医学界新聞

 

寄稿

オープニング・スペース:家族看護に対話を
第7回国際家族看護学会開催

新井陽子(北里大学大学院看護学研究科博士後期課程)


 第7回国際家族看護学会(7th International Family Nursing Conference)が,2005年6月1-4日,カナダのブリティッシュ・コロンビア州のビクトリア市で開催された。同学会は1988年にカナダ・カルガリー大のLorraine Wright氏を学会長に,カルガリーで第1回が開かれ,その後大体3年ごとに開催されている。今回は日本家族看護学会国際交流委員会により「第7回国際家族看護学会とカナダ家族看護研修ツアー」が企画され参加する機会を得たため,その様子を報告する。

語りで家族の苦悩や希望を知る

 今学会はビクトリア大看護学部とブリティッシュ・コロンビア大看護学部の共催で,14か国から参加があった。日本からは66名が参加し,カナダ,アメリカに次いで多い参加者数だったと思われる。テーマは『オープニング・スペース:家族看護に対話を』。基調講演では「家族看護:挑戦と好機」と題して,Suzanne Feetham氏(米国),Shirley Hanson氏(米国),Wright氏(前出:カナダ)らの家族看護学を理論的に理解し実践している先生方6名が,家族看護の直面している問題や学問的体系,今後の課題についてパネルディスカッション形式で問題提起した。また,Catherine Chesla氏が「看護科学と慢性疾患:家族生活の苦悩と可能性の言語化」というタイトルで講演。この中で慢性疾患を持つ患者の家族は複雑な人間関係を持ち,苦悩とその対極としてある可能性や希望を持っている。看護者は語り(Narrative)を通し家族の苦悩や希望を知り,それに対する理解や反応を言語化し返していくことで,病いにおける新たな価値を見出していけるとし,疾患を持つ患者だけではなく家族にも目を向けて支援することの重要性を強調した。

諸外国では家族ケアプログラムを看護職が作成

 一般演題は,母性,小児,成人,老人,精神,地域とすべての領域で発表された。日本からは25題の演題発表があった。母性領域では親役割への適応を促進するためのケア,新生児・早産児の家族と看護者とのコミュニケーションに焦点を当て,どのように家族ケアをすすめていくかが報告された。小児領域では,糖尿病などの慢性疾患を持つ子どもと家族へのケア,子どものヘルスプロモーションに関する発表が多くみられた。成人では慢性疾患を持つ家族のケア,家族内暴力に関する研究,高齢者の介護に関する研究,その他には,家族看護モデルの開発,家族看護教育に関連する発表があった。すでに確立されている家族看護モデルを実践した結果の発表,臨床において家族ケアのプログラムを作成しその効果を発表するものも多く,家族看護が臨床の中で大きく発展してきていることを改めて実感することができた。

 今回の学会発表の中で印象に残ったことは,諸外国では看護職により家族ケアのプログラムを作成し,臨床において積極的に看護介入を行っているということである。日本でも家族ケアは今までも多く行われており事例検討は多くなされている。これからは,今までの経験をもとにEBNに基づいた家族ケアプログラムを作成して家族への支援を考えていけるとよいのではないかと感じた。

日本から2人が受賞

 6月2日には学会主催のバンケットが開催された。今回は新たに家族看護学の発展に貢献した先生方にInnovative Contribution to Family Nursing Awardが贈られた。それぞれの国で家族看護理論の本を出版し,研究および実践を行い,家族看護学の発展に貢献し,リーダーシップを発揮したと認められた10名で,日本からは,杉下知子先生(三重県立看護大),森山美知子先生(広島大)のお2人が表彰された。参加している私たちにとっても非常に嬉しく,楽しい時間を過ごすことができた。

臨床の看護師・保健師とも交流

 今回は学会に参加する前の5月30日-6月1日までカナダ家族看護研修が企画された。5月30日にはビクトリア大看護学部助教授Young氏の家族看護に関する講義やカルガリー大Bell氏・Wright氏による「家族,病いと苦悩:上級家族システム看護実践」の講義が行われた。また,カナダの家族ケアを学ぶために,Canuck Place: Children's Hospice(子どものホスピス)やChildren's & Women's Health Centre of British Columbia(子ども病院,女性病院&ヘルスセンター,サニーヒル・子どもヘルスセンター,子どもと女性の健康研究所),Sooke Child, Youth and Family Centre(バンクーバー島Sooke市にあるヘルスセンター)の訪問を行った。

 Sooke Child, Youth and Family Centreは森の中にある可愛らしい建物の中に,保健,福祉,教育(保育園)など異なった9つの団体が入っており,子どもおよび家族を支援している。これは地域住民の要望でできた施設である。問題を持つ家族にはさまざまな職種が関わることが多く,家族がそれぞれのところに出向くことになり,時間も労力も必要とする。1つの建物にさまざまな職種が入ることは家族が利用しやすく必要な支援が受けやすい状況ができる。また,それぞれの職種も同じ建物内であることで情報交換がしやすく,支援しやすいという利点がある。家族を中心にした支援を考える時,このように1つの建物にいくつもの団体・専門職がいることは家族にとっても専門職にとってもよい方法であると感じた。

 学会のみならずカナダの家族看護の講義を受けたあとに臨床で実践している看護師・保健師たちとも交流の機会を持つことができた。家族支援の方法はそれぞれの国に適した方法があると思うが,今回学んだことを今後の家族支援に活用していけるのではないかと考えている。

 次回は2008年にタイで開催される予定。日本の家族看護は,保健師,助産師により家庭訪問をしながら家族支援を行ってきた歴史がある。また,近年では訪問看護ステーションなどで看護師による家族支援を行っており,日本は昔も今も家族看護を積極的に行っている国である。次回の開催国は同じアジアの国でもあり,日本から多くの参加者とともに行き,わが国で行われている家族看護をぜひ紹介したい。