医学界新聞

 

連載全4回

USMLE最近の動向
Step2CSを中心に

最終回 Step2CSの対策(後編)

松尾高司(メリーランド大学産婦人科レジデント)


2650号よりつづく

Challenge Question

 前回に続き,Challenge Questionの詳細について説明します。この名称は模擬患者が「医師に向かってチャレンジする」という概念からこのように呼ばれています。これはすべての症例で経験します。すべての模擬患者はその医師との会話中のどこかにおいて,何らかの質問をするよう事前教育されています。ですから,たとえ医師側を困らせるような質問であっても,それは患者の本心ではありませんし,決して慌ててはいけません。医師がどう対応するかを観察しているのです。どのような質問に対しても丁寧に笑顔で対応します。遭遇しうるチャレンジとしては以下のようなものがあります。基本姿勢はまず患者の意見に傾聴・同意し,もし反対意見を述べる場合は「あなたの健康状態は私たちの一番の関心事項だから」というソフトな対応で始めます。

a)保険に加入していないのでその検査を受けたくない
b)病気にもかかわらず仕事に行きたい
c)医師に対して怒りの姿勢を示す
d)(電話事例)病院に行く交通手段がない
e)私の病気は重いのでしょうか?
f)この痛みを一刻も早く何とかしてほしい
g)(子どもの親から)一刻も早く診察をしてほしい
h)(患者の)家族に説明してほしい
i)(医師が鑑別診断に思慮していると)一体私の病気は何ですか?

 重要な項目に関して説明します。
 a)非常によく遭遇する質問です。傾聴のうえ,患者の健康状態が最大の関心事項であり,そのためにはどうしても必要な検査であることを説明。ソーシャルワーカーがケアしてくれる旨,説明します。
 c)無理な制止をせず,じっくり傾聴のうえ,なぜ怒っているのか,何があったのかを聞きます。
 d)電話事例でよく遭遇する質問です。患者を病院に運んでくれる家族・親戚,タクシーについて尋ね,それらが困難であるようなら「病院から救急車などを向かわせることも可能です」等の丁寧な提示を行います。
 f)「診断がつかない以前に鎮痛薬を投与することはできません」等の突き放すような説明を控え,「貴方の痛みは十分にわかります。直ちに鎮痛薬を処方しますが,その前に少しだけ簡単な問診と理学検査をさせてください。時間はとらせません」といった柔らかい説明をします。
 i)たとえ鑑別診断にまったく見当がつかなくても,決してうろたえてはいけません。すべての症例を完璧にこなす必要はありません。わからなくても不安を一切表情に出さず「今現在の段階では鑑別診断をつけるのは難しいようです。しかし,私たちには診断を確実にするために有用な検査がいくつかあります。その結果を待ちたいと思います」と説明できれば十分です。それがこの試験で求められている重要な要素なのです。

実際の試験で行うこと

 問診を行い,理学所見をとり,鑑別疾患をあげ,必要な検査を説明し,また必要であればカウンセリングを行うことだけがこの試験で求められている内容です。治療方法についての説明等その他のことは行う必要はありませんし,逆に減点の対象です。一般事項は他の書物に譲ります。私のあげるポイントとしては次のものがあります。

1)時間の使い方
 開始1分で鑑別疾患列挙を含むノートを完成。図のように試験会場で配られる青紙の上端に患者の名字(患者は名字で呼び,名前では決して呼ばないこと),およびバイタルサインを記入。用紙を左右に分け,図のように語呂合わせの頭文字を手早く記入します。下端半分には鑑別疾患も簡単に記入します。

 問診時に有用なノートの一例
名字(Family name),年齢 血圧,脈拍,体温,呼吸数
L: location(痛みの位置)
I: intensity(痛みの強さ)
Q: quality(痛みの性質,スコア)
Q: quantity(痛みの頻度)
O: onset(開始時)
R: radiation(放散部位)
A: aggravation(増強因子)
A: alleviation(軽減因子)
A: association(関連[下記を問診])
F: fever/chills/sweat
C: cough
S: shortness of breath
H: headaches
V/N: vomiting/nausea
E: edema
T: thyroid
P: past history(既往歴)
A: allergy(アレルギー歴)
M: medication(内服薬)
H: hospitalization(入院歴)
U: urinary symp.(排尿)
G: gastroentero.(胃腸症状)
S: sleeping(睡眠)
F: family history(家族歴)
O: ob-gyn(産婦人科関係)
S: sexual habits(性交等)
S: social habits(喫煙,酒等)
1.鑑別疾患その1
2.  同  その2
3.  同  その3
4.  同  その4
5.  同  その5

 入室後6,7分で自己紹介並びにすべての問診を終了。問診に際し「これは聞かなくてよいだろう」の発想では点数を伸ばすことはできません。なぜなら総論で説明したように,患者は質問されることを待っていますし,質問したことで加点こそあれ減点となることはまったくありません。逆に鑑別疾患がまったくわからなくても心配することはありません。このルーチン的な図に沿った問診を行ううえで患者から必ずヒントが得られます。時間がないのでノートへは有意な所見のみ書きます。

 次の5,6分で理学検査を行います。1つひとつの動作に先立って必ず簡単な説明をします。鑑別疾患がまったくつかない場合や時間の差し迫った場合でも,心臓,肺,腹部の3点は必ず行いましょう。最後の2,3分で「締め」を行います。必要であればカウンセリングを行います。どの検査が必要かに関してはそれほど詳しく説明する必要はありません。「CBCといって採血によって得られた血液中の赤血球等の血球分画を調べます」とまで説明する必要はまったくありません。

