医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 書評・新刊案内


医療職のための包括的暴力防止プログラム

包括的暴力防止プログラム認定委員会 編

《評 者》加納 佳代子(八千代病院・顧問)

暴力の連鎖を断ち切る,画期的な提案

 画期的な書籍が世に出た。このことがあらゆる分野の看護職に伝わってほしいと思う。

 医療の世界に公然と存在しているにもかかわらず,誤解と偏見の再生産を恐れて手をつけることができなかった「暴力」というテーマ。しかし今や,それに真正面から取り組み,その不幸な連鎖を断ち切る仕事が医療者に求められている。この書籍の登場は,私たちにそう語りかけている。

看護教育にどれほどの影響を与えるか
 包括的暴力防止プログラムは,「暴力」という不適切なコミュニケーション手段をとらざるを得なかったもっとも苦しんでいる当事者を守る。同時に,「暴力」の被害者となることから逃れ当事者を守りたいと葛藤する援助者を守る。本書は,その「考え方」と「具体的技術(スキル)」を紹介する1時間のDVD付き研修用テキストである。

 まず強調しておきたいのは,本書が「暴力」によって援助者と当事者が引き離されることを最大限防ぎ,できるだけ早い時期の関係修復が可能になることを志向していることである。そしてなによりも,当事者自身に「暴力的な行為を回避する力をつけたい」という主体性が育まれることを追求している点が“画期的”である。

 「患者さんと同じ立場にたって援助する」という視点でものを見ることのできる看護専門職であれば,このテキストがこれからの看護教育にどれほどの影響を与えるのかが理解できると思う。

ボディメカニクスの応用技術
 「実践編-身体介入マニュアル」のDVDをみてすぐに気がつくのは,ボディメカニクスの視点から説明がなされていることである。美しく,なおかつ最小限の力で最大限の患者の力を引き出すことができるのは,それが合理的な身のこなしとなっているからであろう。

 移動技術に用いられるボディメカニクスは今では介護・看護教育では基本となっているが,残念ながら現場のあらゆる援助者が身につけるには至っていない。身体技法としての移動技術が身についている者にとっては当たり前かもしれないが,合理的で詳細な説明がなされているのがいい。

DVDで見るだけでなく
 腕をつかまれるとか,髪の毛をつかまれるとかの暴力行為は,どの分野の看護職も経験する。このプログラムは精神科医療において開発されたものであるが,攻撃のサイクルモデル(穏やか-不安-怒り-攻撃-怒り-不安・抑うつ-穏やか)のなかでのリスクマネジメント,治療関係の構築,観察,環境調整,ケアプランの調整,認知療法などを包括している点で,精神科以外でも使いやすいのではないか。DVDで視覚的に訴えられやすい「身体介入技術」を単にやり方として模倣するのではなく,自分の身体に覚えさせて身につけることが,他の援助技術のスキルアップにもつながっていくものと思われた。

 暴力への対処法は,海外では保健医療に携わる者が当然身につけるべきスキルとしてプログラム化されているにもかかわらず,国内では体系化されてはこなかった。本書が登場したことを契機に,今後さらに現場の援助専門職の手で洗練され,改訂されていくことを期待している。

B5・頁220・DVD付き 定価2,415円(税5%込)医学書院


ケースで学ぶ
子どものための精神看護

市川 宏伸 編
鈴村 俊介,高峯 アヤ子,櫻田 信敏,森 哲美 編集協力

《評 者》野村 勝子(多摩病院看護部長)

小児精神科看護は子育ての原点

 評者が,都立梅ケ丘病院に看護科長として就任した時の病院内の印象は,それまで看護師として勤務した病院とは異なり,時間がゆったりと流れているように感じた。それまでは1日が8時間では足りないと思うような勤務をしていたので,正直,看護師として「果たしてこれでいいのだろうか」と思ったものである。

 小児専門病院に勤務していた時,今でいう「摂食障害」の中学生が入院してきた。家族に重大な疾患があるのではないかと心配され,入院となった患者さんである。食事の時間になっても頑なに拒否され,看護師は,ひたすら食事を勧める働きかけをしていたが,拒食は続いた。次に,心の内でどのような変化が生じたかわからなかったが,「やせすぎだから,食べなくては」と残飯入れの物まで口にするようになった。

 現在,その当時のことを省みると,患者さんの心に目が向いておらず,身体症状,検査データで判断し看護をしていたように思う。「拒食」という行動が訴えていたものは何か,看護師に求めていたものは何かなど,この本の中に示唆されており,患者さんを理解することの難しさとともに看護の奥の深さを痛感させられる。

 小児精神病院に入院してくる患者さんは,大なり小なり親子関係や家庭内の問題,または学校友人関係等で傷ついている場合がある。入院して,最初は見慣れぬ環境で戸惑い不適応な行動が見られることもあるが,やがて心が安定する場所であることがわかると,看護師の言葉に率直に応じるようになる。小児精神科看護師の役割は,患者さんにとって心安らかな癒しの環境作りであり,これから大人へと成長していくための成人のモデルとなることである。この本は,これらの活動への取り組みがまとめてあるが,小児精神看護に携わる看護師だけでなくとも活用できる内容である。

 新任看護師の方,看護学生の方,また患者さんの対応に悩んでいる看護師の方々に,自分の行動について振り返りを行う時,足りなかった部分を省みる時,紐解く本として大いに役立つのではないかと思う。また,教育の場の先生方にも,理解し難い行動をとる児童・生徒の行動を理解する手引書として,大いに活用してもらえばと思う。

A5・頁320 定価3,360円(税5%込)医学書院