連携し地域完結型の医療を行うことが理想」と語った。

 早川富博氏(足助病院)は,電子カルテを用いた地域と連携した診療情報共有システムについて口演。連携先の看護師・ケアマネジャーへデータ開示した結果,看護師は全員参照したのに対し,ケアマネジャーは8人中1人しか参照していないことが判明。その理由として,データ・薬の内容が理解できないことや参照可能なデータが少ないことがあげられた。氏は結果から「地域における勉強会の充実や,医療側からの情報開示内容の拡大などの取り組みが必要」と指摘。

 さらに「過疎地における医療・福祉の充実には,保健・医療・福祉で情報共有し効率的に行う必要がある。診療情報共有には個人情報保護を念頭にセキュリティ対策もさることながら,開示先への信頼が必須。それには日々のコミュニケーションによる信頼構築が重要」と語った。

 最後に阿南誠氏(九州医療センター)が登壇し,診療情報管理士の役割について言及。診療情報管理士の情報管理について,(1)記録の管理とデータベースを構築し管理すること,(2)その精度を管理して保証すること,(3)手続きや流通のコントロールをすること,の3点をあげた。そして「従来,物の管理という面が強かったが,情報の活用が重要なものになってきた。そのためには精度の高い情報管理と活用,情報流通のコントロールが重要。患者個人も大事だが,地域の医療機関との情報共有が大切」と指摘。そのためには,(1)情報共有の環境対策,(2)情報の質,(3)個人情報保護法施行により個人と診療所の関係がシビアになっている現状,を加味した対応が必要との見解を述べた。

■個人情報保護法施行による変化の波

 シンポジウム「個人情報保護法施行と診療録の管理」(座長=秋田大・近藤克行氏)では,個人情報保護法の医療制度面,医療現場の立場,患者の立場,電子カルテなど,多角的な視点から議論が行われた。

 大道久氏(日大)は,個人情報保護法の基本的考え方・医療への適応・診療情報にかかわる問題点について口演。「個人情報保護法施行後,診療情報は最も慎重かつ安全に管理される個人情報であり,患者の自己情報コントロール権への対応が強く求められている」と強調した。

 川城丈夫氏(東埼玉病院院長)は病院・医療現場の立場から登壇。「まず個人情報保護法のガイドラインが院内で周知されることが重要」と強調し,「現在の情報を共有する環境においてチーム医療では,(1)診療情報は患者のものであり,利用には患者当人の許可が必要であること,(2)適切な個人情報保護は医療安全と同様に医療の質を構成する重要な要素であること,を常に確認していかなければならない」と言及。そして「現状を維持するのではなく,絶えず改善させていこうとする努力が重要」と,患者の視線に立ち医療の質の向上をさせていく必要性を述べた。

 辻本好子氏(ささえあい医療人権センターCOML代表)は患者の視点から口演。「患者さんは安全,安心と『納得』のすべてが満たされることが重要。患者さんが納得するためには,ニーズが異なる患者の個別性を尊重することが重要」と説いた。また,病院によって患者さんの名前・写真が本人に確認されずに掲示されていることを指摘。「1人ひとりに意向をきちんと確認していくことが大事。そのプロセスによって,さらに患者の取り扱いが丁寧になれば」と個人情報保護法の施行による変化に期待を述べた。

 山本隆一氏(東大)は医療情報の電子化に伴う個人情報保護,患者のプライバシーをどのように考えるかについて技術面から口演。「自己情報コントロール権とプライバシー権が医療の中で重要になってきたことをあげ,個人情報の取り扱いは手順を踏んで行うことが必要」と指摘。そして情報の安全管理について「ヒエラルキーがはっきりした一般企業と異なり,病院は部門ごとにも存在することから,組織的な考え方を医療従事者全体が共有するべきである」と意識改革の必要性を説いた。