2)手洗い
 意外と間違いやすいのであえて列挙しました。模擬患者は背中越しや鏡を通して確実に手洗い方法を評価しています。せっかく洗って清潔にした手で直接蛇口をひねっては減点です。清潔にした手でペーパーを掴み,それを通して蛇口をひねりましょう。手術の手洗いと同様の清潔概念を持ってください。患者はそこを評価しています。

3)Patient Note
 私は絶対に手書きよりもtypingをお勧めします。断然読みやすく,採点者にも好まれるようです。日頃から友人にe-mailを書く癖をつけることをお勧めします。記述に際しては図に沿って書いていくだけのスタイルになります。最初に鑑別疾患と必要検査の欄から記入してください。USMLEの公式サイトにtyping用のフォーマットがあり有用です。

4)用いるフレーズ
 人の数だけ英語があるように,参考書の数だけ引用されているフレーズがあり,本当に頭を悩ませられます。しかし,試験中に用いるフレーズは一種類に絞り英語に関して煩わされないようにします。自分の気に入った短いフレーズを固執して繰り返し使用することをお勧めします。たくさんのフレーズを覚えることは混乱のもとになります。

試験の準備

 カプランの特訓コースやエクスターンが最もよい方法であるとされていますが,勤務している者にとって,まとまった休みを取ることはそう簡単ではありません。仕事の合間でも準備をすることができれば最も効果的・経済的ではないでしょうか。私の経験上,最も推奨できるのはオンライン参考書であるusmleworld(usmleworld.com)で,その内容は他を圧倒します。ビデオクリップによる実際の診察風景も勉強することができますし,オンラインの利を使い,そのつど頻出事項がアップデートされ非常に有効です。総論部にある理学所見の記載はその台詞を丸暗記する先生も多いと聞きます。図の語呂合わせはこの参考書から引用しています。3人ほどの勉強仲間で,互いが医師,患者,採点者になり勉強することができます。この参考書を繰り返し勉強することをお勧めします。

出題の予想される症例

 種々の参考書やUSMLE公式サイトをもとに私なりの予想問題を作りました。参考にしていただければ幸いです。

(1)19歳女性,2か月に及ぶ血便と腹痛
(2)23歳女性,入眠困難
(3)54歳男性,3週間続く咳嗽
(4)63歳女性,3か月で10キロの体重減少
(5)42歳男性,数時間前に突然始まった左胸痛
(6)19歳女性,半年の無月経
(7)17歳女性,検査結果で受診(淋菌性膣炎の説明)
(8)68歳女性,高血圧の内服薬再処方
(9)生後3か月,授乳不良(母親から電話相談)
(10)51歳女性,3週間の左肩部痛
(11)66歳男性,3週間の右肘部痛
(12)生後2か月,昨日から発熱(父親が心配で受診)
(13)38歳女性,半年の月経不順
(14)29歳男性,3日間の肉眼血尿
(15)40歳女性,多発外傷
(16)4歳男児,夜間の咳嗽(祖母が話を聞きに受診)
(17)38歳男性,10日間の下痢
(18)41歳男性,1週間の粘血便
(19)56歳男性,勃起持続困難
(20)50歳男性,突然始まった頭痛

Step2CS受験のタイミング -より具体的な計画性を

 米国研修を思い立ったまさにその時点で,プログラム応募までの具体的なスケジュールをきちんと立てることを強くお勧めします。例えばStep2CSの受験時期としてはStep2CKの数か月以内がよいと思います。Step2CSの準備の大半はその「英語をどうするか」に煩わされることになり,症例に対する医学的知識に関心を持つことは自然と低くなります。Step2CK直後はまだ試験知識が豊富にあり,Step2CSに必要とされる知識のほとんどをカバーしてくれます。ですので,Step2CK受験後は純粋に英語の準備だけに時間を割くことが可能となります。

 また,私のように各試験が終わるごとに「次は何かな」という場当たり的な準備では時間をかなり浪費してしまいます。Step1合格直後にStep2CSとStep2CKの両方の申し込みをすることをお勧めします。Step2CSに関してだけでなく,マッチングに至るまでの時間軸を詳細に検討し,各試験の申し込みにかかる数週間,結果を得るまでの数週間,ECFMGが卒業大学の成績証明書と卒業証明書を検証するのに(これらは米国医師免許証の発行に必須です)必要とする最大数か月の時間,などといった動かせざる部分をしっかりと把握して,試験日程を組むことが時間の節約並びに成功の秘訣となります。

 各論的にStep2CSに関して説明しました。また,「腕時計は文字盤を手掌側に設置し,ノートに書く素振りでさり気なく確認する」,「問診で咳嗽の所見を得たらHIVと結核についての問診をすること」,等といったtipsはたくさんあるのですが,3人集まってシミュレーションをする際に,外から眺めることでこうしたtipsは自然と浮かびます。Step2CSでは時間配分が試験の鍵となります。15分というごく限られた短い時間ですべてをこなすには普段からの準備が重要です。友人を募り十分にシミュレーションを重ねてください。

(おわり)


※本連載中の症例はUSMLEの公式サイト,問題集,予備校等を通して収集した情報にもとづくものであり,筆者が実際の試験で経験した症例とは一切無関係です。

松尾高司(メリーランド大学産婦人科レジデント)
1999年宮崎医大卒,同年阪大産婦人科入局。2004年セントルイス大産婦人科研究員を経て,05年より現職。