医学界新聞

 

連載全4回

USMLE最近の動向
Step2CSを中心に

第3回 Step2CSの対策(前編)

松尾高司(メリーランド大学産婦人科レジデント)


2642号よりつづく

Step2CS最近の傾向

 CSA(Clinical Skills Assessment)からStep2CSへと名称並び採点方法が変わったのと同様に,試験内容にもまた若干の変化が見られます。下記の項目はStep2CSに見られる新しい傾向です。当然のことですが,すべての問題がこれらの項目から出題されるわけではなく,依然として出題される問題の多くはCSA同様にcommon diseaseと呼ばれるごくありふれた疾患に基づく症例です。

1)電話事例
2)カウンセリング
3)患者の家族への応接
4)家庭内暴力
5)小児の症例
6)多様な模擬患者層,アクセント
7)乳部触診,直腸診
 (モデルを用いて)
8)模擬患者から医師への質問
 (Challenge Question)

 それでは上記の各項目についてそれぞれ確認していきましょう。

1)電話事例
 ドアに提示された患者情報としては「親が子どもの状態に関して電話で問い合わせをしてきた」という類いのものです。室内に入ると机の上に電話器が設置してあり,スタートボタンを押す旨,指示があります。ボタンを押すと別室に控えている模擬患者が電話に対応します。通常の症例と違い患者への理学検査を行うことはできません。その代わりに親を通して子どもの全身状態や食生活等の特徴を説明してもらいます。問診体系も通常の症例と違い,「○○ちゃんは最近病気をしたことがありますか?」といった第三者的表現になります。しかし問診内容は通常のものと変わりません。理学所見にあてる時間がない分,問診を十分に行い,効果的なtransitionを用い,親へ丁寧な説明を行うことで,ついあまりがちな試験時間を十分に活用し得点をあげます。
 たとえ診断名を問われても電話を通しての断言的なコメントは控えます。結びのコメントでは必ず受診をさせる約束をします。また,たとえ日本語であっても電話を通しての会話は時として難しい場合があります。英語でそれをする場合はさらに難しいと思います。それは受験者の英語を聞いている模擬患者側も同様です。ゆっくり大きな声で質問し,理解していないと思われる場合は,同じフレーズを繰り返すのではなく,より簡素な質問をさらにゆっくりと丁寧に行うことが望ましいでしょう。個人的な英語教師を活用し,電話対応のトレーニングをするのは効果的な練習方法ではないでしょうか。

2)カウンセリング
 受験者に英語を話させることでコミュニケーション技術を評価するのが目的と思われます。カウンセリングを行う症例としては以下のような場合があります。

a)患者が結果を聞きにだけ受診。しかし,検査結果はSTD(Sexually Transmitted Disease)等を指摘。
b)いわゆるSecond Opinionとして受診。
c)通常症例で問診上喫煙や飲酒等の嗜好歴を指摘。
d)家庭内暴力[項目4)で説明]
e)うつ病などの精神疾患

 ほとんどの症例はc)の場合であると思われます。通常の問診に際しては,喫煙,飲酒,違法ドラッグ,性交に際し避妊をしていない,服薬コンプライアンスが悪い等の所見は積極的に「見つけにいく」ことを普段から心がけてください。万が一これらの所見を得た場合は,サマリー中に最低でも「あなたの喫煙を心配しています。禁煙の意思はありますか?」等のコメントを行います。出題頻度としてはa)も多いようです。この場合,模擬患者に対して理学所見はとれませんが,「確認させてください」という理由で問診はポイントを絞ります。例えばSTDであった場合は診断の告知およびその治療の必要性,また子宮頚癌やHIV(Human Immunodeficiency Virus)のスクリーニングを勧め,性交に関してはコンドームの使用を奨励し,パートナーの治療に関しても言及します。STDは子宮外妊娠,不妊症の原因にもなることも説明します。STDのようにごく一般的な症例がこのStep2CSでの頻出問題となっています。b)では前医を非難するような言及は控えます。e)うつ病のような精神疾患では理学所見を最低限に絞り,カウンセリングに重点をおきます。

3)患者の家族への応接
 患者に代わってその両親や祖母等が受診します。「子どもの喘息が心配で」「子どもが熱をだして」等です。患者への対応は基本的に電話事例と同じです。診断名の断言を控え,なるべく早くに受診させる旨を説明します。電話事例でもそうですが,必ず最初に子どもの名前を尋ね(名前をほめるとさらによいです),問診をする際は積極的にhe/sheでなく「○○ちゃんは」とすることで子どもへの関心があることを示すことは重要です。

