医学界新聞

 

後期研修,専門医教育のあり方を議論

第37回日本医学教育学会開催


 第37回日本医学教育学会が7月29,30日の両日,加我君孝会長(東大)のもと,「医学教育の国際化:受信から発信へ」をメインテーマに東大安田講堂(東京都文京区),他にて開催された。本紙では,医学界の今後に大きな影響を与えるであろう「後期研修」のあり方が議論されたシンポジウム「卒後研修:医師のキャリアデザイン」,医学生選抜や基礎教育の現状に警鐘を鳴らしたGordon L. Noel氏による特別講演のもようを報告する。


 シンポジウム「卒後研修:医師のキャリアデザイン」(司会=聖路加国際病院・福井次矢氏,東大・北村聖氏)では,卒後3年目以降の「後期研修」に関して,地域医療や専門医教育のあり方も含めて議論された。

 市村公一氏(メディカル・プリンシプル社)は,「民間医局」登録の研修医を対象に行った後期研修に対する意識調査の結果を発表(回答数152)。病院選びの際に重視するのは,指導体制,プログラム,症例数が上位を占め,次いで所在地や給与などの待遇面であったと報告。研修に求めるものは,「専門診療科の知識・技術」はもちろん,「基本的診療技術の向上」「専門医資格取得へのサポート」にも関心が強い実態を明らかにした。また,3年目以降の給与に関しても質問が設定され,「2年目より給与の下がる病院にはいかない」と「希望の病院であれば下がるのもやむを得ない」がともに約3割で拮抗する結果となった(特に市中病院から大学病院に進む際,3年目に給与が下がる可能性がある)。

 亀田隆明氏(亀田総合病院)は,各学会の到達レベルが統一されていない,現行の専門医認定の問題点を指摘。国民の評価に耐えうる制度構築のために,各診療科の実力養成の指標を設定し,適切な評価・待遇を実施するなど,学会・厚労省等が協力して専門医制度の強化に努める必要性を述べた。また,亀田における研修医の手技評価・認定の仕組みやキャリアサポート室の活動を紹介。後期研修では,達成目標を明確にするoutcome basedのプログラムが大切であると語った。

 関根信夫氏(東大)は,「キャリアデザインプロジェクト」と銘打った東大の後期研修プログラムを紹介。病院共通のフォーマットのもと全診療科の研修コースを設定し,各年次での研修場所や身分,各科の研修協力病院を紹介するとした。東大のリソースを活用し,「臨床と研究の両立をめざす」「包括領域をめざす」など,多様なニーズに対応できるのが特徴。

地域で医師育成システム構築,診療科ごとの定員制を

 竹内靖博氏(虎の門病院)は,虎の門の後期研修制度を説明。処遇に関しても明らかにし,身分は「期限(3年間)の定められた正規職員」,卒後6年目以降は各科での対応とした。大学病院との相違点は,(1)厳格な定員制,(2)医師プール機能(医師供給機能)の欠如,(3)大学院機能の欠如,の3点を提示。(1)に関しては,「身分と待遇は保証されるが,希望に応じた配属は不可能」と市中病院の特性を述べた。

 初期臨床研修の必修化で中心的役割を担った矢崎義雄氏(国立病院機構)は,後期研修においても達成目標や経験すべき疾患が明示されたプログラムが必要であると強調。中小病院では総合的な研修が難しいことや,関連病院とのたすきがけ研修が地方大学では難しくなった現状を危惧。大学と市中病院が協力し,地域で医師育成システムを構築する必要性を指摘した。また,大学では後期研修に定員を設けないことも多いが,定員制による診療科偏在の防止が必要との見解を示した。

 国立病院機構の後期研修制度(専門領域毎に3年ないし5年)の概略も説明。最初の3年間を関連領域も含めたジェネラルな研修の場と位置づけた,現行の専門医制度に偏重しないプログラムを示した。また,研修後に「診療科診療医」として修了認定され,かつ同機構の医員として採用された場合には,学位取得と同等の処遇面の評価がなされると説明した(これまでは専門医に待遇面の優遇措置はなく,あるのは学位取得者のみ)。また,同制度は大学等との人事交流も視野に入れたものであると説明し,いわゆる「囲い込み」との見方を否定した。

 ディスカッションでは,会場から活発な質問がなされ,医師の地域・診療科偏在の問題も含めて関心の高さがうかがえた。後期研修における指導医の育成,特にジェネラリストの役割も確認された。

■医学教育変革に向けた海外からの提言

 特別講演では,日本の多数の病院で医学生・研修医と接してきたGordon L. Noel氏(オレゴン健康科学大)が,日本の医学教育の変革に向けた提言を行った。

良医の資質持つ学生の選抜を

 氏は優れた医師を教育するためにもまず,「よい医師になれる学生が入学しているか」を重要なポイントとして提示。アメリカでは筆記試験のほか,作文(「なぜ医師になりたいか」)や面接,学外活動経験の審査など多様な選抜方法が実施されていることを紹介した。またこうした観点から,医師としての適性が定かでない高校生の段階で医学部を受験する日本の選抜試験の再考を促した。

 さらに,「臨床医学と基礎科学はともに教えられるべきである」との立場から,日本では基礎と臨床の関連付けが薄いことを指摘。これらが統合されたカリキュラムを構築するためのコンセプトとして,臨床医の基礎医学への参画や小グループ学習,症例に基づいた問題解決などをあげた。早期臨床体験の有用性にも言及し,「医学部3・4年での臨床体験,5・6年での統合された基礎科学教育」という形式を提案した。また,卒業時に基本的マネジメントスキルを身につけるため,クリニカル・クラークシップの重要性も強調。その際に必要なのは,「全科での短期見学経験ではなく,内科・外科でコモンな問題の診断と治療について学ぶこと」とした。

 その他,教員の育成のために「教育で昇進できる任用制度」,女性医師の育成のための「託児所の活用」(2004年米メディカルスクール卒業者の45.9%が女性)についても言及。最後は,これまでの論点を整理した医学教育の目標を提示し,これらの達成には国民的コンセンサスが不可欠であると補足し,講演をまとめた。