医学界新聞

 

進歩するスクリーンリーダー


 スクリーンリーダーのJAWS Ver6.2日本語版の発表が7月27日,品川インターシティ(東京都)にて行われた。開発には石川准氏(静岡県立大)をプロジェクトリーダーに,メンバーの5名中4名が全盲の技術者・パワーユーザーで構成されたチームが携わった。

自ら取り組み作る姿勢

 一般のコンピュータは,画面上で選択肢を表示し選択するGUI(Graphical User Interface)が採用されており,健常者には扱いやすいシステムである。しかし,GUI想定外ユーザーである全盲者などは,扱えないという側面を持つ。スクリーンリーダーは「画面上に書かれた文字情報を過不足なく,その状況において必要とされていると予想される情報を読み上げる」GUI想定外の視覚障害者が扱うための支援ソフトである。

 石川氏は「多様な身体的特徴を持ったユーザー・環境的条件のもと,不自由なく快適に操作できるよう設計されたユニバーサルデザインのコンピュータは,現在,残念ながらありません。しかし,不足している部分については,開発されるのをただ待つのではなく,『自分たちの道具は自分たちで作る』という信念を持ち,行動することが必要」と語った。

 また氏は「コンピュータ自身が理解できる情報形式で提示する仕組みが実装されれば,理想のスクリーンリーダーが実現するだろう」とも述べた。

「持続可能な開発を」石川准氏に聞く

 スクリーンリーダーは,私たち視覚障害者にとっていわば「人工視力」です。スクリーンリーダーがあれば,全盲でもコンピュータの画面を読むことができます。これだけでも,私たちは劇的に自由と自立性を取り戻すことができ,大きな喜びとなります。

 スクリーンリーダー開発には,先輩の視覚障害者の方から学んだ「自分たちの道具は自分たちで作る」という心意気が大きな力となりました。ぜひ,この気持ちを若い世代に伝えていきたいと思います。障害者も託された「たすき」を繋いで走る駅伝の走者です。走力に優れた者も,走力のあまりない者も,それぞれなりに走ることができます。そしてどちらもやがては時がきて止まります。走れる間は全力で走る。そして,次の走者に「たすき」と「希望」を託す。私たちにできることはおそらくこれだけでしょう。

 また,スクリーンリーダーはイキモノです。いつもケアし,成長させ,新しい技術に対応していかなければ有用性をすぐに失ってしまいます。ユニバーサルデザインとはほど遠いコンピュータ環境の現実にあって,スクリーンリーダーはその都度,巨大なつじつま合わせをしなければなりません。自分の世界で完結する通常のアプリケーションよりも,頻繁に改良していく必要があります。

 しかしマーケットが小さいため,開発はハイコスト・ローリターンになり,この分野の開発プロジェクトの多くが短命です。続けられなくなるのです。いかに持続可能な開発を行うかが,スクリーンリーダー開発の大きな課題です。しかし,だからこそおもしろく,やりがいがあります。