NURSING LIBRARY 書評・新刊案内


早川 有子,澤田 只夫 著
《評 者》青木 康子(桐生短大学長)
周産期のマイナートラブルに 焦点をあてる

例えば,妊娠20週だから乳頭の手当てについて,妊娠24週だから体重増加について指導しましょうというように。また,成書の中でもその根拠としての妊娠・分娩・産褥の正常・異常の経過,治療,処置,検査の詳細が中心になっている。マイナートラブルについて触れていないわけではないが,重点がおかれているとはいえない。
しかし,出産をする,あるいは出産をした女性の日常生活に及ぶ影響から考えると,また,できるだけ妊産婦中心の看護の展開を図りたい立場から言えば,マイナートラブルに対する指導の優先度は高くなる。
本書は,起こりやすいトラブルについて,妊娠中から出産後の女性の日常生活への影響を見通し,その発生機序から解決策,予防法まで,保健指導する側が身につけていなければならないことが一貫性をもって書かれている。見出しが明確で,図表も多くわかりやすく見やすい。こうした学習スタイルで勉強すれば,根拠をもったケアや指導が容易に覚えられる利点を体験できることにもなる。
さらに,CD―ROMをつけていることは画期的であり,若い人に受けると思われる。画面も明るくきれいで,内容もわかりやすく,楽しく学習できる雰囲気がある。忘れがちな基礎知識を確認し,妊娠・分娩・産褥との関係を明確にすることは,看護学生にとって必修であり,繰り返し見聞できるCD―ROMは便利である。臨床現場で働く看護職にとっても,なぜだったかしらと思うとき,そうだったと自己の認識に確信が与えられる。
また,文献からのデータや薬の一覧,一口メモやコラムなどは思わず読んでしまい,それでいて頭に残る効果があり,覚えなければ,覚えなければという圧迫感の少ない学習ができる。参考文献や引用文献の記載の多いことは研究にも役立つ。こうしたトラブルについてのケアや指導についての研究は少ないので,本書がその動機づけとなって,研究が推進されればよいかと思っている。
願わくば,「腰痛」「むくみ」「つわり」などについても,同様のスタイルで発刊されることが望まれる。


医療の質用語事典
飯田修平,飯塚悦功,棟近雅彦 監修
《評 者》三宅 祥三(武蔵野赤十字病院・院長)
医療の質向上に取り組むすべての 医療者のための羅針盤

質を考える時,日本の産業界や工業界が蓄積してきた品質管理についての膨大な知恵の集積があることに,必ず気づくはずである。工業界では品質をどのように規定しているのか,品質として評価すべき内容の考え方,品質管理の仕方や方法論,指標とすべきものは何かなどの解説を踏まえて,医療の質はどのような要素で構成され,どのように質を担保すればよいのか。そのためには何を指標に,どこでどのように評価するのが適切なのかなどについて本書で解説されている。工業界での考え方と使われる用語の意味するところを十分理解し,医療界でも同じ基準で使わないと,共通の土俵で質の議論ができなくなる。このような観点からも,医療従事者に理解しやすいように,医療界と工業界の品質管理の専門家が協働して,質に関する用語をわかりやすく解説した良書である。
また,『医療の質用語事典』との書名ではあるが,内容は医療の質・安全を進めるための基本的な考え方,医療の質・安全を組織として構築するための方法論,具体的に使える有効な手段の解説にも多くの紙面が割かれている。本書は,医療の質・安全の向上への取り組みを進めるうえで明快な羅針盤を与えてくれたと考えている。ここで解説されている具体的な方法論を少しずつ実行して積み上げることで,病院内の業務改善は進み,医療の質・安全の向上が図れるものと確信している。
いま,病院医療の世界では医療の質を保証する手段として,日本医療機能評価機構による審査の受審が広がり,大きな成果をあげてきている。一方,工業界では国際的な品質管理の基準としてISO9000sの認証取得が進んでおり,この流れは医療界にも浸透し,ISOの認証取得に意欲を燃やす病院も増えてきている。それぞれ長所があり,両者で補完しあって日本の医療の質は恒常的に向上していくのではないかと考えている。このような時代の潮流のなかで,用語の理解が共通認識されることは大切なことであり,その結果として工業界の知恵が医療界でより多く活用され,医療の質向上が図られることが期待される。本書の出版は大変時機を得たものである。
医療安全と医療の質向上に関心を持っている方や,いま,医療の現場で医療の質向上に尽力している安全管理担当者の方や管理職の皆様には,ぜひとも読んでいただきたい良書として推薦する。


ロレイン M. ライト 著
森山 美知子 監訳
長谷 美智子 訳
《評 者》江本 愛子(三育学院短大名誉教授)
スピリチュアリティに 目を開かせてくれる1冊

本書は,スピリチュアリティについての調査研究報告ではない。著者と研究者らは,重い病いを持つ患者と家族を1つのシステムととらえた家族看護モデルを実践し,その中でユニークなチームを組んで配慮された深い面接を続けた。
本書には,「病いに対するビリーフ(とらえ方),苦悩,スピリチュアリティ」という人生の重い課題の概念が三位一体で論じられている。看護における癒しの実践を見出すことに焦点が絞られたため,宗教や他の関連用語の詳細な解説は控えられている。
著者のひたむきな看護実践の追求は,ご自身の母親の苦悩と死に深く関わった体験と家族愛,その上に研究に裏打ちされている。筆者は,フランクルが第二次世界大戦末期のアウシュビッツで,極限の悲惨体験を通して得られる偉大なスピリチュアリティを描写した事実と重ねてみた。
本書では,人間には苦悩を通して生きる意味を希求する―スピリチュアルな傾向―があることと,その人がビリーフを変更して,信じ,望み,愛のうちに生きる力を育むために,実践の中で会話の術が必要であることが強調されている。この2つが本書にちりばめられたストーリーを通して読者に真に迫ってくるであろう。一方,看護師が実行できそうなガイドも提案されていることで救われた気持ちになれるかもしれない。
現在一般社会においてもスピリチュアルなことに対する関心が高まっている。しかし,NANDA看護診断の「霊的(スピリチュアル)苦悩」や「結合性」などの用語は理解しにくいし日本文化にそぐわない,などの声が聞かれるかもしれない。また,用語だけが一人歩きしたり,放置されたりしては,看護の実践能力は育たないだろう。人間性の真髄ともいわれるスピリチュアリティについて,私たち看護師はさらに目を開いていく必要性が高まっている。
最後に一言,本書と同様のテーマを扱ったもうひとつの近刊図書を紹介したい。それはエリザベスJ.テーラー著「スピリチュアルケア―看護理論,研究,実践」という題名(仮題,医学書院より発行予定)のテキストで,現在筆者が監訳中である。この本は,異文化の観点,宗教,倫理などとの関連も含め,スピリチュアルケアの包括的なテキストである。各章にクライエントのストーリー,看護師のストーリーが含まれている。
A5・頁184 定価2,730円(税5%込)医学書院