医学界新聞

 

多面的視点を有する学生の育成へ

第132回医学書院看護学セミナーの話題より


 さる8月4日,第132回医学書院看護学セミナーが宇都宮総合文化センター(宇都宮市)にて開催された。『考える学生を育てる「看護倫理」の授業展開』と題し中尾久子氏(九大)が講演。欧州・米国・日本の看護倫理の歴史の比較や倫理の基礎から,事例検討を通し看護倫理を考える教育法の実例,さらに教育内容や授業展開方法について紹介。満員の会場から拍手が送られ,盛況の中セミナーが終了した。


看護倫理の実像と変遷

 「倫理教育は難しく考えられていますが,実際,倫理というものは日常の看護行為の中に含まれていると私は考えています」と中尾氏が語り,セミナーが始まった。

 「手を毎回洗うことや,患者さんの様子を把握し,身体に負担が少ないケアを行うなど,日々行っている看護行為の中に倫理的思考・行為が伴っています」と説明。そして現在,看護倫理の必要性が高まっている背景について,医療技術の進歩・価値観の多様性・患者の権利意識の高まり・社会の要請などの看護職を取り巻く環境の変化をあげた。さらに医療法や保助看法の改正や医療制度,看護職の役割の変化が大きいと述べ,「看護師によるインフォームドコンセントなど,社会から寄せられる看護職に対する理想と期待が高まっている表れではないでしょうか」と言及した。

 次に看護倫理教育の変遷を紹介。教育改革による指定規則の変更により,1951年に「看護倫理」と独立科目として規定されたが,1967年の改正で「看護概論」に吸収。その後,1996年の改正時に看護学全体を網羅する基盤として,倫理教育の必要性が述べられている。しかし,施設間で教育の質に開きがあると推察されると続けた。

 さらに欧州・米国・日本の看護倫理の歴史を紹介。「看護職の周囲の環境が異なっても基本は変わらないこと。つまり患者の視点にたち,患者の権利を守る。患者の自然回復を最大限にする援助を行うこと」と強調した。

「気づき」から「問題解決」へ

 基礎教育における看護倫理教育には,(1)医療従事者としての人間性,(2)柔軟な感性と知的な思考能力,(3)異なる価値観や選択肢に耳を傾け検討する姿勢を育むことが必要。そして学生は知識学習量が多い反面,実践経験は不足しているとも述べた。

 例として,ベッド柵で囲まれて身動きの取れない患者さんがいても,「縛られていないので身体拘束ではない。特に問題ない。看護が必要と思わない」と,問題が隠れていることに気づかない学生もいる。これは患者さんの苦痛を感じたり・推測することができないことであり,よりよい看護へと続かない。そのためにも倫理的問題のある事例検討を行う必要性を説いた。

 事例検討を始める際,賛否の立場に分かれやすい,なるべく単純で身近に考えられる事例を選択することが求められる。そして「これが正解です」といった教え方や考えの押しつけをしないこと。また,すぐに問題解決できなくても,時間をかけて解決していく方法などを提示し,継続的に取り組むことの必要性など,考える機会を与えてほしいと述べた。

 また,看護倫理は講義のみでは倫理的な感性や考え方は身につかず,演習を通じて自分の考えを持ちながら他者の意見に耳を傾け,考えを深めていくことが重要と語った。

 なお,セミナーの詳細は雑誌『看護教育』11月号(医学書院)に掲載されます。