医学界新聞

 

新たな第一歩に向け,基本にかえる

第7回日本褥瘡学会開催


 さる8月26-27日,第7回日本褥瘡学会が穴澤貞夫会長(慈恵医大第三病院)のもと,横浜市のパシフィコ横浜において開催された。今回のテーマは,「褥瘡医療の基本にかえる」。褥瘡に対する意識が今後も高まっていくことが予想される中で,褥瘡医療の新たな第一歩となる治療ガイドラインの最終案が日本褥瘡学会の治療ガイドライン策定委員会によって提示された他,理事長を退任する大浦武彦氏(廣仁会褥瘡・創傷治癒研究所)による講演が行われた。


「考える治療,看護」

 大浦氏は理事長講演において「かつて褥瘡は治らないものとして,医療から見放されていた」と学会設立時を振り返った。しかしその後,体圧分散マットや創傷被覆材,評価スケールの開発,さらに褥瘡対策未実施減算の追い風を受け,褥瘡を取り巻く状況は改善されてきている。氏は今回作成されたガイドラインについて「これを踏み台にさらなる向上をめざしてほしい」と期待を述べ,多く選択肢から患者1人ひとりに合ったものを選んでいく「考える治療,看護」の必要性を強調した。

 会長講演では,穴澤氏が西洋医学史における創傷管理の変遷を紹介しつつ,創傷治療の基本概念を解説。創傷治癒に影響する局所環境因子として「細菌量,温度,酸素分圧,pH,湿潤」をあげ,ハイドロコロイド材などの創傷被覆材では適度の細菌増殖(一定量の細菌は治癒促進的に働く),保温,湿潤,弱酸性,低酸素環境と,治癒に適した環境が作られると述べた。

 しかし一方で,創傷周辺の正常な皮膚は湿潤環境では逆に傷害されることから,「皮膚にも傷にもやさしい創傷被覆材」の開発が望まれるとした。

早期での診断,治療が重要

 褥瘡の重症例では,適切な治療,ケアを行っても,治癒に長期間を要する。したがって,できる限り予防し,発生しても早期のうちに短期間で確実に治療することが重要となる。パネルディスカッション「早期褥瘡の診断と治療」(司会=慈恵医大・三浦英一朗氏,秋田大・村山志津子氏)では,各施設の知見が発表された。

 林田良三氏(済生会日田病院)は,超音波検査による重症度診断について口演した。17例において超音波検査と通常の診断を行った結果,全例で診断が一致。また,ドプラ断層像で血流の有無から壊死組織の診断が可能であることを示唆し,超音波検査はより早期の診断法として,役立つのではないかと述べた。

 大浦氏は褥瘡のポケット形成の機序について説明。壊死は圧のかかる皮膚表面と骨突出部周辺の組織で発生し,両者がつながることで壊死組織が排出され,ポケットが形成される。氏は表層と内部の壊死がすぐにはつながらないサンドイッチ状の壊死があることを指摘,「皮膚表面の浅い褥瘡と診断されたものが,やがて内部の壊死と貫通して深い褥瘡になる」と注意を促した。

悪化の予測は可能か

 水原章浩氏(三和会東鷲宮病院)と佐藤美和氏(東女医大第二病院)は,褥瘡の評価スケールで軽度と判定されたものでも,悪化する場合があることを指摘。佐藤氏は「二重に発赤が見られる」「ガラス圧診で全面消退しない」場合,悪化する傾向が高いことを示唆。水原氏は「見た目が軽度でも皮下組織まで傷害されている場合がある」と,十分な観察の必要性を強調した。

 紺家千津子氏(金沢大)は創周囲皮膚の洗浄効果について発表。感染の予防や表皮形成の促進といった効果が得られ,治癒期間の短縮が見られたことを報告した。

 田辺敬子氏(榊原記念病院)は,小児の心臓カテーテル検査において,膝の固定部位に軽度の褥瘡が発生することを指摘。圧迫ベルトに対する除圧対策を検討し,除圧マットを挿入することで軽減されることを示唆した。

 最後に登壇した岩本拓也氏(中津胃腸病院)は自施設の褥瘡対策委員会活動について口演。医師,看護師,薬剤師,管理栄養士など多職種による組織横断的な委員会を立ち上げ,体圧分散マットや創傷被覆材の導入や2時間おきの体位交換を行った結果,大幅に褥瘡を減らすことに成功(27名→12名),重症症例も減ったことを報告した。氏は「委員会を作ることにより多職種の知識,技術を活かせ,院内格差のない均一なケアが行える」とその利点を強調した。

■在宅治療を阻む法制度を問う

 パネルディスカッション「褥瘡医療と法制」(司会=青葉病院・中條俊夫氏,共立女子短大・登坂有子氏)では主に褥瘡の在宅医療における問題点が議論された。

 美濃良夫氏(阪和第一泉北病院)は褥瘡対策未実施減算に加えて2004年に新設された褥瘡患者管理加算について言及。診療報酬が1回入院につき20点と,特に長期の入院では求められる対策内容に見合わないものであることを指摘した。

 また,創傷被覆材の保険適用は最大3週間と算定回数制限が設けられており,実際に要する治療期間と格差があること,機能別分類により創の深さから創傷被覆材が決められているため,最適と思われるものが使用できず,特定保険医療材料のため医師による処置しかできないといった問題もあげた。

 創傷被覆材の3週間という制限には,塚田邦夫氏(高岡駅南クリニック)も異議を唱え,「3週間の制限は無意味。現状では患者の家族が直接問屋から創傷被覆材を購入するか,ストーマ用皮膚保護材で代用するなどして対応している」と述べた。

 また,より一層の医師の関与が必要であるとし,在宅医療への医師関与推進策として往診・処置料の増額も必要なのではないかと提言した。

看護師への期待

 柴崎真澄氏(宮城大)は看護師の立場から在宅医療にかかわる医療保険,介護保険の問題を指摘。訪問看護師による褥瘡処置料の算定や,教育を受けたヘルパーの褥瘡処置の認可など,法改正の必要性を強調した。

 沼田美幸氏(セコム医療システム㈱)は,創傷被覆材を固定するテープがはがれかけた時,貼り替えは医療行為になのか,ヘルパーではなく看護師を呼ばなければならないか,といった実際に起こりうるケースについて説明。医師法および保健師助産師看護師法を解釈すれば,テープを貼り替えるのは専門的判断や技術を必要としない処置であり,可能であるとの見方を示した。

 最後に司会の中條氏は,「法改正には,看護師にもっと裁量権を与えるべき,との国民の声が大きくなることがまず第一。在宅医療での実践を積み重ね,古い法律を改正できるようしていかなければ」と議論をまとめた。