4)家庭内暴力(Domestic Violence: DV)
 模擬患者は腹痛やうつ状態といった違う主訴で受診し,「私は夫に暴力を受けている」とは絶対に言いません。ですから,疑った場合はよいですが,たとえ疑わなくても多くの症例でルーチンワークとして「夫や家族との間に問題はありませんか」と聞きます。少しでも疑った場合,「夫から暴力は?」等の特異的な質問に切り替えますが,多くのDVの症例でそうであるように,1回きりの質問で患者が返答することはありません。2,3度聞き直します。

 DVを示唆する重要な所見としてはbruiseと呼ばれる皮膚の変色です。積極的に見つけにいき,他の鑑別疾患に並んでDVを列挙し,「I have a concern about the bruise here. Could you explain what happened?」等と質問します。患者がDVを認めた場合,できる限りの精神的サポートを示し,理学検査は最低限に控え,カウンセリングにできる限りの時間をあてます。

5)小児の症例
 1)電話事例や3)患者家族と重複しますが,小児の症例で重要なことは問診内容にあります。下記は子どもへの問診に際し必須の項目です。

・子どもの出生(Birth)
・既往疾病歴(Illness)
・言語発達(Language)
・食欲(Eating Habits):体重・身長の増加含む
・睡眠(Sleeping habits)
・聴力発達(Hearing)
・ワクチン歴(Immunization)
・視力発達(Vision)

 これら項目の頭文字をとって「Biles, HIV」つまり「胆汁とHIV」と語呂憶えをします。Step2CSの問診に関してはこうした語呂憶えが非常に重要になります。数多くの問診事項を的確に導き出すことは時間の節約になり,ひいてはスムーズな試験運びへとつながります。数あるStep2CSの参考書には残念ながらこの小児症例用の語呂合わせが現在まだありません。上記は私の作成したものですが,もちろんこれだけを問診すればよいのではなく,「Biles, HIV」に加え,従来の語呂合わせである「PAM HUGS FOSS」および「LIQQORAAA, FCS V/N ET」を効果的に組み合わせます(次回参照)。

6)多様な模擬患者層,アクセント
 模擬患者の特徴は非常にさまざまです。
年齢:10代からお年寄りまで
職種:学生,社会人,ホームレスまで
人種:アフリカ系,アジア系,ヒスパニック系
言語:同じ英語であっても,上記人種層を背景にさまざまなアクセントに遭遇します。特にebonicと呼ばれるアフリカ系アメリカ人の独特のアクセントは聞いたことがない場合かなり大変です。また10代の少年少女は平気でスラングを用います。
 「このような多種多様な模擬患者がいる」という心構えを事前に持つことは実際に試験会場に入ってから戸惑うことを考えると重要なことではないでしょうか。試験会場では英語以外の言語の使用は一切禁止されています。会話はすべて記録されており,使用した場合は合格の取り消しもあると聞いています。アジア系の模擬患者から「コンニチハ」と日本語で尋ねられても決して日本語で返答せず,「日本語お上手ですね」と英語でサラリと受け流しましょう。

7)乳部触診,直腸診(モデルを用いて)
 これは実際に今試験で導入されているかどうかは別として,今後十分に遭遇しうると思います。実際に模擬患者自身に上記検査をしてはいけませんが,それらが必要と思われる症例では,室内に乳部や肛門部のモデルが設置してありますのでモデルに対して検査を行います。

8)模擬患者から医師への質問(Challenge Question)
 模擬患者が「医師に向かってチャレンジする」という概念からか,この名称で呼ばれています。これはほぼすべての症例で経験します。すべての模擬患者はその医師との会話中のどこかにおいて何らかの質問をするよう事前教育されています。これは非常に重要な部分ですので,次回詳しく説明を行います。

 Step2CSの新傾向を説明しました。従来のCSAに対する準備に加えて上記項目に十分精通し,特に次回述べるChallenge Questionに関しては事前に十分準備をしておくことをお勧めします。

つづく


※本連載中の症例はUSMLEの公式サイト,問題集,予備校等を通して収集した情報にもとづくものであり,筆者が実際の試験で経験した症例とは一切無関係です。

松尾高司
1999年宮崎医大卒,同年阪大産婦人科入局。
2004年セントルイス大産婦人科研究員を経て,05年より現職。